薬剤師のためのEBMお悩み相談所-基礎から実践まで

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こんにちは、黒田です。


片頭痛の予防に用いる薬物は、一度開始すると特に問題が生じない限りはずっと継続となるパターンが多いと思います。ときに疑問に思うのですが、こうした薬物を使っていることで、どのくらいの恩恵がもたらされているのでしょうか。発作が全然起きていないようなケースでは、患者自身が薬を継続する意義を感じにくいことも考えられ、そうした場合にある程度はっきりしたことを伝えられる知識が必要だと感じました。


そこで、今回は片頭痛予防薬の効果に関して定量的に検証した文献を読んで、その内容をまとめることにします1)



 

文献の内容

  • P: 片頭痛予防治療を受けていない患者
  • E1: バルプロ酸500mg/day
  • E2: プロプラノロール徐放錠40mg/day
  • O: 主要評価項目は、治療反応者の割合、4週平均の頭痛頻度の減少
  • T: 単施設オープンラベルRCT

 

  • ランダム化:年齢や教育状況にやや偏りがあるようにも見えるが、片頭痛に関するパラメータは特に偏りなく割付けられている
  • ITT解析:守られていると記載あり


試験期間は12週。上記1日量は分1で投与されるが、効果不十分な場合はもう1回追加服用できるデザイン。オープンラベル試験なので、プラセボ効果は大きめに出るかもしれない。もっとも、この試験は両群とも実薬なので、極端にどちらかに有利に偏ることはないと思うが・・・。また、両薬剤の規格が日本で使われているものと微妙に異なっているので、解釈の差異には注意を要する。



発作頻度や重症度、持続時間に関する結果はTable 4に記載されているので、以下に引用。最終的には、4週ごとの発作頻度が、両薬剤群とも3回程度減少している。





治療反応率に関する結果はTable 6にまとめられているので、同様に下に引用。最終的な反応率は薬剤間で大きな差はないようだ。増量を要した被験者の割合はプロプラノロール群で多いようだが、サンプルサイズの関係で、このあたりは何とも言えないところ。





副作用については、傾眠と食欲増進が、両薬剤とも10%程度で見られる等、大きな差異はない様子。





発作頻度が4週あたり3回程度減少するというのは、言い換えれば予防薬を使わなかったとしたら、月に3回余分な発作を経験するはずだったということですから、患者にとって結構インパクトが大きい数字といえると思います。また、発作ごとの重症度と持続時間も改善しており、特に持続時間は半分かそれ以下となっていますから、こうした意味でもメリットが大きいでしょう。


加えて、今回の被検薬はどちらもかなり安価。予防目的で使用する薬剤にとっては重要です。費用対効果の面では、ある程度自信をもって説明が出来そうです。



では、また次回に。





Reference

  1. Dakhale GN, et al. Low-dose sodium valproate versus low-dose propranolol in prophylaxis of common migraine headache: A randomized, prospective, parallel, open-label study. Indian J Pharmacol. 2019 Jul-Aug;51(4):255-262. PMID: 31571712






 

 

こんにちは、黒田です。






少し前に、スボレキサントの類似薬である、レンボレキサントが発売になりました。個人的な感想としては、何よりもまずその商品名に面食らったのですが・・・それはさておき、スボレキサントの方を取り扱うことはちょこちょことありますので、いつ何時レンボレキサントも使うことになるかわかりません。


そこで、レンボレキサントの基本的な情報を整理し、その後に関連する文献を参照したいと思います。




 

基本的な薬物情報

まずは、セオリー通り添付文書から基本的な情報を抜粋してまとめておきます1)

 

 

