この作品は「リトルウィッチアカデミアの中国大紀行(後編) 決戦‼テッペリン。信じる心は愛!」の続きとなります。
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(え、まさか、ジョニィが・・アトムスク?)
アッコは突如、脳裏に沸いてきた思考に戸惑う。
(あなたもそう思うのかしら?)
予期せぬ声。
(えっ、聞かれた!? 月里朶・・さん あなたなの?)
月里朶は微笑みながら続ける。
(朱雀は宇宙ともつながる鳥。
あなたが呟いた名が「彼女」が言っていた「彼」のことなら、今そこに居るのがそうなのかもね。)
(ええ、彼女って⁉️ あなたも会ったことがあるの? アノ宇宙から来たという人に・・・?)
(フフフ、それは内緒ね・・・)
(え、そんな、ずるい。)
「アッコ、何しているのですか?」
ダイアナが様子のおかしいアッコに声をかける。
(よかった。ダイアナには聞かれていなかったんだ。でも、どうして・・?)
「ジーナさんが月里朶と話をして、この事件の終わらせ方を協議しているわ。」
とダイアナが伝えてきた。
パロパロの鱗粉の効果はどうも長続きしないようだ。意識の共有化は次第にできなくなっていた。
「誘拐とかは明らかに犯罪だけど、どうも中国流のやり方になるようね・・・」
「え、何それ? 訳わかんない。まあ、月里朶さんも心の底から悪い人でも無さそうだけど・・・でも、もう少し聞きたいこともあるけどねぇ・・」
「そのあたりはジーナさんが聴取すると思いますから、後で聞かせてもらえるでしょう。」とダイアナ。
(でも、さきほどの会話に関することは聞けないだろうな・・・)
心残りなアッコ。
(ジョニィは本当にアトムスクなのだろうか?)
◆中国でのさらなる活動
「カガリさん、ちょっとお願いがあるのですが、もうしばらく中国に居ることはできないかしら?」とジーナが声をかけてきた。
「え、どうしてですか?」
「ジョニィ君のルーツ探しをしたいと思ってね。今回の件を穏便に済ます代わりに、ちょっと月里朶にも協力してもらおうと思って。勿論、ジョニィとリラさんもOKで、あなたにも了承してもらわないとダメだけど。」
ジョニィのルーツ探し、それはぜひともやりたいと思っていたことだ。リラも望んでいることだろう。ジョニィはいつ、どこで生まれたのか。本人も記憶がない。でも、トーマスが祖父から聞いた話だと1000年くらい前から居るとのことだ。
ジョニィがアトムスクかどうかも判るかもしれない。宇宙から来たかどうか。
「ええ、私はOKよ。じゃあ、ジョニィとリラにも聞いてみるね。」
「ジョニィ君ーーー! 」まだ空を飛んでいるジョニィを呼ぶ。
「ハーイ」とても快活な声だ。ジョニィも気分は最高なのだろう。
次第に降りてくると共に身体のサイズも元の人間サイズになってきた。
これも他の神獣には無い不思議な能力だ。
「なーに?おねえちゃん💗」なぜか甘えた声を出すジョニィ、気分が高まりすぎて少しおかしくなっているようだ。
「何がおねえちゃんよ。アンタのルーツを探そうって、ジーナさんからの提案よ。」
「おお、そうなのですか? それはとてもありがたいですね。僕も自分が何者かわからなくて。おねえちゃんと初めて会った時も言っていたけど💛」
リラもやってきた。まだ目に涙を浮かべながら、ジョニィに抱きついた。
それを見て、私の出番は無いな、と思うアッコ。
リラがジョニィに抱きついた勢いで2人は倒れ込む。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私は何もできなくて・・・」謝るリラ。
「何言っているんだい。ちゃんと助けてくれたじゃない。」しっかりと感謝の意を伝えるジョニィ。
責任感の強すぎるリラ。いや、ここでは愛が強すぎると言うべきか。
ジーナもそれを見て「若いっていいね。」とつぶやく。
(いや、ジョニィ君は若くないかもしれないけど)心の中で呟くアッコ。
そんなジーナを見て、柄にもなく軽率なことを口に出してしまうアッコ。
「ジーナさんって、恋人とか・・いらっしゃるのですか?」
「あら、あなたがそんなことを聞くなんて・・・意外ね。 フフ、いるわよ。 それに、あなたも知っている人。」
