ジャック・ブルース（Jack Bruce/本名：John Symon Asher Bruce/1943年5月14日～2014年10月25日）は、英国スコットランド生まれのミュージシャン、作曲家。ギターやピアノ等多くの楽器を演奏するが、クリーム時代に主に担当したエレクトリックベースギターで特に有名。
英国スコットランドのラナークシャー郡ビショップブリッグス（Bishopbriggs）にて、音楽好きな労働階級一家の次男として生まれる。
4歳の時、カナダに一家で移り住むが2年程で帰国。
母や兄と同じく聖歌隊に所属していた彼は、6歳頃、地元スコットランドの歌のコンクールに出場、何度か賞をもらった。当時イギリスで旋風を巻き起こしていたロックンロールには興味を持たなかった彼は、ラジオでバッハやシューベルト等のクラシック音楽を愛聴、ジャズピアノを弾く父と兄の影響もあり、10歳でピアノで即興演奏や作曲をするなど早くも才能を発揮する。
11歳頃、自在にハーモニカを操る彼を見た学校教師に見出され、母親の勧めもあり、音楽教育に熱心なベラハウストン・アカデミーに進む。当初コントラバスを専攻する予定が、担当教師が体が小さいと苦言を呈され、止む無くチェロを選択。この頃、弦楽四重奏曲を書いたが音楽教師には不評だった。 向上心に燃えた彼は、ベラハウストンに通いながら奨学金を得て王立スコットランド音楽演劇アカデミーで作曲を学ぶようになるが、モダン・ジャズ・カルテットやセロニアス・モンク等のモダン・ジャズに傾倒していた彼は、次第に形式ばった指導内容に反発を覚え、アカデミーと対立し17歳でドロップアウト。
在学中に既にダンスホールでダブルベースを弾いて稼いでいたブルースは、間もなく地元やその近辺でミュージシャンとしての活動を本格化、一時イタリアの米軍基地で働いた。
1962年、18歳の時、当時在籍していたトラッドジャズ・バンドに辟易していたジャックはロンドンに降り立ち、通りかかったクラブのバンドに無理言って飛び込み参加を要請して見事難曲を弾きこなし、皆を驚嘆させる。そのバンドには、後のグラハム・ボンド・オーガニゼーションで活動をともにするディック・ヘクストール＝スミスとジンジャー・ベイカーがいた。
同年、マイク・テイラー、ジンジャー・ベイカー、グレアム・ボンドらとドン・レンデルのジャズ・グループに参加する傍ら、アレクシス・コーナーの「ブルース・インコーポレイテッド」にも参加。
1963年、R&B系のホンク・サックスを主にするコンボ「グレアム・ボンド・オルガニゼーション」で頭角を現す。グループにはジンジャー・ベイカー、ディック・ヘクストール＝スミスや一時期ジョン・マクラフリンらが加わっていた。4ビート・ジャズとブルーズが融合したサウンドはモッズにも影響を与え、ブルースのブルーズ・ハープによる演奏等で注目を浴びる。しかし、演奏スタイルのエゴからブルースとベイカーの関係が悪化、グループを離れることとなる。
後にビージーズで大成功するロバート・スティッグウッドのマネージメントでソロ活動を開始し、1965年、ブルースはエレクトリックベースに持ち替えジョン・メイオールの「ブルース・ブレイカーズ」に参加。後にクリームをともに結成するエリック・クラプトンとはこの時期に出逢った。
1966年、「マンフレッド・マン」に約3ヶ月在籍し同年夏のシングル“プリティ・フラミンゴ”が全英No.1ヒット。
この頃、ポール・ジョーンズの後任リード・ヴォーカルであるロンドン育ちのオランダ人、ミカエル・デ・アボ（英語読みはマイケル・ダボ、マイク・ダボ）、そしてベース担当となるクラウス・フォアマンに後を任せ、エリック・クラプトンとのコラボレーションによる「パワーハウス」を経て、「クリーム」へと活動を移して行く。
同年、ベイカーがクラプトンに新バンド結成を持ちかけたが、彼はブルースの参加を要請。ベイカーは躊躇したが最終的には承諾、ジャック・ブルース（Vo,B,Herp)とジンジャー・ベイカー（Ds）の持つジャズの即興性とピート・ブラウンとの曲と詩によるビートニク、エリック・クラプトン（G,Vo)のブルーズ・フィーリングとをミックスした「クリーム」（Cream）が誕生した。
12月9日、1stアルバム『フレッシュ・クリーム』（Fresh Cream）を発表、全英6位・全米39位。
基本的にブルースがリードヴォーカルを担当し、“Four Until Late”、“Rollin' and Tumblin'”（マディ・ウォーターズの曲）、“スプーンフル”（Spoonful/ウィリー・ディクスン作曲、ハウリン・ウルフの録音）、“アイム・ソー・グラッド”（I'm So Glad）、“Cat's Squirrel”など、主にブルーズのカヴァーだった。その他には、ブルース作曲で作詞は友人ピート ･ブラウンと共作した"I Feel Free" (イギリスでのヒットシングル。アメリカ盤にのみ収録) やジンジャー・ベイカー作のドラム・ソロ"Toad"などがある。
