本日は、外国人労働者の受け入れに関する記述問題を扱います。
この議論は、大人からしてみれば、かなりナーバスな話で、やや説明しにくい話ではありますが、社会の未来を考えれば、必要な議論でもあります。
そうした議論から逃げない姿勢についての学校の期待があらわれた問題かもしれません。
このようなナーバスな議論について書くときには、個人的偏見に偏らないこと、そして、この問題には幸い誘導がありますが、メリット、デメリットをいずれも客観的に網羅することが必要になります。
私が指導している生徒さんの政治に関する話を聞いていると、よくご両親の好き嫌いによる影響を受けていることを感じます。なかなかむつかしい話ですが、このような問題に向き合うには、好き嫌いではなく、こういう考えもあり、またああいう考えもある、そして、立場により、それぞれが正当な考え方で、その意見の調整のために政治があり、政治による調整で世は動くということを話されることが必要になります。
問題
日本では、2018年10月末の時点で約150万人の外国人が働いています。以下は厚生労働省による外国人を雇用するうえでの、その時点における法律の内容の一部です。
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・教育、医療、スポーツなどの特定分野への就労が可能である |
・留学や就労を目的とする者のアルバイトに許可が必要で、 その場合は就労時間が制限される |
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・観光、知人や親族への訪問等を目的とする短期滞在の 外国人は原則として就労を禁止する |
この法律を『すべての外国人は日本人と同じ条件で、あらゆる業種に就く機会を得られる』と改正すれば、外国人労働者が増えると考えられます。この改正に対する賛成意見と反対意見にはどのようなものが挙げられるか考え、2つずつ説明しなさい。ただし、日本の社会や企業にどのようなメリット・デメリットがあるかに関して答えること。
解説
どうして制限があるのか、また制限がないのはどのような項目なのかを考えることで、メリット、デメリットの双方が見えてきます。
①就労分野の制限について
教育・医療・スポーツといった、個人の技能の高さが要求される分野につき、就労が可能とされている一方、それ以外の個人の高い技能を要さないような分野について就労が不可とされています。
これは、教育、スポーツといった文化的な分野や、医療といった最先端の分野に高い技能を有する外国人を受け入れることで、それぞれの分野の振興を図る狙いがあるものと考えられます。
一方で、一般的な技能を有する職業への外国人の就労を制限することで、国民の雇用を維持する狙いがあると考えられます。しかし、一般的な技能を有する労働者に関しても、少子高齢化のあおりを受けて、地方を中心に人口が減少し、人手不足や、消費が減ることによる地方経済の縮小が進んでいる現状があり、その現状に合わせた就労分野の拡大が図られています。
②留学生の就労制限について
留学生については、生活に最低限必要な限りで就労を認めるという意図が読み取れます。
これは、アルバイトがなくても留学できる留学生に限らず、幅広く留学生を受け入れる狙いがあるとともに、留学が事実上の就労にならないようにする狙いがあることが読み取れます。
余談ではありますが、日本が幅広く留学生を受け入れるのには、人材の育成による国際貢献という目的と共に、日本とつながりのある外国人を増やしていくことで、世界で日本の企業や個人が活躍できるようにするという表向きの狙いがあります。
※少子化による、主に地方の大学の定員割れの現状の救済という目的もあるのではないかと指摘されています。
③非在留外国人の就労禁止
裏返して考えれば、日本に住所を持つ外国人が就労できるということです。これは、労働者の人数の把握と共に、日本に居住して、日本の文化や風土、生活習慣をある程度知っている外国人について就労を認める趣旨であると考えられます。
以上をまとめると、次のようなメリット。デメリットが考えられます。
解答例
メリット
文化や技術において、より高いレベルに到達するための刺激を得ることができる。
人手不足の解消につながる。
人口が増えることで、消費が拡大し、経済が活性化する。
デメリット
日本人の雇用を奪われる可能性がある。
日本の生活習慣になじまない外国人による生活上のトラブルがありうる。
日本人の心情や日本の風土に根差した独自の文化が失われる。
補足
デメリットを書く際に、個人の偏見に基づくネガティヴな内容の記述にならないように気をつけましょう。
たとえば、犯罪が増える、や外国人に日本が乗っ取られるなどの記述がそれにあたります。
確かに事象として見られない話、というわけではありませんが、論理必然とするには根拠が薄弱です。