「え、ええ、えええ、私が知っている!? だ・だれ?」
「フフ、それは内緒。でも、もうすぐここに来るわ。その時までのお楽しみね。」
「えーーーっ 」
さらにダイアナと月里朶もやってきた。戦闘力の高そうな美女2人組だ。
「ダイアナは月里朶さんと何か話をしていたの?」興味津々に聞くアッコ。
「ええ、中国の魔法について。ヨーロッパや日本とも違って、なかなか面白そうだったわ。」
「ダイアナはいつも魔法に真摯に向き合っていてすごいなー。」いつもながら感心するアッコ。
「それと国連の人間として世界平和についてもね。」
「やるなー、こんなすごい人が私の伴侶だなんて、私も頑張らないと愛想尽かされそう💦」
「大丈夫よ👌 私は素のアッコが大好き💕だから。」
(初めて会った時からは信じられない言葉・・)と密かに思うアッコ。
「私はまだ中国に留まって、ジーナさんと一緒にジョニィのルーツ探しを行おうと思うんだけど、ダイアナはどうする?ダイアナは忙しいよね。」
「そうね。一緒に行きたいのはヤマヤマなんだけど、やらないといけないことも多いので、やっぱりごめんなさい。私は帰るわ。でも、ジーナさんがいらっしゃるのなら安心だわ。」
ダイアナはアッコを信頼している。
「そうだよね。じゃあ、生徒たちのこともよろしくね。私が先生なのに押し付けちゃって、私こそ、ごめんなさいだけど。」
アッコもまたダイアナを信頼している。
「えー、僕らだけ帰るの?もっと冒険したいよ。」とユートが文句を言う。
「ハイハイ、君らはここに来るだけでも本来はあり得ないんだから。でも、危険な目に合わせてごめんね。」とアッコは正直に申し訳なかった気持ちも含めて、生徒達に帰る様に促した。
「カガリ先生、色々ありましたが、とても有意義な旅でした。本当にありがとうございました❗️ リラさんとジョニィさんの愛に感動しました‼️ ステキ過ぎですよねー💓」とパール。トーマスも同じ様に満足している。2人の愛ももっと育まなければ、と思っているに違いない。
「カガリ先生の活躍を見れたので最高でした。M3アッコ‼️カッコいいですよね。私ももっと鍛えないとね。」と言うのはルチアだ。
ルチアもマトイギアを駆使して大活躍していた。マッドサイエンティストなのに武闘系のルチア、戦う姿に憧れるタイプなのだろう。
「カガリさん、本当にありがとうございました。この子たちのすばらしい成長は、あなたの様なルーナノヴァの先生方のおかげなのですね。
バーニッシュの力が不幸をもたらすことも、あなた方の活躍があれば防げると確信しました。これからもよろしくお願いいたします。」トーマスの父、ロバートが深々と頭を下げる。
「いえ、いえ、私なんか大して力になれませんでした。みんなが素晴らしかったのです。
トーマス君もパールを支えて本当によくがんばってくれました。あの素晴らしい光魔法はトーマス君のおかげでもあるのです。」
アッコも皆の成長に感嘆している側だった。
◆人類の未来は2人に。。
でも、最も成長したのはリラだろう。
リラの心の奥底に眠っていた彼女自身も気づかなかった、燃えるような激しい愛の力、その力を解放したのは、神が遣わした神獣と呼ばれ、その実体は異世界の炎の生命体とつながるバーニッシュのジョニィ。ジョニィもまたリラの心の炎を受けてさらに成長した。
この2人の将来は、もしかしたら、魔法界だけでなく、人類の未来をも左右するかもしれない。
アッコはそんな風にも感じていた。と同時にそう考えている人が他にも居ることを感じ取っていた。
そう、月里朶も・・だ。
またもや幾人もの思惑を抱えながら、ジョニィのルーツを探す旅が始まろうとしていた。
リラとジョニィの2人は勿論のこと、ジーナ、アッコ、ロバート、麗麗、そして月里朶も加わった。
ロバートは、父がジョニィを中国から連れてきたという話を聞いているので、それを元に捜索に協力するために残ったのだ。
月里朶は今回の事件の張本人ながら、情状酌量も件あり、その知見を活かしてもらおうとジーナが責任を持って同行を認めた。
彼女を監視するためジーナに加えて麗麗も同行する。アッコも監視役を務めるだろう。
ここで、ジーナから同行者に関する追加の提案がなされた。
「カガリさん、生徒さんへのお願いになるのだけど、いいかしら?」
