ヘッドホンの話 | インテルメッツォ日記〜その後

インテルメッツォ日記〜その後

京王線仙川にあった小さなオーセンティックバーの元マスターが振り返るちょっと粋な日々

バーだから独りで来られる見知らぬお客さま同士が共通の話題で意気投合することがよくある。

昨夜もipodなどのコンピュータオーディオの音質についてお客さま同士が話をしていた。
そのうちヘッドホンで音が変わるよという話になり、「私、家が近いのでちょっともってきますよ」と片方の男性が言い、10分後オーストリア製のAKGというえらくごついヘッドホンを自宅から持ってきた(地元のバーっぽいでしょ)。
私ももう一人のお客さまもヘッドホンで音が変わると言ってもたかが知れていると思っていました。実際私が家で映画を観る時に使っている日本製の高スペックなヘッドホンもどこかヘッドホン特有の平面的なわざとらしさが残りますし。
お客さまがそのごついヘッドホンを装着し、iPhoneの中に入っているラフマニノフのピアノコンチェルト(なぜかこの方、この曲が大好きでこればかり聴いている)を流した途端、表情が変わったのを私は見逃しませんでした。その後、私も貸してもらいましたが、違いは明らかでした。ヘッドホンをしているはずなのにそこにはあたかもひとつの空間が存在しているかのような空気感があったのです。それはクラシックの専用ホールの正面S席にすわった時の空気。なにがどう違うというのか。カタログ上のスペックだけなら私の持っているヘッドホンの方が遥かにいいはずでしたが、出てくる音は歴然と違います。

「結局、人の手、最後は職人技なんですよ。これ、説明しろって言われてもできないでしょ」
「・・・確かに」
無数の因子の組み合わせを感性で積み上げていく作業はまさに職人のセンス。そういえばウィスキーのブレンドの技術もそうだなと思いました。
音楽の都ウィーンのヘッドホンはクラシック音楽を知り尽くした人の手が確かに介在していました。