平成が、まだ始まって間もない頃。

阪神間のベッドタウン、西宮市に
居を構える青年、平屋猊継は、
仕事が休みの日には神戸か大阪に
パチンコを打ちに行くのが常だった。

多くの打ち手が家の近所の店で打つ。
だが猊継は、より良い店を探して
ライバル店がしのぎを削るような
激戦区という感じのエリアを好み、
足を運んだ。

平成が終わる頃であったなら、
現地に行かずとも機種構成だったり、
ボーナス回数、スランプグラフが
インターネットで判るだろう。
しかし、この時代は自分自身が
苦労して探す以外に方法はなく。

そしてまた、様々な場所に行く事で
パチンコ、スロット以外の色々な店を
見つける楽しみもそこにはあった。

なんでもかんでも、行く前に段取りが済む
今とは違う面白さがあったのだ。


猊継は21歳になる頃、東京へと旅立つ。
まだ見ぬパチンコ、スロットへの想い。
そして、ある人との約束を果たすために。





新大阪から新幹線に乗り、東京上野に。
東京には1年ほど前に、HOUND DOGの
武道館コンサートの為に来て以来である。

最初の東京では宿を予約しなかった為に
結局野宿し、始発の山手線を何周も
寝ながら廻る事態に陥った。
失態から学んだ猊継は、事前に予約した
ホテルへとチェックイン。

まだ夕方なので荷物だけ預けて
街へと繰り出す事にした。

目的はもちろんパチンコ、スロット。
新宿に宿をとったのも、当時の新宿が
激戦区だったのを雑誌で読んだから。

雑誌とは即ちパチンコ必勝ガイド。
インターネットがない時代に、
一般人が情報を得る手段はほぼほぼ、
雑誌しかなかった。

そして猊継は、東京の洗礼を受ける。

新宿西口から、東口に行けない。

どういう設計思想でそうなったかは
わからないのだが。
新宿西口から改札を出た際、東口側に
行こうとしても行けないのである。
地下街も何故か繫がっていない。

猊継は戦慄を覚えた。
大阪も梅田駅前ビル地下街だったり、
堺筋本町の問屋街だったり。
ダンジョンじみた街は確かにあるが、
繫がってはいるぞ…

平成末の頃ならスマホとグーグルで
なんとでもなるはずなのだが
猊継はなんともならなかった。


が、駅にある市街地地図を見て、
一旦駅を離れ、少し離れた高架下を
くぐれば行ける、と判断。

これで、実際に行けた。

そして、東口サイドに抜けると、
名前は知らないが東京で初めての
パチンコ屋を発見。
早速入店する猊継。
期待感が溢れんばかりである。

東京には、どんな台があるだろう。
関西では設置がない、珍しい台が
あるかもしれない。

店内に入り、一通り島を巡る。

だが、関西でも見慣れた機種ばかり。
せっかくだから、関西では見ない台を…
と歩き続け、気がつけば歌舞伎町に。

関西でも、ミナミあたりでは
風俗店の呼び込みは大概酷かったが。

歌舞伎町の呼び込みは
『はい、○ックス○ックス○ックス‼
お兄さん、どうですか○ックス‼』
と、ドン引きするような感じであり。

たじろぎながらも手近なパチンコ店に
身を隠す猊継。
すると、関西にはないパチンコ台が。
平和のグレースである。

グレースは平和のパチンコ台であり
ブラボーエクシードの兄弟機。
エクシードが水色の液晶セグなのに対し
グレースは赤の液晶セグが特徴で、
関西での設置は見た時がなかった。


喜び勇んで打ち出し、程なく当たる。
4連ほど続き快勝。
東京はイイ所じゃないか。
猊継は感じたのだが。


景品交換所、どこ⁉


関西圏では当たり前の話だが、
一棟建てのホールなら敷地内。
敷地になくても向かいの一軒家には
交換所があるのが普通。

東京はホールからまあまあ離れた、
全く別のブロックのビルの地下に、
忽然と交換所があったりする。

場所が、判らない。

紆余曲折、他の客がカウンターで
特殊景品を得た際に、その後をつけて
なんとかかんとか交換所に到着。
しかし、交換所の左右の壁には
中国語や英語で様々な注意書きがあり。
まるでブレードランナーのような、
混沌としたビジュアルであった。


完全に気圧された猊継は、
(東京…恐るべし)
と早々にホテルに帰り、明日に備えた。
唯一、東京で収穫と言えたのは、
関西では2.5円交換、即ち4000発で
1万円の換金だったのが、等価で
2500発で1万円の換金だった事。

グレースの出玉は結局6万円程になり、
猊継は関西とのパチンコの違いを
まざまざと見せられた形になった。


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翌日、とある雑居ビルを訪ねる猊継。
手にはお土産の洋菓子の紙袋。
階段を上がり、『雑草社』と
書かれたドアをノックする。

「どうぞ」
という女性の声。

入ると、狭い室内に並ぶ机と
積み重なる資料と、漫画。
漫画、漫画、漫画。

80年台半ばから90年代にかけて、
特に漫画好きな女子に絶大なる人気を
誇った伝説の漫画情報誌『ぱふ』。
その編集部である。

奥に座するは、ぱふの当時の編集長
中村公彦氏。
挨拶してくれる女性編集者の方に
洋菓子を手渡す。
女性向け漫画情報誌だけあり、
ほとんどの編集者は女性だったが。
ただ一人、少し大柄で眼鏡の
気の優しい面持ちの青年がいた。