「生徒に!? 誰ですか?」
「ナツァグドルジさんなのだけど。」
「マンライバートル君ね。またどうして?」
「モンゴル出身でしょ。それも名家の。実はモンゴル方面にも調査に行くことになりそうなので、協力頂けると有難いのですが。。」
「そうなの!? まあ、私はいいと思うけど・・」
(マンライバートル君て名家だったの?)意外な事実に戸惑うアッコ。(まあ、レイラインハイウェイのこととか機密情報も何故か知っていたけど・・)
「マンライバートル君、ちょっといいかしら。」アッコが呼びかける。
カクカクシカジカと事情を説明すると。。
「ああ、いいよ。実家に協力を求めてくれてもいいし。」
「え、実家に? 今更聞くのも失礼かもしれないけど、マンライバートル君の実家って有名な家だったの?」
「どうなのかな。まあ、事業でそれなりに成功しているけどね。」
「え、どんな事業? 差し支えなければ教えてもらってもいい?」
「レアアースの採掘事業なんだけど。魔法石も見つかるらしいよ。」
「そうなの!? どちらもとても重要じゃない!」
改めて身近にすごい子が居たことに驚くアッコ。
それを聞いて、同じ組のユートも口を出してきた。
「バートルが行くなら、俺も連れて行ってくれよ。絶対何かの役に立つよ。」
となると、カリンも口を出さざるを得ない。
「え、カガリさんの負担が増えるだけじゃない? 行くのなら、君の面倒を見るために私も行くわ。」
入学時からは大きく変わった関係に戸惑うユート。
もうこうなると押し戻すのが困難なことは、これまでの経験から分かっていたアッコ。
「仕方ないわね、連れて行ってあげるけど、余計なことをしたらダメよ!」
そして、ジーナが言うもう1人(ジーナの恋人❣️)も中国に入ったとの知らせがきた。
一方、残りの生徒たちはダイアナに引率され、元のレイラインを通り、帰っていった。
「ジョニィのルーツが判ったら、真っ先に教えてくれーーー!」とトーマス。
そう言えばジョニィと最初に会話をしたのはトーマスだった。
「わかったわーー。あなたたちは、大人しく休養しててね。」アッコが見送る。
「さて、私達も帰るかな。」とスーシィが妹達に告げる。
「アッコ、面白かったよ。また魔獣の知識が増えた。帰って研究に戻るから楽しみにしてな。」
「えー、また、ろくでもないこと企んでるでしょ。でも、私のために遠くから来てくれてありがとうー!!」
「え、別にアッコのためじゃないよ。そろそろテッペリンにも挨拶に行く必要があっただけさ。」
でも、妹達はそれが照れ隠しの嘘であることはわかっていた。勿論、アッコも見抜いていた。
◆ジョニィのルーツ探索団
「さて、これからの計画を伝えるわね。」
ジーナが皆の前に立って話を始めた。
「まずはロバートさんのお父さんがジョニィを見つけたと言う地に行くわ。それは中国屈指の秘境、武陵源なのだけど、そこで彼と落ち合うことになっているの。カガリさんと会うことも楽しみにしていたわ。」
「え、そうなんですか。本当に誰ですか? 私の知っている人がジーナさんと知り合っていて、しかも恋人になっていたなんて、超びっくりだわ。」
「その辺については、おねえちゃんは疎いからね。」とジョニィが口を挟む。
「え、何よ。えらそうに。君はリラにイケメン振りを見せて、いい気になっているのかもしれないけど。私だってちょっとは愛を語ることもできるのよ。」
「彼もカガリさんのことは、好きだったみたいですよ。憧れの人の面影を見ていたそうです。」
「えーー、なになに、もう、やめてよ。なんだかあの人の様じゃない。もう、参るわ。」
アッコは誰のことか、概ね判ったようだ。色々な意味で疲れる事態のようだ。
「それから、中国の四神獣、朱雀、玄武、白虎、青龍の由来を元に、本当の彼らの姿はどのようなものだったのか考察するの。」
「彼らの姿はさっきまで嫌と言うほど見たから目に焼き付いているけど、本当の姿って何なの??」とアッコ。
「それは、これまでに魔法などで人によって手を加えられてるからだよ。今の姿は本当の姿じゃない。」と月里朶が説明する。
「祖先の姿を解明して、その力の源を突き止めるってことだ。」
