飲食店の利益は、様々な要因によって減少することが多い。その原因は、原価や人件費などの経費が高騰したり、売り上げが低下するなど、利益をコントロールすることが難しい業種でもあります。しかし、安易な考えで商品の値上げや極端なスタッフの削減などを実施すると、客離れを起こしたり、客単価の低下などを招いて売り上げ減少へつながることが多いものです。

 特に、消費者は値段に敏感です。バーゲンセールへ人が群がる光景を見てもこれは理解できるものです。したがって、消費税アップが施行されると、経済が衰退することも、この要因によるものなのです。

 飲食店は利益コントロールの手段として値上げを実行することが多いのですが、この値上げに失敗すると、経営は極端に衰退してしまいますので慎重な行動が大切になります。

 

第三十一話「良い値上げ、悪い値上げ!」

 コンサルタント会社に勤務中の頃でした。私の担当ではなかったのですが、顧問先から厳しいクレームがつきました。クレームの内容は、「色々と相談しているにもかかわらず、何ら良い指導をしてもらえない!私たち小規模店は指導対象に入っていないのか?」と、いう内容でした。

 

 中小規模店の指導が主な仕事になっていた私が、この店のクレーム処理担当を指示されたことは言うまでもありません。考えてみれば、指導不足と言う事や顧問先とのコミュニケーション不足と言うことになります。しかし、コンサルタント会社にも様々な理由があって、このような問題が起きたのです。

 まず、会費のランクによって、月に二日間訪問する会社、毎月訪問する会社、二か月に一回訪問する会社、三か月に一回訪問する会社など、訪問回数が会費によって分けられていたのです。

 しかし、そのフォロー対策として、毎週月曜日は会員さんの無料相談日として、コンサルタント全員が事務所勤務と言うルールになっていたのです。

 この会員さんは、地方の山間部に位置しており、訪問するのも中々困難な地域でした。この経営者に話を聞いてみると、最近、利益が減少して経営が苦しいので、メニューの改訂を考えているとのことでした。

 

 私は早速この店を訪問したのですが、京都駅からローカル線に乗り換えて二時間、東京から4時間半の時間を要します。これでは、往復9時間必要ですから、日帰りで指導することは難しい。そこで、ホテルを取っていただき、一晩じっくり話を聞くことにしたのです。

 経営者の開口一番、「先生に来ていただいてよかったです。これまで、数回にわたってお願いしていたのですが、何の指導がなかったので、メニューはすでに改訂してしまいました。」といって、メニュー表を見せてくれたのでした。これまでのメニューと比較すると、大幅な値上げでした。

 この店が常連客が多いことを考えると、とても大きなリスクを背負うことになっていました。メニューを改定して一か月と言うことで、客単価や客数などを分析すると、極端に客数が減少していて、売り上げ減少が目立っていたのです。値上げの理由を聞いてみると、「これまでお客様にサービスをし過ぎてきたために、経営が危うくなっていたのです。ですから今度は私たちも儲けさせていただくことで、値上げしました。」とのことでした。

 

 私はびっくりして、この状態は経営にとって危険極まりない状態であることを告げ、もう一度価格の見直しを提案しました。明らかに客離れを起こしているのですから、このまま見過ごすことは出来ません。

 そこで、一品料理をセット化へ移行し、単品価格はこれまでと同じように低価格に抑えて、まず、メニューから利益を図れるよう、原価削減のために、レシピーの整備、原価率のコントロールなど、メニューより利益を求められるような対策を打ち出しました。

 

 ところが、赤字経営の原因がこのほかにもあったのです。それは、経営者が浪費家であったことです。デリバリーなども手掛けていたこの店では、地域の法事や集まりごとなどに対応するために、店舗のほかにデリバリー商品の盛り付け場を建設、配達用の車も三台も所持するなど、明らかにデリバリー売り上げに対する経費の使い過ぎでした。

 しかも、山間部のロードサイドと言う立地にもかかわらず、店内にはオートグランドピアノが設置されており、営業に全く役立つとは思えないような設備の投資もしていたのです。

 

 これでは、経費が高騰することは必然です。私は、経営者に対して、個人的な情緒で設備投資や備品の購入を控えてもらう事を約束してもらいました。そして、たまたまこの地域にいた、管理ができるマネージャーを紹介して帰宅したのです。

 

 それから6か月後、利益は順調に出始めました。マネージャーの報告では、利益が出てきたとたん、またこの社長は店舗を改装することを考えているという事でした。

 しかし、この店舗を改装しても、客席規模、立地状況などからみても大きな飛躍は考えられない。そこで、社長へ次の店舗出店を薦めたのです。

 この経営者は、大喜びで私の提案を受け入れてくれました。とにかく、浪費家と言うのはお金があれば何かしら買いたい、と言う気持ちが絶えず起こるらしいのです。

 こうして、この店は三年を待って、市内へ大規模の超繁盛店を開業することに成功したのでした。この店の問題は、メニューによる値上げが客数を減少させて、より大きな赤字を招きました。

 

 メニューをもって値上げを図るのであれば、単純に価格を値上げするのではなく、値上げは戦略的に実施するものです。例えば、一品のボリュームをアップさせて大皿料理、グループ料理などへ変更して、価格を上げることや価格構成を見直して、価格ゾーンを引き上げること。例えば、300円から500円ゾーン、500円から800円ゾーン、800円から1,200円ゾーンなどの価格帯を高騰させると、全く目立たない値上げが実現します。

 

マサのワンポイントアドバイス「値上げ成功の条件とは?」

 飲食店が深刻な営業不振に陥る理由の一つが、値上げの失敗による客離れです。今の時代、商品価格の単純な値上げは通用しません。客単価のアップによる増収か、メニューの見直しによる利益率の改善か、いずれかを目指すことになります。どちらにしても商品の付加価値(使用食材の質を高める、ボリュームアップ、食器や盛り付けの見直しなど)を高めて、お客様にお得感をアピールできるかが勝負です。

 例えば、「売り上げを増やしたい」場合では、もう一品多く注文してもらう事で客単価アップを図れるように、商品ラインアップを見直すべきでしょう。

 一方で、「利益率を高めたい」場合には、料理の質が落ちたと感じさせないように原価を見直すことが必要です。

 それと値上げの前に、徹底すべきなのがコスト削減などの経営努力です。コスト面で見直しの余地が大きい店はまだまだたくさんあります。

 利益にブレは必ず生じます。その原因を分析し、打開策を講じることは値上げに踏み切る前の条件です。食材価格が高騰した場合には、使用食材や仕入れルートの変更を。人件費の増加には従業員の配置や勤務時間の見直しを徹底して下さい。

 こうした経営努力を怠っていては、仮に値上げに成功しても、早晩、経営は行き詰ってきます。

 

次回は、第三十二話「ウェイティング客を逃がすな!」をお届けします。