小田急不動産は、小田急線経堂駅東10階建マンションの建設を今年4月にも着工する予定で、近隣住民「守る会」が猛反対している。唐突な10階建計画に憤慨の色を隠せない。

 

東側隣接の区立山下公園は、長年地域住民が親しんできた。掃除など自主管理をしながら子供たちの遊び場、ラジオ体操やコミュニケーションの場として大切にしてきた。著しい環境変化による利用者への心理的影響を心配している。

 

現在、世田谷区が説明会や意見交換会をとおして住民と事業主の会話を取り持っているが、住民側は、事業主とその親会社小田急電鉄、そして世田谷区への不信感をつのらせており、事態は混沌としている。

 

場所は世田谷区宮坂二丁目24。小田急グループが経堂駅東側ゆりの木通り沿いに開発してきた商業ビルとマンション群の最東住宅街で、区立山下公園西側隣地。これまで小田急電鉄が保有するハイウェーバス車庫兼事務所だったが、子会社の小田急不動産に売却され、マンションの建設販売事業がスタートした。

 

この事業は、小田急電鉄の経営マターになっていることが分かっている。小田急不動産の社員が、住民との会合会場に不注意で忘れた内部資料から明らかになった。資料を持ち主に届けるため資料内に手がかりを探そうと閲覧した住民の不作為で判明した。

 

発見者の話では、反対運動の中心メンバーが地図上にプロットされた資料もあったそうだ。そんなものを公共の場所に忘れる企業の個人情報管理はどうなっているのか、と声を荒げた。小田急電鉄星野社長は、知る由もないだろう。

 

住民の怒りの矛先が小田急電鉄に向いているわけではない。むしろ日本経済を背負って立ってきた大企業の伝統的価値観と使命感に期待しているようだ。住民不安を理解する姿勢と階数削減を小田急電鉄にも求めていく方針だ。

 

しかし、これは小田急電鉄にとって非常に困難な判断になる。株主利益の維持と伝統的企業価値観が天秤にかかる。

 

近年、「物言う海外株主」の経営参加が問題となっているが、小田急電鉄も例外ではない。世界的な投資グループ「ブラック・ロック・グループ」の株式保有比率が上昇し、2023年3月時点で5%を超えている。

 

ブラック・ロックの運用資産は日本のGDPの2倍に相当し、ユダヤ系米国人の会長兼CEOラリー・フィンク氏は、世界経済を動かせる人物。2023年10月5日に同氏が迎賓館で開催した世界の機関投資家との晩さん会には岸田総理も出席している。

 

いまのところブラック・ロックが過剰な経営介入をしている痕跡はないが、伝統的な殿様商売はもう通用しない。小田急電鉄星野社長の選択肢は限られている。

 

ところで、住民は世田谷区の対応にも不満を抱いている。法令等諸規制に適合している限り世田谷区として本事業を止める法的な根拠がないと説明しているからだ。また、世田谷区が事業者寄りだと感じていることも不満の一因だろう。

 

しかし、世田谷区の言動も分かる。行政が法的な根拠なく区民の権利を制限することはあり得ない。あったら大変のことだ。

 

また、世田谷区にとって小田急グループは社会インフラ整備の重要なパートナーでもあり、少なくとも敵ではない。住民同様、企業に対しても善意で対応するだろう。マンション建設による子育て世代の流入は、区の活性化と税収改善にも結びつく。

 

現在議論の中心は、公園利用者、とりわけ子供たちへの心理的影響のようだが、これは事業主がどんなに資料を作成しても必ず「あり得る」。福島原発事故であれ、運輸省が満を持して建設した巨大防波堤であれ、東日本大震災で想定外が現実に起こったのだ。

 

権威ある機関の冠を被せた報告書をいくら作成しても意味がない。むしろ、「公園の真横に10階建の建物を建てたら、そりゃ影響ありますよ」という社会通念が勝つだろう。

 

住民側は、まったく反対しているわけではない。マンション建設が子供たちへの未来資産だということも十分わかっている。ただ、一方的な妥協と譲歩を住民に求めるのは酷だ。

 

小田急グループは、この反対運動がエスカレートして建設・販売時期に係ることを見落としてはいないはずだ。住民側は、業を煮やして実力行使に出る可能性がある。

 

小田急側は、住民側を理解する真摯な姿勢と、小さくとも譲歩することが求められている。世田谷区にも忍耐が必要だ。

 

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