「”チカラ”はどうでもいいわ。私はジョニィがいつどのように生まれたかを知りたいだけ。彼をもっと知りたいから。」とリラが訴える。(そして、もっと愛したい・・)
「まあ、まあ、皆の思惑は色々あって、まだ一つにはまとまっていないけど。また戦争などしないでね。仲良くやりましょう。」
ジーナが議長としてまとめる。
「オーケーだ。もともと戦争するつもりはなかったけどね。すこし激しい交渉になっただけ・・・」
(彼女はまだまだ油断ならないわ。)密かに思うアッコ。
「それに、ここに居ない人も参入してくるかもね・・・フフ。」また月里朶が謎めいた言葉で惑わす。
「え、誰よ、それ、まさか、アノ人のこと!?」とアッコが突っ込む。
「でも、あの人はルーナノヴァの先生だった人よ。悪いことはしないと思うわ。ちょっとおかしいけど。」
「武陵源にはどうやって行くのですか?」リラが尋ねる。
「レイラインがあるわ。」月里朶が明かす。
中国のレイラインはまだヨーロッパではあまり知られていない。麗麗の所属する警察など政府機関ではある程度調査が進んでいるが、中国では月里朶達、まだまだアンダーグラウンドの魔女達の方がよく把握していた。
「魔獣の力を使えば速く行けるけど、この状況下では使わせてもらえないわね。」
「ええ、月里朶の魔獣はダメね。でも、こちらにも麗麗のファイヤーボールとカガリさんのラモスも居るし、ジョニィ君も一応、魔獣かしら? 十分よね。私の空飛ぶクルマもあるし。」とジーナが判断する。
ということで、探索団のメンバーは、ジーナをリーダーに、麗麗、ロバート、アッコ、リラ、ジョニィ、マンライバートル、ユート、カリン、月里朶の10名、プラス、ジーナの恋人(アッコも良く知る)の11名。
女性6名、男性5名のチームとなった。
残念ながらニューナインウィッチではない。イレブンウィッチーズと呼称しよう。
地図 赤丸は今後、おそらく重要となる地
◆武陵源
「ロバートさんは私のクルマに乗ってください。」ジーナがトーマスの父ロバートに声をかける。
ロバートが父のフランクリンから聞いたのは、ジョニィは武陵源で見つけたという話だ。
フランクリンは既に多くの妖精達を従え、森を探索していた。
武陵源の奇岩が立ち並ぶ森にその鳥は居た。
この世に1羽しか居ない貴重な鳥。
そんな鳥に出会えたのは奇跡というしかないだろう。
その訳はまだ誰も知らない。知っているのはジョニィの心の奥深くに眠る朱雀の原始意識・・・
「私はラモスに乗るからリラは流星丸ね。」とアッコ。
すると、
(おねえちゃん、ジョニィと話をしていい?)
ラモスが四神獣の側面を見せたジョニィに興味を示す。
(お、どうしたの?もしかして嫉妬?)とラモスをからかう。アッコはラモスに対してもおねえさん気取りだ。弟が2人になった様なものか。
(いや、なんか似ているような気がして。)
確かに人格として見た場合、性格は似ているかもしれない。子供っぽいが、意外と良く考えていてアッコをサポートする。
ジョニィにテレパシー通信を試みるラモス。
(もしもし、お話してもいいですか?)
全く気負いの無い子供の様な声のかけ方。
(いいですよ。)
(カガリさんの使い魔のラモスと言います。ジョニィ君は大きくなって魔獣みたいになったけど気分はどうでした? 僕もゴルドバーンになると見えなかった世界がよく見える様になったけど、そんな感じ?)
(そうだね。そんな感じかな? それと神様に守られている気分が強くなったかな? きっとプロメアの世界と繋がっているからだと思うけど。)
(そっかあ!プロメアと繋がれるんだ!それはすごいね。)
(でも、君は時も空間も次元も渡ることができるんでしょ。すごいよ!)
(そうなんだけど、次元を渡れるのはきっとカリンさんから魔力を貰っているからだと思うんだ。)とラモス。
(そっかー、カリンさんも異世界の人だもんね。僕もカリンさんの力のおかげで、この世界に居てもプロメアと強く繋がれるんだ。)
(ところで、ジョニィ君は生まれた時の記憶はあるの? 僕はカガリさんの部屋で生まれて、すぐにカガリさんとパートナーになれたけど。)
(それが無いんだ。不思議なことに。僕は誰かと交わることで記憶が発生するみたいなんだ。)
(ふーん、でも、噂じゃ、君は1000年くらい生きているらしいけど、そんな前の記憶は無いの?)
