ChatGPTの登場により、ビジネスシーンでも瞬くまに脚光を浴びた生成AI。
当事務所でも積極的にAIを取り入れようと、現在若いスタッフを中心に頑張って取り組んでいるところです。AIを使いこなすことにより飛躍的に業務が効率化され、生産性が高まるということが期待されていますが、現実は、AIを上手に使いこなすためには一定程度の知識と実務能力が必要だな、ということを痛感しております。
この1年間あるいは数か月という短いスパンで考えても、AIの技術は日進月歩でどんどん進化しているようですが、この流れにしっかりついていけている人間はどのくらいいるのだろうか。あっという間に取り残されてしまってしまうのでは・・・、という危機感も日増しに大きくなっているというのも正直な気持ちです。
そんな思いから、AIについて書籍でも勉強したいな、と思いました。
ただ、AIの進化のスピード感を考えると、ちょっとでも古い書籍はすぐに陳腐化してしまっているのではないか、という懸念もあり、どういう書籍が良いのだろうか、などと迷ってしまいます。この点、本書は、生成AIに関して、構造的に重要だと考えられる基礎的な話と、将来起こるであろう社会的な影響をテーマとしており、陳腐化しない普遍的な考え方が解説されています。私のように、AIになんとなく触ってみたものの、詳しいことは全くわからない人間にとっては、体系的に学ぶことができる良い機会となりました。
作者は、東京大学大学院工学研究科で、人口知能分野の研究をされております。年齢を見ると私よりもずっと若い方のようでびっくりしました。本書では、生成AI革命がもたらす影響と、その背景にある技術、またAIの進展によって消える仕事、残る仕事、そしてAIによって人類の未来はどのように変わっていくのか、といったテーマで展開されています。
生成AIがどうして膨大な知識を学習することができるのか。
生成AIは、大量のデータからパターンを学習することによって私たちにアウトプットを提供する、いわゆる「ディープラーニング」というアプローチを基礎にしているとのことです。
本書によると、
『生成AIが「創造的」であるということは、それがまったく新しいアイディアやコンテンツを無から生み出すということではありません。むしろ、既存のデータからパターンを学習し、それらを組み合わせて新たな出力を生み出すというプロセスを指します。』
とのことです。
なるほど、これを私なりの理解に置き換えて表現すると、創造的なアプローチではなく、どちらかといえば、きわめて膨大な事例を元手にした帰納要約的なアプローチが生成AIのロジックということになるのでしょうかね。そういえば、東大入試の数学の問題や、司法試験の論述の問題も、結局のところ一番効果的な対策方法は、回答パターンをたくさん暗記することである、というような話を聞いたことがありますが、生成AIのロジックとしても、その考え方に近いということなのかもしれませんね。ただ、人間のは到底真似できないような極めて膨大なデータを取得した上でのアウトプットということになりますので、精度が高いということにも納得がいきます。
さて、本書でもう一つ興味深かったのは、「AIによって消える仕事、残る仕事」の論点です。特に2013年にオズボーン教授らの発表した「雇用の未来」という論文はとても有名で、様々な場面で目にすることが多いですが、実は生成AIが登場したことにより、わずか10年の間に、「AIによって消える仕事、残る仕事」の中身がガラリと変わってしまったそうです。
2013年当初は、AIによって消える仕事としては、『作業内容がほとんど決まっており、作業内容に変化が生じにくいもの』と論じられていました。しかし、10年後の現代では、AIによって消える仕事は、『エンジニアや技術者、デザイナーなど、高度な判断力や創造的な思考が必要とされているもの』であると考えられています。なぜこの10年で、こんなに考え方が変わってしまったのかというと、生成AIのロジックである「ディープラーニング」によるものです。
例えば、プログラミングや作曲といった、高度な技術や才能が要求されると思われる事象が実は、ディープラーニングのアプローチによると、これまでの膨大なデータの蓄積やパターンの解析から、優れたアウトプットができてしまう、ということになってしまいます。逆に、いわゆるブルーカラーと言われるような業務が実は、AIによる代替が難しかったりするということになり・・・、とても興味深い話です。
これを会計事務所の業務に当てはめて考えると、どうなるでしょうか。
AIの登場により、会計帳簿の作成や、税金計算などの単純作業はAIに奪われてしまうかもしれないが、コンサルティングなどの専門知識を必要とする領域は絶対になくならない、と多くの会計士・税理士が考えていたと思います。しかし、コンサルティングであっても、きわめて膨大な事例を元手にして解答を導き出す、というアプローチの下では、人間でなくとも優れたソリューションを提供できてしまうのではないでしょうか。
これに対して、しょうもない話ですが、居酒屋で飲み食いをしたレシートが、交際費なのか会議費なのか、はたまた福利厚生費なのか、というかそもそも経費に計上してよいものなのか、といった判断をAIに委ねるのには、それなりに複雑な条件設定が必要になってくると思われます。これはこれでアホらしく感じてしまいます。
このように考えると、AIと上手に共存していく上で、そのロジックを学ぶということはとても意義のある事だ、ということがわかります。
最後に、印象に残った言葉を2か所、引用させていただきます。
『これから仕事の場にAIがどんどん入ってくるようになると、多くの人はいわばAIを雇用する立場になるのではないかと予想しています。そこで必要なのは、AIに対してうまく指示ができるスキルではないでしょうか。プロンプトエンジニアリング、つまりAIから望ましい出力を得るために、指示や命令を最適化するスキルが必要だと思うのです。ところが、多くの人は指示をすることがそんなに上手でない気がします。これは、ChatGPTなどが登場してきたこれからの社会において致命的です。』
『社会の変化に対してどう対処していくかについて、世の中の人たちの行動は二極化しているなとは感じます。変化していくおは当たり前だと、自分もどんどん対応しようとしている人、その姿勢が身についている人はたくさんいます。その一方で、変わらない側にいて、何かをやりたい、やらなければと思いつつ、結局変われない人もいます。両者の違いは、今後ますますはっきりしていくのではないでしょうか。』
確かに、おっしゃる通りで、これからの時代は、変化することよりも、変化しないことが最大のリスクである、という価値観がより色濃くなってくるのだと思います。自分も守りに入らないよう、今後も知識の修練を続けていきたいと思いました。