~ここまでのあらすじ~

死んだイザナミに会うために黄泉の国に来たイザナギ。
イザナミに覗くなって言われたのに
ついに覗いてしまったら……!?

~ここまでがあらすじ~


イザナギは、ついに扉をそっと開けてしまいました。
かすかな隙間から、わずかな灯りを頼りにイザナミの姿を目にします。




ところが、そこにいたのはイザナギが知っているイザナミではありませんでした。


あんなに美しかったイザナミ。
しかし、黄泉の国のものを食べてしまったイザナミは、
既にこの世の者ではないのです。


身体は朽ち果て、腐った皮膚には無数の蛆虫がたかり、
その声も澄んでいた生前のものとは打って変わり、咽び塞がっています。
さらに黄泉の国の神である雷神8柱が体にまとわりついていました。



あまりに変わり果てたイザナミの姿を目の当たりにしたイザナギは恐れおののき、その場から逃げ去ろうとします。


イザナミはイザナギが逃げようとするのに気付いてしまいました。

そして自分のこの醜い姿を見られてしまったことにも。






イザナミは、自分の死よりも哀しかったのでしょう。

愛するイザナギに、こんなにも醜くなってしまった姿を見られてしまったことが、
そしてその事実を受け入れられず、イザナギが逃げ去ってしまったことが。

この時点で、イザナミは完全に黄泉の国の神と化します。

日本の国土を産み出した夫婦神、イザナギとイザナミは、
ここに完全に離別し、敵となってしまいました。


イザナミは逃げるイザナギを捕らえるため、配下の黄泉醜女(よもつしこめ)を追手として放ちます。


すぐにイザナギに追いつく黄泉醜女。

イザナギも逃げようと必死です。

そこでイザナギは、蔓草(つるくさ)を輪にして頭の上に載せていたものを投げ捨てました。
すると葡萄の実がなり、黄泉醜女がそれを食べている間にイザナギは逃げることができました。


しかし、葡萄をあっという間に食い尽くした黄泉醜女は、再び追いかけてきます。

イザナギは右の角髪(みずら……卑弥呼の家来の男の髪型みたいなやつ。ロン毛を2つに分けて、耳のところで輪っかにしたみたいなアレ)につけていた、
湯津津間櫛(ゆつつなくし)という竹製の櫛を投げつけました。

すると今度は、たちまちタケノコが生えたのです。

黄泉醜女がそれを食べている間、またまたイザナギは走り、逃げることに成功しました。


それに対し、食い意地の張った黄泉醜女では役に立たないと感じたイザナミは、
先ほど身体にまとわりついていたの8柱の雷神と、
黄泉軍(よもついくさ……黄泉の国の兵士達)を1500人動員し、
イザナギを追わせました。




イザナギは、持っていた十拳剣(とつかのつるぎ)でその大勢の追手を振り払いながら逃げますが、相手は大軍。
振り払っても振り払っても追ってきます。


やっとの思いで黄泉の国と現世の境である
『黄泉比良坂(よもつひらさか)』の下に着いた時、
そこにあった桃の実を3つ投げたところ、
追ってきた黄泉の国の悪霊たちは逃げ帰っていきました。