後に編集長になる猪飼幹太氏。



猊継と彼は同い年。
まだ見習いである猪飼氏が
唯一任された読者ページがあった。
イラストを投稿して盛り上げ役を
買って出たのが『ぱふ』ではとても
珍しかった男性読者の猊継。

読者が編集部のお手伝いに行く企画。
それに応募して、編集部に顔を売り、
何かライターみたいな仕事が貰えたら…
という甘い考えを持っていた。
若い、若いな。そして青い。


猊継が編集者の女性から、
漫画雑誌の山を渡される。
何事、と考える間もなく、
全ての雑誌の掲載漫画の頁数を
数えて別紙に書き出す指示を受ける。

漫画雑誌は…レディコミ。
しかもかなりエロな本格派である。

これは21歳の青年男子に対する
セクパワハラじゃないか、と
平成末期なら誰もが思うかもだが。

猊継は
(まあ、そもそも女性向け漫画情報誌
だから仕方ないか。
ガチのやおい漫画じゃなかっただけ
まだいいや)
と粛々と作業をこなした。

夜、編集長の中村氏、猪飼氏と連れ立ち
新宿のカレー屋でカレーを御馳走になる。

中村氏曰く、この店でカレーを奢った
若手漫画家はブレイクする、らしい。
聞いた中には、少し後に角川NT誌で
『精霊使い』という漫画でブレイクした
岡崎武士氏の名前もあった。


カレー屋で中村氏と別れた猊継は、
バーで猪飼氏と長々と差し飲み。
好きな漫画、漫画家、アニメ、
格闘技、プロレス、恋愛。

小説家になりたい夢を棄てた、と
語った猊継は、それでもいつか、
何らかの形で同じ雑誌に何かを
書けたらいいね、という感じの言葉を
猪飼氏に言って貰い。
心の中に積もっていた何か重いものが
吹き飛ばされるかのような。

充実した時間は早く過ぎるもので。
バーを出て駅に向かう猪飼氏と並び歩く。
東京ドームからは、終わったばかりの
マイク・タイソンの世界戦の客が街を
埋め尽くしていた。


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明けて、東京最終日。
新宿の小さなパチスロ専門店を見つけ、
スーパーバニーガールの空き台に座る。

スーパーバニーガールはオリンピアの
歴史に名を残す2号機の名機。

姉妹機バニーガールと違い、ビッグ絵柄は
黒バーだけ。バー絵柄はバニーの耳という、
時代の先を行く攻めたデザイン。
平成の終わりならともかく、ビッグには
伝統的に赤7図柄が使われるのが基本。
賛否はあったが、猊継はデザイン性が高い
この台を溺愛していた。

コンチネンタルⅠ同様、左リールには
中段チェリーのリーチ目。
小役の集中機能も良いアクセントに。
5ゲームで終わるか、60ゲームになるか。
6ゲーム目のプラムに一喜一憂できた。


猊継はこの3日間感じていた事がある。
何故、東京のパチンコ屋はどこも
通路や台間がこうも狭いのか。

そうした狭さに呆れながらも
最終日、新幹線で帰路に就く。
財布の中身は来た時の3倍に
増えていた。



猊継は、その明くる年から同人誌へと
行動の場を移す。
同人誌即売会に参加しながら、
その行く先々でパチンコ、スロットを
打つようになる。

東京にもコミックマーケット等で
毎年数回足を運ぶようになる、が。
猪飼氏と逢う事は二度とはなかった。
お互い立場が変わり、忙しくなった。
興味の対象も変わっていった。



やがて、『ぱふ』は休刊となる。
猊継の愛読する雑誌は月間化された
パチスロ必勝ガイドへと移り変わった。




スーパーバニーガールを最後に打ったのは
姫路駅前商店街のある店。
みなし機撤去の寸前だから、2002年辺り。
スーパーバニーガールは常連たちに囲まれ
数少ない空き台を見つけては打った。

そこに、勝つ為に打つパチスロはなくて。
ただ、ただ世話になった台を打ちたくて。
猊継は撤去されるまで、姫路へと
足繁く通ったのだった。


スーパーバニーガールの
あの中段チェリーを見たい、
あのファンファーレを聴きたい。
ただ、ただそれだけの為に。


Re:スロから始まる既知外生活
②青春ブタ野郎はスーパーバニーガールの夢しか見ない〈終〉


次回
Re:スロから始まる既知外生活
最終話 スロットアートオンライン



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なんか…なんかすいません(汗)


パチスロ話というよりは、そうですね
島本和彦氏の『アオイホノオ』
みたいな感じになってしまいました。


次回、集中連載最終回です。
我慢して読んで下さった方々、
もう少しだけ我慢して下さい。
(反省の色がないな)


サブタイトル元ネタは
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』
人気ラノベからのアニメ
(最近こればっかし)


オマケ




プリコネからスズメさん。
悠木碧可愛い。



タネ銭ないけど、打てそうだったから
2.5円でニューパル。



打つ前はB19R7
合算136分の1

自身はB12R9
多分45あたりかな。

投資1K
回収3K



まあ、来週20スロで打つので
リハビリにはちょうどイイかな。



受験シーズンだから
この手の菓子多いね。

俺もこれ食べて10%(突破)して
勝つ事にしますw


また、逢いましょう。