アイ・ジョージ（別名：黒田春雄/本名：石松 譲冶[いしまつ じょうじ]/1933年9月27日～）は、日本の元歌手、作曲家、俳優。
1933年9月27日、石松譲冶は、石油会社の役員を務める日本人の父親と、スペイン系フィリピン人の母親との間に、当時英国領だった香港で生まれる。
3歳の頃、母が他界。
少年時代は、父の仕事の都合で、香港・大連・上海・マニラといった海外の都市を転々としながらも、不自由のない裕福な生活を送った。
1943年、父が徴兵により、当時オランダ領だったインドネシアのバタヴィア(現：ジャカルタ)へ出征することになり、父方の祖母とともに大阪へ渡る。
1944年、香川県へ集団学童疎開。祖母は大阪に一人残った。
1945年3月、大阪に残っていた祖母が空襲で亡くなったため、事実上孤児となり、長野県飯田市の果樹園へ引き取られる。
1948年、消息不明だった父が南方での服役を経て復員。ジョージは果樹園を出て、父との同居を夢見ながら大宮のパン屋に住み込みで働く。
3ヵ月後、南方での刑務所生活により体が弱っていた父が他界。
それから6年間、パン屋・菓子屋・運送屋・ボクシング選手・競輪選手・ハンコ屋等、様々な職業を転々とする。
1953年、流しの歌手としてナイトクラブや米軍キャンプで歌っていた頃、仲間に勧められてテイチクレコードの歌手採用試験を受けて合格。
同年、「黒田春雄」という芸名で、シングル“裏街ながし唄”でデビュー。菊池章子“灯かげの唄”とのスプリット・シングルだった。当時のキャッチフレーズは「第二の田端義夫」。また、「ハリー黒田」の名称も使われた。
続けて、“追憶のギター”、“心の十字路”、“オー・ハッピデー/涙のチャペル”（伴奏：バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ）をシングル発売した。
しかし、歌謡曲を歌う歌手として売り込みたいレコード会社の戦略に対して、本人はジャズ歌手として売れたい意思があったため、互いの主張が噛み合わず、また、レコードの売り上げが伸びなかったこともあり、テイチクを退社。再び、流しの歌手として日本各地を回る生活に戻った。
1959年、当時、大阪最大のナイトクラブであった高級クラブ「アロー」に外国人歌手の代役で出演する機会を得て、ステージに立ったところ大盛況であった。これで支配人に見込まれ、アロー専属歌手となる。
この頃、俳優の森繁久彌に見出され、森繁劇団の大阪・新歌舞伎座公演に出演、流し役を演じた。
12月、メキシコの音楽グループ「トリオ・ロス・パンチョス」(Trío los Panchos)の日本公演の前座を務めることとなり、芸名を「アイ・ジョージ」に改名して、改めて歌手デビュー。同じく前座歌手だった坂本スミ子共々大いに売り出す。これに伴い再びテイチクとレコード契約を結ぶ。なお、芸名は本名の苗字「石井」のイニシャル「I」(アイ)と、名前「譲冶」(じょうじ)が由来である。
1960年、シングル“ラ・マラゲーニャ（La Malagueña）／ルンバ・ハポネサ”でアイ・ジョージとして改めてレコード・デビューした。なお、“ラ・マラゲーニャ”はトリオ・ロス・パンチョスのカヴァー、“ルンバ・ハポネサ”は彼らに捧げた曲。
その後、“カチート／キサス・キサス”、“マカレナの乙女／キエン・セラ”をシングル発売。
12月31日、『第11回NHK紅白歌合戦』に初出場、“ラ・マラゲーニャ”を披露。以降、1971年まで12回連続出場を果たす。
1961年、それまで外国曲を中心に歌っていたが、初めてオリジナルの自作曲として、シングル“硝子のジョニー”(作詞：石浜恒夫/作曲：アイ・ジョージ)を発売、見事ヒットを記録した。
同年、シングル“ク・ク・ル・ク・ク・パロマ（Cucurrucucú paloma）／シェリトリンド”を発売。