(それが、無いんだよ。どこかにありそうな感覚はあるのだけど・・・どこか別の場所に行っちゃったのかな?)
(何だか、とっても不思議な話ね。)と、ここで突然アッコが割り込む。アッコもテレパシー通信は得意だったのだ。
(生まれ故郷に行けば、何か思い出すかもしれないよ。)とアッコが締めくくる。
(武陵源だね!!)
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リラとジョニィは仲良く並んで飛ぶ。
カリンは、「いでよ、ホウキ!!」と唱え、ホウキを出した。
ユートも同じ方法だ。ユートもやはりカリンと同じ世界から来たことがこれでバレバレだ。
そして、ルチア組の様にホウキを連結する。その方が推力が増すらしい。
麗麗はファイヤーボールに乗って飛ぶ。
残りは月里朶とマンライバートルだが、ジーナがある意図を持って、自分のクルマに乗せるようにした。
「やっぱり、私が単独で飛ぶのはダメということね。逃げるとでも思っているの?」と月里朶が口を開くが抗議しているそぶりはない。
「いえ、そこのマンライバートル君もモンゴル出身なので、話が合うかも?と思って・・。貴方はキタン族だから近いでしょう。」
魔法学校の1年生に、先程まで敵だった組織のTOPと話をせよという無茶振りをするジーナ。
「あ、はじめまして・・・マンライバートル・ナツァグドルジです。あまり目立ってなかったから印象に残っていないと思いますが・・・」
「大丈夫よ。私は敵の動きは全員とらえているの。あなたは例の小型ロボを操っていた人を守っていたわね。」
「そして、あなたもアノ戦略的要衝地帯の出身なのね。面白くなってきたわ。」
「いえ、いえ、単なる小作人ですから、お手柔らかにお願いします。」
「それじゃ、ジーナさんの恋人という方はどういう人かしら?」と今度は月里朶がジーナに話を振る。
「フフ、楽しみに待っていて。武陵源に着けばわかるわ。」
なかなか、緊張感のある同乗者の組み合わせだ。
ロバートも汗をぬぐいながら興味津々に聞いている。
◆ジーナの恋人
レイラインの中を中国魔法警察の麗麗がファイヤーボールに乗って先頭を進む。
その後をリラとジョニィ、そしてカリンとユートが続き、アッコがその後ろでラモスに乗って見守っている。
最後尾は緊張感に満たされたジーナが運転する空飛ぶクルマでロバート、マンライバートル、月里朶も同乗している。本当はクルマが勝手に自律飛行しているのだが・・ロボットへの変形機能も持った魔法警察謹製のクルマだ。
テッペリンから武陵源までは1180kmあるが、ラスタバンと日本の国生みの神社を結ぶレイラインハイウェイと同じく、この中では空間は縮む。
そろそろ到着だ。
眼下に独特な奇岩がいくつもそびえ立つ武陵源の驚異的な光景が現れた。霧にも覆われており幻想的だ。
その中の老木湾という所でジーナの恋人は待っていた。
武陵源にあって比較的開けた場所。
中国の人々はまだ魔女を恐れている。見られない様にレイラインの出口は藪の中につくられた。
ラモスやファイヤーボールの様なドラゴンはしばらく隠れているように指示された。
また如何にも魔女っぽい服はこれから観光客に交じって探索するには不適切なので、着衣転換魔法で目立たない服装に替える。ジョニィも変身魔法で普通の鳥に変身した。
10人は飛んできた順番通りに藪から出て、ジーナの恋人が待つ広場に向かう。
アッコはちょっと会うのが気まずいのか、後ろに引き下がる。
そんなアッコを横に見ながらジーナが追い越して行った。
「ジーナさん、あそこのベンチに座っている方じゃないでしょうか。」と麗麗が彼の居る方向を指し示した。
その彼が気付き、振り向いた。
「やあ、久しぶり、中国は楽しめたかい。」と笑顔で話かけてきた。
「ええ、色々、凄いことがあったけど、楽しかったわ。」とジーナが応える。
そして、
「えーっと、こちらがルーナノヴァ魔法学校のカリンさん、ユートさん、マンライバートルさん、といっても知っているわね。」
