嵯峨天皇は、第52代の天皇。素晴らしい漢詩を多く詠まれています。また、自然、花鳥風月を愛でられ、治世も民をいつくしまれ、不世出の天子と称せられています。「山の夜」はそのお人柄を偲ばせる詩です。

(きょ)を移して今夜薜蘿(へいら)に眠る

()()(さん)(けい)暁天(ぎょうてん)を報ず

覚えず雲来って(ころも)(あん)湿(うるお)

(すなわ)ち知る家は深渓(しんけい)(ほとり)に近きを

 

★今夜はつたかずらに覆われた山の中の家に宿をとり眠り込んでしまった。朝、夢うつつで、うとうとしていると、山鳥の鳴き声が夜明けを告げている。いつしか霧も深くなり衣もしっとりと潤っている。ここは(この家は)深い谷川の近くなのだな、ということがわかった。

★嵯峨天皇が、山荘に仮泊されたときの趣きを詠われた詩です。天皇が宮中を出て、このような山深いところに泊まられることなど、めったにないだけに、山中の風物が珍しく興味をそそられたのでしょう。つたかずらに覆われた家、朝早く鳴く山鳥、垂れ込めた霧でしっとりとした衣、山深い渓谷のほとり。そのどれも宮中では味わえない、感興をそそるものだったでしょう。大変味わい深い詩です。