12月31日、『第12回NHK紅白歌合戦』に2年連続2回目の出場、“硝子のジョニー”を披露した。
1962年1月14日に松竹系で公開された、羽仁進監督の日本映画『充たされた生活』に「吉岡弦一」役で主演。原作は石川達三の同名小説で、第12回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で上映された。
同年、壽屋（現：サントリー）「トリスウイスキー」のテレビCMソング“人間らしくやりたいナ”（作詞：開高健/作曲：アイ・ジョージ）が、坂本スミ子の“祇園でドドンパ”のB面としてテイチクからシングル発売。テレビCMにはジョージ本人が前年の1961年から出演し、キャラクター「アンクルトリス」のアニメと共演した。
なお、1960年代から日本で「ドドンパ」ブームが巻き起こったが、ドドンパ発祥の地は大阪のクラブ・アローであり、専属だったアイ・ジョージもレパートリーとした。
同年、映画『アイ・ジョージ物語 太陽の子』が東映系で公開、自伝的映画。
9月30日、日活製作の蔵原惟繕監督映画『硝子のジョニー 野獣のように見えて』が公開、アイ・ジョージのヒット曲“硝子のジョニー”の映画化作品で、ジョージも準主役級の「秋本孝二」役で出演した。
12月31日、『第13回NHK紅白歌合戦』に3年連続3回目の出場、“ク・ク・ル・ク・ク・パロマ”を披露した。
1963年10月8～10日、日本人ポピュラー歌手としては初となるアメリカ合衆国ニューヨーク市のカーネギー・ホール公演を果たす。当時は大成功と報道されたが、公演の内容は納得のいく出来栄えでありながらも、PR不足などもあって入場者が少なく、それも日本人が中心だったことから、興行的には失敗であったという。
12月31日、『第14回NHK紅白歌合戦』に4年連続4回目の出場、“ダニー・ボーイ”を披露した。
1964年6月、シングル“紅子のバラード／君の心の湖で”を発売。
同年、“阿波のついパッパ”を、「ますみ」の“阿波踊り”とのスプリット・シングルで発売。
12月31日、『第15回NHK紅白歌合戦』に5年連続5回目の出場、“紅子のバラード”を披露した。
1965年1月3日に公開された、高倉健主演・石井輝男監督の東映映画『顔役』に「桑原次郎」役で出演。
同年、歌謡曲“赤いグラス”を志摩ちなみとのコンビで歌い、ヒットした。なお、B面は志摩ちなみの“哀愁の人”を収録したスプリット・シングルだった。
同年、シングル“東京夫人／夢を呼ぶ男”を発売。
7月10日に公開された、高倉健主演・石井輝男監督の東映映画『続 網走番外地』に、高倉演じる橘真一の舎弟「大槻」役で出演。本作はシリーズ第二弾だったが前作以上に大ヒットし、その後も続編が製作される人気シリーズとなった。
12月31日、『第16回NHK紅白歌合戦』に6年連続6回目の出場、“赤いグラス”を披露した。
1966年5月18日、渡哲也主演の日活映画『赤いグラス』が公開、ジョージは準主役の「ジョー」役で出演、主題歌となった前年の同名曲“赤いグラス”をジョージとデュエットした志摩ちなみもカメオ出演した。
12月31日、『第17回NHK紅白歌合戦』に7年連続7回目の出場、フランク・シナトラの歌唱で知られる“夜のストレンジャー”（Strangers in the Night）のカヴァーを披露。
1967年12月31日、『第18回NHK紅白歌合戦』に、8年連続8回目の出場、“カチューシャ”を披露した。
1968年、この頃、“別れのバラード／雲を空を貴方を”を発売。“別れのバラード”の作詞は永六輔。
12月31日、『第19回NHK紅白歌合戦』に9年連続9回目の出場、“別れのバラード”を披露した。
1969年、スペイン人等を集めたバンド「ザ・ジャパニーズ」を結成。