「なんと、あなたでしたか!?」驚き、そして笑い出すユート。
「それから、リラさんと、隣の鳥はジョニィ君。」
「ここでお会いできるとは思いませんでした。なるほど、知識が役に立つというわけですね。」とリラ。学究肌という共通項がある様だ。
「こちらはトーマス君のお父さんのロバートさん。」
「はじめまして。よろしくお願いいたします。名声は聞いております。」とロバート。どうも有名なようだ。
「そして、こちらがテッペリンを治めている月里朶さん。」
「まさか、中国魔法界の頂点とも言える貴方にここで会えるとは思っていませんでした。」と今度は彼から言葉をかける。
月里朶の着衣も目立たない普段着に変わっていたが、スタイル抜群で長身、しかもその強烈なオーラは隠し切れない。やっぱり周囲の注目を浴びてしまいそうだ。
「表の世界を楽しみますわ。」と微笑む月里朶。
「えーっと、そして、彼女ね。カガリ・アツコさん」 アッコは後ろで目を合わさないようにしていた。
「やあ、アッコ! 久しぶり・・でもないか。もしかして、驚いている?」
調子良さげに声をかけてくるその人物を見てアッコは戸惑いながらも何とか返答する。
「どうしてあなたは、こんなに私を混乱させるの!? あんな出会いをして、時間旅行までさせて、ラモスと出会ったけど・・、マジカルスターになる私のマネージャーをしてるはずなのに、どうして、ジーナさんがあなたの恋人なの? あ、ジーナさんはとってもいい人だけど・・」
「ま、これはいろいろあって、話と長くなるのだが、前から警察には協力していてね。」とめんどうくさそうに話しを始める彼の名はセシル・ニュート。
ラスタバンもとい、ストーンヘンジで出会った考古学者だ。
ルーナノヴァの学び直し枠で入学し、アッコも先生として(とてもやりにくいが)教えていた一応学生だ。
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「これで揃ったわね。」とジーナ。
「では、観光客の振りをして、まずは一般的なルートで回りましょう。まあ、今まで色々あったし、つかの間の休養ね。」とリラックスムードでジーナが語る。恋人と再会して幾分か楽しそうだ。
(まさか、2人で観光デートが目的じゃないよね?)と密かに疑うアッコ。
「その後、セシルの考古学的観点とロバートさんの情報を総合的に分析して怪しい所を探索しましょう。」
一応、考えはあるようだ。
(そりゃ、そうじゃなくては何のために来たのか?)まだ疑いの目を完全には晴らしていないアッコ。
リラは肩の上にジョニィを乗せて楽しそうに語り合っている。
(ジョニィは10mの魔獣から30cmの鳥にまで変幻自在だ。不可思議な能力を持った神獣だわ。)
神秘の力に宇宙から来たアノ人の言葉もあながち嘘とは言い切れない。
(まあ、私も楽しみながら、驚きの結果を期待しよう・・・・) と思うアッコであった。
◆天書宝匣~黄石寨六奇閣~張家界金鳳客桟
待ち合わせ場所からしばらくは川に沿って歩く。遊歩道が整備され、普通のハイキングコースの様だ。秘境っぽい怖さや厳しさは無い。
天書宝匣のあたりはまるで日本の雑木林の様だ。アッコも気楽に駆けて行く。あまりに日本的で懐かしさのあまり川で遊びたくなる誘惑にもかられる。
ただ遠くに見える奇岩が普通の場所でないことを思い出させてくれる。
いかにも神秘の山。伝説の神獣が居てもおかしくない場所だ。
ここで約20年前、トーマスの祖父のフランクリンはジョニィを見つけ、そして捕まえたのだ。
どうしてそんなことができたのだろう。
アッコはテレパシー通信でジョニィにアクセスしてみる。
(何か思い出した?ここで君はトーマスのおじいさんに会ったんだよ。)
(そのおじいさんは沢山の妖精を引き連れていた。それで興味を持ったんだ。)
何かを思い出した様に心の中で喋り出すジョニィ。
(それまでの記憶は無いんだ。きっと獣の記憶なのだろう・・人を見つけて、人格が宿ったんだ。)