ここで、イザナギは桃に
「これからも、この世の人々が困っている時には助けてくれ」
と言って、
『意富加牟豆美命(おほかむずみのみこと)』という名を付けました。

余談ですが、桃にはこのように邪気を祓う性質があると古代中国では考えられていました。

それが日本にも伝わり、この神話にも表れているのでしょう。

他に桃の邪気を祓う力を象徴する話としては、
『桃太郎』がありますね。





さて、イザナミですが、追手という追手が全て失敗に終わってしまったため、
ついには自らが立ち上がり、イザナギを追いかけます。


そこでイザナギは、1000人がかりでもなければ動かないような大岩で黄泉比良坂(よもつひらさか)を塞ぎ、
イザナミや他の黄泉の国の悪霊が出てこないようにしました。



その岩を挟み、イザナギとイザナミは最後の会話を交わしたのです。



「私はこれから、1日に1000人ずつ殺そう。」

イザナミは言い放ちます。

イザナミは身も心も、黄泉の国、死者の世界の神となっていたのです。
そして以後、イザナミは『黄泉津大神(よもつおおかみ)』とも呼ばれるようになりました。


イザナギはあくまで生にこだわり、生を貫きます。

イザナギは言いました。
「それならば私は、決して命が滅びぬよう、
1日に1500人ずつ生ませてみせよう」と。




これが、イザナギとイザナミの、
永遠の別れとなりました。



イザナミは死の世界へ。

イザナギは、生の世界へと戻っていきました。










次回、ついにアマテラス登場!
お楽しみに!
死んだイザナミに会うために、
イザナギは黄泉の国へ赴きます。


死者の世界というと地下にあることを想像しますが、
日本神話での黄泉の国は地上にあったと見るのが良いようです。

出雲地方、つまり島根県に黄泉の国があったとされています。

イザナギは黄泉の国へ向かいました。



……たぶん、徒歩で。




往路は難なく辿り着くことが出来ました。


イザナミは、家の中にいたようで、扉越しにイザナギは話しかけます。


「なぁ、僕たちが一緒に作ってきた国土はまだ完成していないじゃないか。
帰ろう。
一緒に帰って、また一緒に暮らそうよ!」


イザナギは必死に訴えます。

しかし、扉の向こうにいるイザナミの返答は、悲しい声に満ちていました。

「もう……遅いわ。
私はもう黄泉の国の人間になったのよ。
この国のものを食べてしまったら、もう元に戻ることはできないの!」


黄泉の国の食べ物を口にしたら、もう生き返ることは出来ない。

これが、ルールでした。


しかし、イザナギは諦めずに扉越しに話しかけます。


懸命の説得により、イザナミも活路を見出だそうと心を動かしました。

「…黄泉の国の神に聞いてくる。戻る方法があるかどうか。
でも約束して。
絶対にその扉を開けないって。
絶対に私の姿を見ないって。」

そう言って、イザナミは奥へと消えていきました。

イザナミが戻ってくるのを、イザナギは扉の前で待ち続けました。

しかし、戻ってくる気配が一向にありません。


イザナミに言われた通り、扉の向こうでじっと待っていたイザナギでしたが、
とうとう我慢が出来なくなってしまいました。


辺りは暗闇に包まれています。
イザナギは自分の髪につけていた櫛の歯を1本折り、
それに火を灯し、
とうとう扉をそっと開け、

イザナミの姿を覗き見てしまったのです。
~これまでのあらすじ~
混沌から天と地が分かれたあと、
天に神が生まれ、
イザナギ・イザナミの2神が大地に島々を産み出しました。

~ここまでがあらすじ~


以下、本編。


イザナギ・イザナミは大地に島々を産み出した後、
今度は数多くの神々を産み出します。

その神々は、家(建物としての)や自然を象徴するものでした。

山の神や海の神、木、川、岩の神、石の神などです。

この時に産まれた神々は互いに夫婦になり、さらに多くの神々を産み出しました。

名前は省略します。

なんたって日本神話、
『八百万神(やおよろずのかみ)』と言われるくらいですから、
このあとも神の名をいちいち挙げていってはキリがありません。
なので、この先は最低限の神の名前しか出しません。あしからず。



さて、イザナギとイザナミ。


この2神の交わりによって産まれたのは、
カグツチという神で最後となります。


以後もそれぞれの身体などから多くの神は生まれるのですが、
イザナギ・イザナミの交わりによってはもう産み出されなくなってしまいます。


先ほどのカグツチという神。
これは火の神で、
カグツチを産み出す時にイザナミの「成長していない部分」が焼けてしまい、
それが元でイザナミは病に伏してしまうのです。

病に苦しむイザナミの吐瀉物や尿便からも神が産まれました。

苦しみの末に、イザナミはついに命を落とします。


妹であり、妻でもあったイザナミの死。

兄であり、夫でもあったイザナギは悲しみに暮れます。

イザナギのこの時の涙からも神が産まれます。



イザナギは、イザナミの亡骸を現在の島根県にある『比婆の山(ひばのやま)』に埋葬しました。

そして、イザナミの命を奪ったカグツチを、『十拳剣(とつかのつるぎ)』で斬り殺しました。

この十拳剣は「拳10個分くらいの長さの剣」、
つまり「長い剣」というくらいの意味合いで、
固有名詞ではありません。

日本神話では、これ以外にも『十拳剣』が何度か登場しますがそれぞれ別物。

カグツチを殺した十拳剣には、『天之尾羽張(あめのおはばり)』という別名も付いています。


イザナミの死体や、カグツチを斬った際の血、そしてカグツチの死体からも次々と神々が生まれていきました。



さて、イザナギはカグツチを殺したあとも、
イザナミの死をなかなか受け入れられません。

そこで、死んだイザナミに会いに行こうとします。


死者たちの国である『黄泉の国(よみのくに)』へ、イザナギは旅立ちました。





次回、イザナギはイザナミに会えるのか!?

お楽しみに!