12月31日、『第20回NHK紅白歌合戦』に10年連続10回目の出場、第13回以来となる“ク・ク・ル・ク・ク・パロマ”を2回目の披露。
1970年、シングル“遠くへ行きたい／なみだを拭こう”を発売。
12月31日、『第21回NHK紅白歌合戦』に11年連続11回目の出場、“リパブリック讃歌”を披露した。
1971年1月1日、シングル“自由通りの午後／プリティーエンゼル”を発売。
12月31日、『第22回NHK紅白歌合戦』に12年連続12回目の出場、“自由通りの午後”を披露した。
その後、オレンジハウスレコード(Orange House Records)へ移籍。シングル“あばよルージュよカクテルよ／人間模様（両曲とも作詞：阿久悠/作・編曲：川口真）”や、 “北緯四十三度のバラード／北の岬で待つ女”を発売。
オレンジハウス時代に発売したシングル“北国の海／ブルーカントリー”の“北国の海” は、東日本フェリーCMソングに起用された。
また、青森県イメージソング“愛してます青森”も発表した。
1973年、日本空手協会により、空手協会歌“男一途”(作詞：高木正朝/作曲：アイ・ジョージ/曲：佐伯亮)が自主制作、作曲と歌唱を担当した。
1974年、シングル“サーカスの娘／昔かたぎ”（作詞：橋本淳/作曲：中村泰士/編曲：高田弘）を、移籍した日本コロムビアから発売。
1977年、シングル“あなたはいま翔んでいますか／演歌をうたおう”を発売。
1978年、歌手生活20周年記念盤シングル“チサラ／赤いグラス”を発売。“赤いグラス”は榊原るみとのデュエットを新録。
同年、歌手生活20周年記念企画として、“硝子のジョニー／哀愁のジョニー”の組み合わせでシングルを発売。
同年、歌手生活20周年記念盤シングルとして、ラテンのヒット曲の組み合わせで“ラ・マラゲーニャ／ク・ク・ル・ク・ク・パロマ”をシングル発売。
1979年4月、シングル“Dedicato Al Mare Egeo = エーゲ海に捧ぐ／Lisa Del Mare Egeo = エーゲ海のリーザ”を発売。
7月、2枚組アルバム『無題』を発売。1枚目はコンセプチュアルなオリジナル作品を収録。2枚目はラテン音楽と歌謡曲の組み合わせ。“男一途”等を収録。
1983年4月8日公開の大原麗子主演・東陽一監督の東映映画『セカンド・ラブ』に「友春」役で出演。
2002年9月21日、ベスト・アルバム『RE-MASTER VOICE アイ・ジョージ』を発売。流行歌全盛時代のアーティストによる名唱をリマスタリングにて再現したRE-MASTER VOICEシリーズの一枚としてリリース、歌手アイ・ジョージの魅力を収めた、2枚組全32曲。収録曲は以下の通り。ディスク 1 ：1.ラ・マラゲーニャ、2.ある恋の物語、3.キサス・キサス、4.カチート、5.ク・ク・ル・ク・ク・パロマ、6.グラナダ、7.シェリト・リンド、8.国境の南、9.ベサメ・ムーチョ、10.キエン・サラ、11.ソラメンテ・ウナ・ベス、12.ルンバ・ハポネサ、13.ラ・バンバ、14.チャチャチャ・フラメンコ、15.テ・キエロ・デヒステ、16.さらばジャマイカ|陽の当たる島。ディスク２：1.ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー、2.遠くへ行きたい、3.別れの磯千鳥、4.城ヶ島の雨、5.荒城の月、6.叱られて、7.出船、8.戦友、9.ラバウル小唄、10.千曲川旅情のうた、11.さくら さくら、12.小諸馬子唄、13.ステンカ・ラージン、14.ともしび、15.トロイカ、16.ダニー・ボーイ。