「私がどうして玄武や白虎、青龍を使い魔にできたか、教えてあげてもいいわ💜 そのおじいさんも相当の魔法使いだったんだろうね。」月里朶が口を開いた。
それを聞いてロバートが驚く。
「何か特別な魔法が必要なのか。」ロバートは父がどのような魔法を使うのか?実はあまり知らなかったのだ。
「カガリさんが時を渡れるドラゴンを使い魔にしたときも時間がかかったでしょう❓なので、時の魔法が鍵となるわ。」
「時の魔法⁉ 幌呂魏有無?」アッコが謎の言葉を叫ぶ。アッコはラモス事件を経て時の魔法を探求していたのである。
その謎の言葉は時の魔法を封印していたルーナノヴァの秘密の場所に関するものであり、その魔法はラモスが取った時の戦略の様に、時を消費せずに時を繰り返す魔法だ。
「月里朶さん・・・あなたは何年生きているの?」恐る恐る聞くアッコ。
「フフ、そんなものには意味が無いわ。それに、私の真の魔力に関する情報は明かさないわ。」
「ズルいわね。私たち、今は協力者同士じゃないの?」
(まだまだ、油断できないことははなから承知だが・・
200年生きているあいつ(目玉オヤジ)も同じなのかもしれない・・・)密かに思うアッコ。
(ジョニィは1000年生きているらしい・・・でも確認された情報ではない、ジョニィのそれらの秘密を解明するためには、時の魔法の解明も必要なのかもしれない。)
アッコにしては深く考える良い機会となった様だ。
そうこうしているうちに、黄石寨六奇閣に到着した。ここにはちょっとした店が出ている。一旦休憩することになった。
ここで中国のお茶をいただく。
ここ湖南省でのみ生産される国策茶の一つ、茯茶(ふーちゃ)だ。
もともと遊牧民が飲んでいる発酵度の高い黒茶の一種だ。野菜を取ることが難しい遊牧民がミネラルや食物繊維を賄うために作り出した薬効の高いお茶だ。
なので、月里朶ご推薦の一品となる。彼女の素晴らしい身体の秘密の一つかもしれない。
「あー、あったまる、いい香り。月里朶さん推薦だけに身体に良さそう。」アッコも満足そうだ。
(ヤスミンカが得意だった味覚魔法でもっと美味しくできないかしら。)と密かに思うアッコ。
「このお茶は政府が管理しているけど、私達は魔法も駆使した本物の茯茶を作れるわ。だから、彼らは私達をなんとかして支配下に置きたいようだけどね。でも、そうはさせないわ。」
(これが月里朶が表舞台に出ない理由の一端かもしれない。)とアッコは思った。ジーナや麗麗はどう思うのだろう。
「なかなか難しい問題よね。でも、今はジョニィのルーツを探ること、そして、可能なら時の魔法の解明につながる手がかりを探ることに注力しましょう。」とジーナが場を収めようとする。中国魔法警察の麗麗にも気を使っているだろう。
「うーん、いい茶だ。頭も冴えて、推理も進むだろう。」とセシルが口を開いた。
「何を推理しているんですか?」アッコが本当に頭、働いているの?と怪訝そうに聞く。
「古代中国の出土品から示される鳳凰らしき生物の生息地候補と、その後の古代文明における神話と絡めて、ジョニィと同種の生命体が居た最も可能性の高い場所を探り当てようとしているのさ。」
「ふーん、そういう情報って結構あるのですか?」一応単純な興味から聞くアッコ。
「舐めたらダメだよ。とても沢山ある。でもそこから有益な情報を得るのは相当スーパーな探偵が必要だ。」
「ジョニィ君の記憶も発掘できたらいいのにね。」とリラも議論に参加する。
(ジョニィ君の大昔の記憶はどこかに行ってしまった感じだと、前にジョニィ君は言っていたけど、そこからは何か進展はないの?)とアッコがジョニィに聞く。勿論、声には出さずにテレパシー通信で。
鳥と話をしていると思われたら怪しまれるだろう。
でも、オウム型に変身しているので、何かしゃべっても怪しまれないかもしれない。
(特に進展はないのだけど、記憶の蓄えられている場所に行くと思い出せる気がするんだ。だから、僕が居た場所を辿ると何かわかると思うんだ。)
(なるほど、だから、今回の探索がとても重要なのね。うん、おねえちゃんもがんばるから、アンタも思い出してね!)
