思い起こせば10年前、僕はまだINSPiのメンバーではありませんでした。
京都大学のアカペラサークルや軽音サークルで音楽を楽しむ、一人の学生でした。
なので、INSPiのデビュー曲「Cicada's love song」は正確には僕にとってはデビュー曲とは言えないのかも知れません。
けれど、それでも「Cicada's love song」は僕にとってとても思い出深い曲であることは間違いないのです。
当時京都のFM局α-stationのヘビーリスナーだった僕の耳に飛び込んできて、そのまま僕の心を鷲掴みにした曲こそがこの「Cicada's love song」でした。
人間の声だけで作られる音楽の説得力の凄さというか、とにかく衝撃だった。
それからは当時α-stationでINSPiが持っていたレギュラー番組を欠かさずチェックしたりしたものでした。
それからひょんなことがきっかけで、INSPiの全国ツアーにサポートメンバーとして参加することが決まり、そのツアーの最中に正式メンバーに誘われ、INSPi3枚目のシングル「風なりたい」のリリースをもって僕はINSPiの正式メンバーとなったのです。
だから、僕にとってのデビュー曲はもしかすると正確には「風になりたい」なのかも知れません。
けれど、僕は僕のデビュー曲をやはり「Cicada's love song」だと思っています。
だって、あの時あのラジオから聞こえてきたこの曲に心掴まれていなければ、僕は今こうしてINSPiとして歌を歌っていなかったのですから。
このアルバム「ありがとうでつながろう」のマスタリング(レコーディングの最終工程)をエンジニアと二人でスタジオで行っている時、チェックのためにスピーカーからこの「Cicada's love song」が流れてきた瞬間、僕は思わず涙がこぼれそうになってしまいました。
それはあの頃の自分を思い出し、それからの10年間が一気に僕の中を去来したからなのかも知れません。
または、久しぶりのアルバムをついに出す事が出来るという気持ちが、その時に実感を持って初めて起こったからなのかも知れません。
この曲をINSPiのメンバーとして歌えていることが嬉しい。それを楽しみに待っていてくれる人がいることが嬉しい。
「Cicada's love song」に限らず、今回収録した13曲にはそれぞれにそれぞれの歴史や想いがこもっています。
このアルバムを出す事が出来て本当に嬉しいです。
待っていてくれてありがとう。
そしてあなたの人生のかたわらにいつも、僕たちの曲がありますように。