互いの敵意にも関わらず、ブルースとベイカーはバンドのため活動をともにしたが、そこにクラプトンも加わりエゴの衝突が繰り返される。
1967年、マイク・テイラー・トリオのアルバム『トリオ』にアップライト・ベースで参加。
11月10日、2ndアルバム『カラフル・クリーム』 (Disraeli Gears)発表、全英5位になった他、米国では『ビルボード』誌アルバムチャート「Billboad 200」で最高位4位、『Cash Box』誌で1位になるなどブレイク。先行シングルは、クラプトンがヴォーカルを取った"ストレンジ・ブルー"(Strange Brew)が全英17位、ブルースとクラプトンが歌った"サンシャイン・ラヴ"(Sunshine of Your Love)が全英25位・全米5位と大ヒットした。クラプトン作の“英雄ユリシーズ” (Tales of Brave Ulysses)や、ブラウンとの共作“スーラバー” (SWLABR)や“テイク・イット・バック” (Take It Back)、ブルースがが作詞作曲した“間違いそうだ ”(We're Going Wrong)などでヴォーカルを担当。
1968年8月9日、スタジオ録音の新盤1枚とライヴ盤1枚の2枚組3rdアルバム『クリームの素晴らしき世界』（Wheels of Fire）を発表、米国では7月に先行発売された本作は遂に『ビルボード』誌で全米1位を獲得、英国では2枚組が3位、1枚盤が1位を獲得した。アルバムからは、"クロスロード"が全米28位に到達。ブルースがブラウンと共作した作品は、"ホワイト・ルーム"
（White Room）が全英28位・全米6位を記録したのを始め、“おまえの言うように” (As You Said)、“政治家”(Politician)、“荒れ果てた街”(Deserted Cities of the Heart)を収録した。
8月、ジョン・マクラフリン、ディック・ヘクストール＝スミス、ジョン・ハイズマンとともにアルバム『シングス・ウィー・ライク』（Things We Like）を録音、アルバムは1970年にリリースされた。
パワー・トリオの走りとして活動したスーパーグループ、クリームは結局、1968年11月に解散。
一時はクラプトンのことを悪く言っていたブルースだが、後に｢あの頃は彼の才能がとても羨ましかっただけなんだ｣と述懐している。しかし、我が強かったベイカーとの関係は結局改善されず、後述するBBMが早期解散した原因にもなった。
1969年2月5日、『グッバイ・クリーム』 (Goodbye)リリース、全英1位・全米2位。クラプトンとヴォーカルを分担した“アイム・ソー・グラッド”（I'm So Glad）の他、“政治家”（Politician）と“スクラップヤード”（Doing That Scrapyard Thing）でブルースがヴォーカルを担当した。
クリーム解散後、友人であり詩人のピート・ブラウンとともに1stアルバム『ソングス・フォー・ア・テイラー』をリリース。全英6位・全米55位を記録した。
同年、ラリー・コリエル、ミッチ・ミッチェル、マイク・マンデルという顔ぶれでライヴ活動を再開。派手なプロモートを行うもバンドは解散してしまう。
1970年4月、『ライヴ・クリーム』 (Live Cream) をリリース、全英4位・全米15位。
同年、ジョン・マクラフリンの在籍するトニー・ウィリアムスのバンド「ライフタイム」に参加、米国内でのツアー、レコーディングを行い、同年アルバム『ターン・イット・オーバー』をリリース。
ブルースの発する言葉に戯曲性を見いだしたカーラ・ブレイは自己の作品『エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル』で詩人ポール・ヘインズの詠み手としてブルースを起用して評判を呼ぶ。
1971年、再びラリー・コリエルとのライヴなどを行いテクニカルな演奏を総括する。
2ndソロ『ハーモニーズ・ロウ』（Harmony Row）ではブラウンの詩とブルースの曲が見事に融合。
イギリス国内ツアーではニュークリアスのクリス・スペディング、ジョン・マーシャルにアート・サーマン、グレアム・ボンドの二管を加えた「Jack Bruce & Friends」を編成し、精力的なライヴ活動を行うが、クリームを期待する聴衆とアルバム・セールスの不振、さらにボンドの体調不良のためにグループは1972年に解散に追い込まれる。
1972年、『ライヴ・クリーム Vol.2』（Live Cream Volume 2）リリース、全英15位・全米27位。
同年、「マウンテン」のレスリー・ウエスト（G)、コーキー・レイング（Ds）とトリオ「ウエスト・ブルース・レイング」を編成するが、結局波に乗れず、グループは1973年半ばに頓挫した。