  • 規格・剤形:2.5mg錠、5mg錠、10mg錠
  • 効能効果:不眠症
  • 用法用量:通常、成人には1日1回5mgを就寝直前に経口投与。症状により適宜増減し、1日1回10mgまで増量可
  • 代謝・排泄:主にCYP3A4による肝代謝
  • 禁忌:本成分に対する過敏症、重度の肝障害
  • 作用機序:オレキシン受容体OX1およびOX2の阻害による
  • 副作用:頻度が高いのは、傾眠、頭痛、倦怠感
  • その他:イトラコナゾール、クラリスロマイシンなどのCYP3A4阻害作用を有する薬物を併用する場合は、1回量を2.5mgとする



類似薬であるスボレキサントは、クラリスロマイシンなどの強力なCYP3A4阻害作用を有する薬物と併用禁忌ですが2)、レンボレキサントの方は1回量を減らせばいちおう併用OKということのようです。あまり積極的に行いたいものではありませんが、これらの薬物を使っている場合にどうしてもオレキシン受容体拮抗薬が必要なケースでは役立つかもしれません。


なお、用法が「就寝直前」となっています。正直、実臨床上は就寝前でも別に構わないと思うのですが覚えてはおきます。就寝直前が用法となっている薬物には、ほかに類似のスボレキサントやゾルピデムがあります。


副作用にも特段変わったものはないようで、添付文書を見る限りはスボレキサントとの大きな相違点はCYP3A4阻害作用を持つ薬物との併用に関する注意点くらいに思えます。



 

プラセボ・ゾルピデムとの比較試験

ここからは、レンボレキサントの効果を検証した臨床試験を見ていきます。引用したのは、プラセボ及びゾルピデムとの比較試験3)。いつも通り、PECOTからまとめます。
 

 

  • P: 55歳以上の不眠症患者
  • E1: レンボレキサント5mgまたは10mg
  • E2: ゾルピデム徐放錠6.25mg
  • C: プラセボ
  • O: ポリソムノグラムによる睡眠潜時および維持のベースラインからの変化
  • T: 二重盲検RCT

 

  • ランダム化:外部者によるコンピューター生成ランダム化スキームによって行われている
  • ITT解析:各群に割り付けられた全員が解析に含まれており、守られている



介入は1か月で、ポリソムノグラムは最初の1・2日 (これがベースラインに相当) および最後の29・30日に測定。外泊が必要な手技なので、これは妥当。



主要評価項目である、29・30日における睡眠潜時の対プラセボ幾何平均治療比 (95%CI) は、それぞれ以下の通り。
 

  • ゾルピデム:1.22 (1.06 to 1.40)
  • レンボレキサント5mg:0.77 (0.67 to 0.89)
  • レンボレキサント10mg:0.72 (0.63 to 0.83)



ゾルピデム群の4名およびレンボレキサント5mg群の2名が重篤な有害事象を生じたが、いずれも治療とは関連ないものとのこと。ほかの有害事象の大部分は軽度~中等度。



ゾルピデムと比較して睡眠潜時が短縮しているのは、少々意外な結果でした。オレキシン受容体拮抗薬自体が、著明に入眠障害を改善するイメージがなかったので・・・。試験デザインに関して気になる点は、ゾルピデムが徐放錠になっていること、そのdoseが6.25mgであることです。日本では普通錠で使用される薬物で、超短時間作用型としてもっぱら入眠障害に利用されますが、徐放錠となることでこうした特徴にも少し変化が生じている可能性があります。


また、6.25mgという1回量も日本ではまずお目にかからないものです。ゾルピデムの規格は5mgおよび10mg錠ですから、基本的にはそのどちらかを1回量にすることが大半で、この試験の対象である高齢者では5mgから開始するのが一般的です。6.25mgはこれに近い量といえますが、徐放化されることで効果と用量の関係にもいくらか影響があると考えられます。


こうした点を考慮すれば、日本で普通に使用されるゾルピデム錠との優劣に関しては判断が難しいと思います。あくまでもプラセボとの比較の方を参考にするのがよさそうです。そちらに関しては普通に効果が認められているので、実用上問題ないと思います。


