『六人の嘘つきな大学生』の投票方法はフェアなのか?


年末年始のお休み中に、Amazon Primeで無料で公開されていた『六人の嘘つきな大学生』を見ました。


もともと単行本で読んでいたので最初からネタバレだったのですが、キャストの皆さんが素晴らしく、ぐいぐいと引き込まれましたね。



映画.comによるあらすじは以下の通り。



人気エンタテインメント企業の新卒採用で最終選考に残った6人の就活生。「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨む」という課題を与えられた彼らは、全員での内定獲得を目指して万全の準備で選考の日を迎えるが、急な課題の変更が通達される。6人の中で勝ち残るのは1人だけで、その1人は彼ら自身で決めるというのだ。戸惑う彼らに追い打ちをかけるかのように、6通の怪しい封筒が見つかる。その中には「詐欺師」「犯罪者」「人殺し」など6人それぞれを告発する衝撃的な内容が記されていた。やがて会議室という密室で、6人の本当の姿が次々と暴かれていく。


実際に会社で人事や採用に携わる立場として、さすがにそんな急な課題変更は不誠実に過ぎると思いますし、人事上の決定権を学生に投げてしまうことは会社のガバナンス的にアウトだろと思わないことはないですが、そこはフィクションなので目をつぶるとして、一番気になったのは、


この投票制度って本当にフェアなの?


ってことです。



このストーリーでは、参加者全員による投票で内定者を決めることにします。最後に熱弁を振るった人に票が流れることを避けるために、1時間30分のディスカッションの中で15分おきに(原作では2時間30分のディスカッションの中で30分ごとに)自分以外の誰かに投票し、最終的に1番票を集めた人を内定者として選出することとしました。


この方法で進めることには参加者6人全員が合意しています。実際にストーリーの中でも、各参加者が1名ずつホワイトボードに誰に投票するかを記載していき、その都度集計が行われるのですが、一見透明性が高そうに見えるこの方法、ちょっと考えてみるといろいろと問題がありそうです。


 

参加者の目的はひとつ

投票は、「誰が1番内定に相応しいか」を選ぶことになっていますが、参加者がこのディスカッションに参加する目的はただひとつ、自分が内定をもらうこと、です。


そうすると、投票は「1番内定に相応しい人を選ぶ行為」ではなく「どうすれば自分が内定を取る可能性が高くなるか」を基準に行われることとなってしまいます。


例えば、


⚫︎ 1番優秀だと思う人には投票しない
⚫︎ その時々で1番得票数が少ない人に投票する
⚫︎ 恩を売ったり恨みを買わないために投票を利用する


など、本当に優秀な人に投票するインセンティブは働かず、本来の目的から外れた投票が行われてしまいます。


また、各参加者の投票内容は公開されますので、そこで貸し借りが生まれたり、誰かと誰かが手を組んだり、政治的な駆け引きが生まれることとなってしまいます。


 

参加者の問題ではなく制度設計の問題

もちろんこれは、参加者の性格やずるさの問題ではありません。


評価する側と評価される側が同じで、しかも各参加者の投票内容が公開されているという条件のもとでは、正直に評価しない方が自らの目的のためには合理的ということになってしまう、ということです。


正直、1万人もの学生が応募する人気企業の最終選考に残るほどの高い能力を持った6人全員がこの投票方法に異議を唱えないというのはちょっとどうかと思いますし(特に、常に「フェア」であることを重視していた九賀くんとか)、その方法で選ばれた人をそのまま採用してしまうスピラリンクス社もちょっとどうかと思ってしまいますね。


 

どのような投票制度なら納得的なのか

では参加者の6人が本当に内定に相応しい人に投票するにはどのような制度とすれば良かったのでしょうか?