1975年、ローリング・ストーンズを脱退したミック・テイラーとともに、カーラ・ブレイ、ブルース・ギャリー、ロニー・リーヒーによる「ザ・ジャック・ブルース・バンド」を結成し活動を再開するが、このメンバーでのスタジオ作品は残していない。
1977年、ヒューイ・バーンズ、トニー・ハイマス、サイモン・フィリップスと新たなグループを結成し、「The Jack Bruce Band」名義でアルバム『ハウズ・トリックス』（How's Tricks）を発表。次のアルバム『Jet Set Jewel』は自身のレーベルRSOから発表した。
グループを解散したこの頃にドラッグからの本格的リハビリテーションを行い、復帰した1979年にはジョン・マクラフリンのツアーに参加しビリー・コブハムと組むようになる。
1980年、コブハムとともにモーズ・アリソンのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルのライヴをバック・アップ、またアメリカでコブハム、クレム・クレムソン、デヴィッド・サンシャスらと「ジャック・ブルース & フレンズ」（Jack Bruce & Friends）として新たな活動を行う。ギターとキーボードの演奏とヴォーカルもできるサンシャスは1980年代の活動に不可欠な存在であり、クレムソンが抜けてもブルースのピアノにギターで対応し、コンパクトになりつつも世界観は構築され、ニューヨークで知り合ったアメリカン・クラーベのキップ・ハンラハンとの共同作品を1980年代初頭から始める。これにより、作詞の部分でブラウンと異なるパートを見出すことになる。
ブルースはまた、セッション・ベーシストとしても様々なレコーディングや、ロビン・トロワーやトレヴァー・ラビン、ゲイリー・ムーア、バーニー・マースデン等の作品に参加。1987年には鈴木賢司のロンドン行きの壮行コンサートを収録した『イナズマ・スーパー・セッション』等がある。 また、歌人としてマイケル・マントラーは自己の作品の朗読にブルースを起用してアルバムを制作し、サイケデリック・ロックを指標としたP-FUNK系のミュージシャンはブルースと交流をもち、後にバーニー・ウォーレルとはデュオ作品を作るパートナーともなる。
1993年1月、クリームでロックの殿堂入り。授賞式では1968年以来の再結成ライヴを行った。
ドイツのインディペンデント・レーベルCMPと契約を機に11月、自身の誕生日を祝うキャリアを総括したコンサートをドイツ・ケルンで開く。
1994年、ジンジャー・ベイカー、ゲイリー・ムーアとBBM (Bruce-Baker-Moore)を結成し、アルバム『Around the Next Dream』を発表、全英アルバムチャートの9位に送り込み、シングル"Where in the World"は全英57位を記録した。だがグループは短命に終わった。
2001年、サルサ等のラテン・ミュージックをミックスした「Jack Bruce and the Cuicoland Express」を編成。アルバム『Shadows in the Air』を制作し、キップ・ハンラハンとの共作をロビー・アミーン、エル・ネグロ・オラシオ、バーニー・ウォーレル、ヴァーノン・リードで演奏する。
このグループでは2002年、福岡、大阪のブルーノートにて公演を行っている。
2003年、Polydor/RSO時代の作品をリマスタリングで再発、当時発表されなかった1978年のアルバム『ジェット・セット・ジュエル』と1975年のマンチェスター公演を録音したCDをリリース。同年、肝臓癌の緊急移植手術が行われ、一命を取り留めた。しかしこの影響でChar、サイモン・カーク、ジャック・ブルースで企画されていた武道館公演はキャンセルされた。
2005年5月、クリーム再結成コンサートをロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールで行う。
10月、クリームによるニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデン・コンサートを行う。
2007年、王立スコットランド音楽演劇アカデミー内に生徒が演奏できるジャック・ブルース・ゾーンが開設された。
2008年12月、トニー・ウィリアムスのライフタイムのトリビュート企画でヴァーノン・リード、ジョン・メデスキ（MMW)、シンディ・ブラックマンのカルテットで来日した。
2014年3月25日、ソロ名義のアルバム『Silver Rails』リリース。
2014年10月25日、死去。イングランド サフォーク（Suffolk）の自宅で家族に見守られ息を引き取った。死因について英国メディアは肝臓の病気を患っていたと伝えている。
エリック・クラプトンは自身のフェイスブックで、「偉大な音楽家であり作曲家だった。私に多大なインスピレーションをもたらした」と追悼コメントを発表した。
（参照）
Wikipedia「ジャック・ブルース」「Jack Bruce」「クリーム」