2004年9月1日、ベスト・アルバム『定番ベスト』を発売、ヒット曲を16曲網羅、文字通りコンパクトに収めたCD1枚のベスト盤。収録曲：1.硝子のジョニー、2.赤いグラス、3.紅子のバラード、4.道頓堀左岸、5.別れのバラード、6.東京夫人、7.自由通りの午後、8.白いマットに眠れ、9.ラ・マラゲーニヤ、10.ある恋の物語、11.ベサメ・ムーチョ、12.キエン・セラ、13.カチート、14.キサス・キサス、15.シェリト・リンド、16.ク・ク・ル・ク・ク・パロマ。
年末、週刊誌『週刊ポスト』に、「世界規模のチャリティCD製作を謳い集めた金 2億5000万の用途不明」という見出しの記事が掲載された。
記事によれば、チャリティCDの計画は1990年頃に起ち上げたものであり、アイ・ジョージの自作曲にクインシー・ジョーンズ、マイケル・ジャクソン、マライア・キャリー、スティーヴィー・ワンダーらが参加して制作されるという気宇壮大な計画。世界規模で300億の売り上げを見込んでいるという触れ込みで、実業家らから出資を募った。集めた金は20億円以上であるという。その計画が一向に進まない上に進捗報告もないため、今回告発した実業家が調査会社に依頼して実態調査をさせたところ、CD制作が進展した痕跡も無いことが判明。他にもアイ・ジョージに対して不信感を示して告訴を検討している実業家が多数いるという。なお、記事タイトルの「2億5000万」は告発した実業家の投資額。
この告発記事について、当時マイアミ滞在中であったアイ本人の話では、「彼ら（スポンサーの実業家たち）とは制作過程でボタンの掛け違いが生じてしまった。（CDは）遅れ遅れではあるが来春（2005年春）できる。大物プロデューサーは集まって来ているし、ビッグスターとも多数接触している。参加するのは誰と言われても、いい方向でやっているとしか言えない。レコード会社との交渉はこれからだ。（自身の）年は年だが健康そのもの、悪いところはまったく無く、くたばる気がまったくしない。このプロジェクトは石にかじりついてでも仕上げる」と豪語していたが、本人が語った2005年春はおろか2021年現在まで完成したというニュースは伝わっていない。
2007年には『週刊新潮』の誌上に登場するなど、マスコミに取り上げられる金銭トラブル（疑惑）の中心人物にアイ・ジョージの名前が挙がることがあるが、その都度、本人は潔白を主張している。
2013年2月20日、ベスト・アルバム『スター☆デラックス アイ・ジョージ』を発売。収録曲は、1.硝子のジョニー (MONO)、2.赤いグラス、3.キッス・オブ・ファイア、4.ストレンジ・センセイション、5.ストレンジャー・イン・ザ・ナイト、6.東京マラゲーニャ (MONO)、7.パーフィディア (MONO)、8.東京夫人、9.櫛のうた (初CD音源) (MONO)、10.愛のきらめき (初CD音源) (MONO)、11.晩春 (初CD音源)、12.大阪の鳩 (初CD音源) (MONO)、13.黒いソフト、14.海と空 (MONO)、15.黒い瞳の、16.ソンブレロの哀愁 (初CD音源) (MONO)、17.カミノス (MONO)、18.ある恋の物語、19.泪のチャペル (初CD音源) (MONO)、20.おゝハッピー・デイ (初CD音源) (MONO)の全20曲。初CD化された音源が6曲と、ファンにはたまらない一枚。
2014年2月12日、ベスト・アルバム『アイ・ジョージ ベスト・コレクション』が発売。迫力のラテン・ミュージックや代表的ヒット曲は勿論、黒田春雄時代時代の幻の楽曲や古賀メロディなど、初CD化音源も多数収録。昭和という時代を駆け抜けたアイ･ジョージの様々な魅力が詰まった、全94曲を収めた怒涛のCD5枚組ベスト盤。
(参照)
Wikipedia「アイ・ジョージ」
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