優秀な人に投票するという本来あるべき目的と、自分が内定を得るために投票するという心の内の真の目的が乖離してしまっている以上、完璧な解決方法というのは難しそうですが、もうちょっと「マシ」な方法ならありそうです。



① 投票回数を1回のみにする


ストーリー展開の面白さは無視ですが、投票回数を1回のみにすれば、その時々の優勢や劣勢は分からず、情勢を読む必要がなくなるので、政治的な駆け引きはかなり減らせます。


但し、この方法では、優秀ではない人に投票するインセンティブは依然として残ってしまいます。



② ポイント制にする


自分を除く他の5人に1〜5点を付けて、その合計点で決める方法です。誰か1名を選ぶ投票ではなく、他の参加者を順位付けする投票になり、◯か×かの2択でなく部分点も得られることになりますので、駆け引きの要素は①の方法と比べても更に薄まります。


ただ、駆け引きの要素を完全に排除することはできず、またこちらの方法もやはり、優秀ではない人を上位に位置付けるインセンティブは残ってしまいます。



③ 評価の正当性も加味する


では、優秀ではない人を評価してしまわないように、評価の正当性それ自体を評価する要素を組み込んでしまうというのはどうでしょうか。


例えば、基本的な制度設計は上記の②の通りとして、開票後に各参加者の投票内容を確認し、他の人たちと著しく異なる評価をしていた場合には、正当な評価を行わなかったペナルティを課すという方法です。


この方法であれば、自分が勝ち残るために正当な評価を行わなかった場合はペナルティが課されてしまいますので、正しく他者を評価するインセンティブが生まれそうな気がします。


実は、この評価の正当性を評価するという方法、企業の360度評価や論文の査読などで実際に活用されています。


例えば、


⚫︎ 極端に甘い/厳しい評価をする人の信頼度を調整する

⚫︎ 集団平均との乖離が大きい評価は信頼度を下げる


といった調整は、評価データの集計において割と一般的に行われています。



 

評価を評価する手法にも問題は残る

ただし、この方法でも問題点は残ります。ここが制度設計の難しいところです。


① 他人の評価の予想ゲームになる


他人の評価から外れた評価をしてペナルティを受けるのを避けるために、他の人の評価を予想してそれに寄せるというインセンティブが働きます。


自分だけの独自の評価を敢えて行うことがリスクとなってしまうという、言わば正直者が馬鹿を見る構造となり、無難な評価を行う戦略が最適となりかねません。


あるいは逆に、多数の参加者が「優秀な人を落とすため不当な評価を行う」戦略を取った場合、その評価が多数派となることで「正当な」評価となってしまい、逆に本当に正当な評価を行った人がペナルティを受けることにもなりかねません。


② 結託に弱い


何名かが示し合わせて、正当ではない評価を行った場合、それが多数派の「正当な」評価となってしまい、やはり本当に正当な評価を行った人がペナルティを受けることにもなりかねません。


特に、今回のストーリーのように少人数でお互いを評価するような場合は、多数派工作が有効な策となり、結託するメリットが大いにありますので、その点が弱点となりそうです。



とは言え、露骨な足の引っ張り合いを避け、政治的な駆け引きよりも本質的な議論を促すという点では、この方法はストーリーの中で提案された方法よりは多少なりとも「マシ」かもしれません。



 

実は戦略的投票は排除できない

では、これまで考えた方法以外で、本当に優秀な人に投票するインセンティブが生じるような制度設計はできないのでしょうか?


少し学術的な話になりますが、経済学・政治学で「ギバード=サタースウェイトの定理」という有名な理論があります。


ざっくり言うと、候補者が3人以上いる投票では、戦略的な投票を防ぐ方法は存在しない、というものです。


どんな投票制度を設計しても、自らの利益のために、自らの本当の評価に反して、戦略的に投票を行うことを排除し得ない。それができる制度を作れるとするならば、それは誰かの選好を無条件に採用する制度(つまりは独裁制)だけだ。この理論はそう示唆します。


どうやら、このストーリーにおいて、戦略的な投票を排除し、本当に内定者に相応しい人への投票を促すような制度は「ない」というのが結論のようです。




 

『六人の嘘つきな大学生』は面白かった

戦略的な投票を完全に排除する方法がない以上、ストーリーの中で採用された投票制度にケチを付けるのは野暮というものですし、彼らが採用した投票制度の進行に沿って話が展開していきましたので、これはこれで必要だったということだと思います。


むしろこれは、会社が提示した、もともと解決方法がない不誠実とも言える課題が、学生たちを嘘つきにさせていく物語、欠陥のある制度の中では人は自らの利益のために敢えて最適解を選択せずに嘘をつくことを示した物語、と言えるのかも知れません。


(穿った見方をすれば、明確な解決方法がない中で最善解を見つけさせる課題をスピラリンクス社が与えたと考えることもできますね。)


そんな思考実験的な要素も含む、考えさせられる作品でした。



お読みいただき、ありがとうございました🍀