本当ならば、同一の作用機序を持つスボレキサントとの比較を行った結果を知りたいところですが、それはさらなる研究結果を待ちたいと思います。


では、また次回に。



Reference

  1. デエビゴ錠 添付文書 エーザイ株式会社
  2. ベルソムラ錠 添付文書 MSD株式会社
  3. Rosenberg R, et al. Comparison of Lemborexant With Placebo and Zolpidem Tartrate Extended Release for the Treatment of Older Adults With Insomnia Disorder: A Phase 3 Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2019 Dec 2;2(12):e1918254. PMID: 31880796





 

こんにちは、黒田です。







インフルエンザで抗インフルエンザ薬を処方された人の家族から、「この薬を使えば、家族にインフルエンザがうつるのを防げるのか?」という旨の質問を受けました。論理的に考えるなら、ノイラミニダーゼを阻害することで体内のウイルス量はいくぶん減るはずですから、排泄されるウイルス量も減るはずです。しかしながら、ゼロにすることは当然できないので、手洗いなどの標準的な予防法は引き続き行うよう、このケースでは説明しました。


しかし、考えてみれば患者に対する抗インフルエンザ薬投与によって、家庭内感染を本当に減らせるのか、減らすとしたらどのくらいなのか、量的に回答できるほどの知識がありません。そこで、これを今回のテーマとして調べてみることにします。





 

読んだ文献

抗インフルエンザ薬と家庭内感染について調査した研究が、果たしてあるのか不安でしたが、ありました。文献1です。いつものようにPECOTからまとめていきます1)。なお、今回の文献は権利の関係で抄録しか参照できなかったので、悪しからずご了承ください。
 

 

  • P: バングラデシュ・ダッカに住んでいる1歳以上のインフルエンザ患者
  • E: オセルタミビル
  • C: プラセボ
  • O: 家庭内二次疾患およびPCRで確認されたインフルエンザ感染
  • T: RCT



治療は5日間。被験者 (その家族の人数) は、以下の通り。

  • 全体:1190 (4694) 名
  • プラセボ群:592 (2292) 名
  • オセルタミビル群:598 (2402) 名



主要評価項目である、家庭内二次疾患の件数 (割合) は、それぞれ以下の通り。プラセボ群基準のオッズ比 (95%CI) は、0.77 (0.60 to 0.98) だったとのこと。

  • プラセボ群:233 (10%)
  • オセルタミビル群: 196 (8%)



PCR分析については、検体の提出率が57%と低かったため、インフルエンザ感染率はよくわからなかったようだ。





上に抜粋した、二次疾患率8および10%という数字を用いて計算すると、RRR、ARR、NNTはそれぞれの以下のようになります。
 

  • RRR=(10-8)/10=20%
  • ARR=10-8=2%
  • NNT=1/ARR=50



NNT=50と聞くとイマイチに感じるかもしれませんが、これは家族1名が発症するのを減らすために50件の投与が必要という意味なので、世帯の家族人数が多ければその家庭内での発症予防におけるNNTはもっと小さくなります。両親+子供1名という核家族でも25、子供が二人なら17となりますから、そう考えればまあまあインパクトがある数値にも思えます。家庭内にハイリスクの人がいるような状況ならば、抗インフルエンザ薬を投与する方向に判断が傾くでしょうし、NNT=50はもっとも悪い条件下での数字と思ってよいかもしれません。


とはいえ、抗インフルエンザ薬の投与によって劇的に家庭内感染を減らすことができる、というわけではないので、あくまでも「ないよりはマシ」程度のものでしょう。また、言うまでもないことですがワクチンの代わりになるものでもないので、説明の際には誤解を与えないように注意する必要があります。


では、また次回に。



Reference

  1. Fry AM, et al. Effects of oseltamivir treatment of index patients with influenza on secondary household illness in an urban setting in Bangladesh: secondary analysis of a randomised, placebo-controlled trial. Lancet Infect Dis. 2015 Jun;15(6):654-62.