詩吟と漢詩の井上詠月・満雄です。

やっと梅雨入りしたようですね。憂鬱な一時、漢詩を鑑賞してみませんか。

井上詠月の“漢詩教室”、今日は「夏目漱石の七言律詩」を取り上げました。

「無題」です。この詩を作ってから2日後床につきました。最期の作品となったのです。
漢詩は、日本文学の源です。陶淵明から、王維や孟浩然、李白や杜甫、白楽天や杜牧、蘇軾などの詩を優しく解説し、楽しみながら詠んでゆきます。

●貴方も「漢詩」を詠んでみませんか。心の琴線にふれるような、えも言えぬ心地よい名句がたくさんあります。

●「名詩と言われる漢詩には、必ず名句があります。名句から人生の大事なことを教えられるこちがしばしばあり、人生を豊かにします。」(元・二松学舎大学学長・石川忠久文学博士)

★夏目漱石晩年の連作・六十四首最後の詩で、大正五年十一月二十日の作である。漱石は同年「明暗」の連載を始めたが、病気が悪化し十二月九日「明暗」未完のまま、五十歳で没した。

味わい深く格調の高い詩で、文豪漱石の最後を飾る絶唱といえる作品である。漱石が晩年に到達した人生観は「則天去私」(天に則って私を去る)であった。首聯(一・二句)では「則天去私」を、頷聯(三・四句)では自然の理を、頸聯(五・六句)では自らの心境、尾聯(七・八句)では精神的な満足感を詠いながら、死の予言を感じさせる。この詩を作った翌々日から床につき、漢詩の絶筆となった。

●真蹤=真実の道。●寂寞=さびしいさま。●杳として=はるか遠く、ぼんやりとしたさま。●虚懐=私利私欲のない澄んだ心。●碧水碧山=深く澄んだ水と、あおあおと茂った山。●蓋天蓋地=天地をおおう全てのもの。大宇宙。●依稀たる=ほのかな。●錯落たる=入りまじること。●秋声=秋の音(こおろぎなど虫の鳴き声だろう)。●眼耳双つながら忘れ=目・耳の感覚もなくなっている様子。うっとりとしている様子。●白雲の吟=特に指したものではなく、作者自身の心境を象徴したものと思う。