部屋に戻り、岩壁を眺めながらハミガキをする。

なんて気持ちのよい朝なんだ。

荷物を持ってフロントに行くと、鍵が並んでいた。

そして外を見ると、もうみんなバスに乗ってスタンバっている!


ヤバイ!!


一番早起きで、一番早く行動しだしたのに、集合は一番遅くなってしまった。

岩を眺めながらの優雅なハミガキは、大変迷惑なものだった。

荷物を入れてくれるドライバーに必死に謝り、

みんなに謝りながらバスの一番奥の席に、二人で小さくなって座る。

もう…時間くらい伝えてくれ。


バスは切り立った岩の間を走る。

時々民家が見え隠れする。

この辺りの民家は、まるでアドベンチャー映画に出てくるような感じだ。

周りの岩の色と、家の色が同化している。

家の前には男性が1人だったり3人だったり、立ったり座ったりしている。

バスから眺めていると、何をするでもなく、ただいるだけのように見える。

昨日のバス移動でも気になっていたのだが、モロッコの男性はよく突っ立っている。

それは家の前がほとんどだが、何故ここに!?というような場所にも立っている。

この人たちはどんな仕事をして暮らしているのだろうか。

それとも新年だから休みの日なのだろうか。

勉強不足なお国事情に思いをはせて、朝から暗くなる。

気を取り直して今日の予定を思い返してみる。

今日はアタシがこのツアーで砂漠の次に行きたかった場所、

トドラ峡谷にいくはずだ。

トドラは日本で読んだモロッコの本に、

岩壁の下にあるホテルから見える月に照らされた岩肌が幻想的でとても魅力的だ

と書いてあるのを読んで、絶対行きたい場所だった。

でもよく考えたら、このツアーだと昼間だし、ホテルにも泊まることはないので、

全く違う景色を見ることになるのだった。

わくわくしながらバスに揺られていると、小さな町に出て、

バスが畑の横に停まった。


畑に立ちはだかっている現地人の前に、降り立つ。

ここは…どこだ?一面に広がる畑。岩の陰はどこにもない。

ドライバーはバスを移動させるために行ってしまった。

立ちはだかっていた現地人はガイドらしく、しゃべり始めた。

これからベルベル人の村を案内する、と。


しゃべりながら畑のあぜ道を歩く。

17人もの団体が、畑の中に列を作り進んでゆく。

一番後ろをついていってしまったので、

一番前にいるガイドの話はなかなか聞こえない。

重要そうなところは立ち止まってしゃべってくれるのだが、

アタシの英語力ではほとんどが理解不能である。

時々聞こえてくる分かる単語をつなげるが、意味は通らず、限界である。

チワワさんは熱心に通訳してくれて、わかりやすく説明してくれた。

この畑はどのように分けられているか。ベルベル人の生活。結婚制度など。

韓国人の女の子もチワワさんの日本語の説明に耳を傾けていた。


どこからともなくベルベル人の小学生くらいの男の子がやってきて、

何かを見せてきた。

草で作られたラクダだ。

最初は、作ったの~これあげるー的な感じに取れたが、

ここはモロッコである。

おみやげ物をして買ってくれということだった。

あまり言葉は出来ないらしく、「1Dh」を繰り返す。

あとは目を見てジェスチャーだ。

遠慮気味だったこの子も、誰も相手にしてくれないので、

イラナイ!というアタシのリュックの上に強引に草ラクダを乗せてきた。

そして列の前の方に行ってしまった。

…これは…くれたのだろうか…???

まぁまぁな出来だが、これ持って帰るとき、絶対原型を留めないだろうな。

なんて思いながら歩いていると、また男の子は戻ってきて、

「1Dh」

申し訳ないけど、草に1Dhは払えない。

草ラクダは男の子の手の中に戻っていった。


説明を聞きながら歩いていると、いつの間にか男の子はいなくなっていた。