本作品は、見る人を選ぶ作品ではあるし、観た後の印象がわかりやすい類の作品ではないが、カラックス的な人生批判、現代人の生活を皮肉った寓話として一見の価値はあると思う。
主人公のオスカー(ドニ・ラバン)は、一日中リムジンで移動し、朝から晩まで「アポイント」という名の元、様々な役割・職業の人間や人間を超越した生き物にまで扮し、予め決められたスケジュールの中で、その役割を完遂し、次の役割へと移行していくという不思議な生活を送っている。
時には、道端で物乞いをする老女であり、モーションキャプチャーのアクターであり、工場で働き、殺される男であり、ある娘の父親であり、銀行家を殺す殺し屋であり、チンパンジーと暮らす一家の長である。中でも、オムニバス短編「TOKYO!」でも登場したメルドの存在感は群を抜いている。手にしたものを何でも口に入れ、街や地下を「ゴジラ」のテーマソングと共に縦横無尽に歩きまわる姿には圧倒される。
彼は、役割から役割へと変貌するために、車の中でメイクを繰り返し、様々な人物へと姿を変える。役割の中には、オスカーがまるで自分を殺しているような描写も出て来るので、実体は何者なのか、撹乱される。
現実では、日々、各々が色々な役割を演じさせられ、物理的にも、精神的にも、自分を殺す事もあるし、殺されたような気分で、社会の中に適応しようとする事も往々にしてある。人間は、自分を見失いながら、自己を破壊しながら、かすかな希望を持って再生を繰り返している生き物と言えるのではないか。そんな思いに駆られながら、不思議な場所へと連れて行かれる。
最後は、駐車場に戻ってきて停められた無数のリムジンが会話をしているというシーンで映画は終わる。物語としては掴みづらいし、理解し難い作品だと思うが、自分が選択した人生を主体的に生きたいと思わせてくれた事は事実だ。まだまだ言葉では表現しきれない類のすごい作品がある事を改めて感じさせてくれた作品として記憶しておきたい。
次は、どんな作品を撮ってくれるのだろうか、今から楽しみである。
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