「と、いうことだから、みなさん、今回の探索は頑張りましょう!!」と急に盛り上がるアッコ。
「え、どういうこと!?」とユートが尋ねる。
「ジョニィ君が居た場所を辿ると、ジョニィ君の記憶が蘇って色々判るようになるってことよ。」
月里朶の目が光る。麗麗も何か考えているようだ。ジーナはさてどうしたものか?と思案中にも見える。
リラは不安を感じながらも、ジョニィの全てを受け入れ、彼を愛し、守って行く決意だけは変わらなかった。
アッコは風雲急を告げている様な場の空気を読み取りながらも、不思議と何かを期待していた。
折しも役者は揃っていた。
古代魔法生物にも詳しい考古学者のセシル。
ジョニィをヨーロッパに連れてきた民族学者兼探検家の息子であるロバート。
中国魔法界の正常化を目指す中国魔法警察の麗麗。
おそらくそれに反発し別の道を目指そうとする遊牧民出身且つ山の民の王国を治めるテッペリン最高位の魔女、月里朶。
理性的な常識人だろうと期待できる英国魔法警察の文武両道の警察官にして実は魔女のジーナ。
そして、ダークホース、レアアース事業に関わる名家出身のマンライバートル。
さらには時の魔法を使う異世界のユート。
同じく異世界のカリンという、実は驚異の魔法学校1年生たち。
まさか、彼らの活躍でリラが時をかける少女になるとはこの時、誰もが予想できていなかった。
ただ、ジョニィは何かを感じ取り、アッコは野生の勘でそこに何かを見ていたのである。
休憩を終え、再び歩き出す一行。セシルは奇岩の上にあるホテル、張家界金鳳客桟に行こうと言う。
「えー、休んだばかりなのに。観光じゃないのよ。」とアッコが真面目なことを言う。
「いや、あそこまでは結構距離があるから、また休憩しないとね。」と弁明するセシル。
「体力ないのね。」と体力には自信があるアッコが笑う。
「まあ、ホウキで飛んで行ければたやすいのだが。。。」
「え、ホウキで飛べるようになったの?」
「バカにするなよ。まあ淡路島ではまだ飛べてなかったけど、ジーナの指導が良くて飛べるようになったのさ。」さりげにジーナとの仲を持ち出す。
「でも、ここでは飛べないわね。中国ではまだ魔女は市民権を得ていないですから。こんな政府が管理している観光地に魔女が現れたら警察に捕まるでしょう。」
とジーナ。
「(中国の)警察いるじゃない。」とアッコは麗麗の方を見る。
「それに月里朶がいますからね。月里朶がいるなんて大変なことですから。」とジーナが皆が忘れている重大なことを思い出させる。
確かにテッペリンの戦いでラスボスをだった月里朶はすごかった。美しくて恐ろしい、その力を思い出すアッコ。そんな力を持った人がこんな傍にいるなんて、一般人が知ったらパニックになるかもしれない。
アッコは玄武の上で月里朶と結構いい勝負をしたことを思い出す。なんとか近くにいるうちにその力の謎を解明して勝てるようになりたいと密かに思うアッコだった。
とりあえず、今は魔法は封印して、人間らしく歩く。意外にも女性の方が元気がいい。
体力には自信があると、いつも言っているアッコをはじめ、魔力だけでなく体躯も素晴らしい月里朶。警察官として鍛えているジーナと麗麗。やっぱり万能のリラ。そして引っ込み思案から完全に仕切りキャラに変貌したカリン。
彼女達が先を歩き、男性陣が続く。
ロバートは少々歳を取っている。セシルはやはり学者だからか?でも考古学者は冒険者でないとダメなのだが。ユートは単にだらしがない。マンライバートルは太り過ぎか?(でも、彼はユートに合わせているだけでその実力は隠しているのであった。)
川を離れ、奇岩が密集している狭間を進む。ひときわ立派な奇岩を登る途中にある張家界金鳳客桟を目指す。高さも十分にあり、展望も素晴らしいことだろう。
100龍エレベーターは326mを一気に昇るが、それは例外的だ。そのようなものはこちらには無い。階段を登って行く。相変わらず元気なアッコは一番乗りで張家界金鳳客桟に着いた。断崖絶壁に建てられたホテルだ。早速テラスに出て絶景を眺める。
「すごーい!! 垂直にそそり立つ奇岩がいっぱい!! ああ、この中を飛んでいきたいーーー!!」
続いて、アッコを慕うリラがジョニィを肩に乗せて到着した。ジョニィは鳥なので、飛び立っても不思議ではない。と思ったら実際に何かに引かれる様に飛び立ってしまった。
「あ、ジョニィ君、どこに行くの?」と思わずアッコが叫ぶ。
「何かを感じたんじゃないかしら?」とリラ。
早速、アッコはテレパシー通信で呼びかける。
(ジョニィ君、どうしたの。何か感じたの。記憶を思い出しそうなの?)
(うん、まだわからないけど、なにか、あちらの方に有る感じなんだ。記憶のかけらかもしれない。)
武陵源の北西の台地の方に向かう。観光ルートからはずれた所に何かがあるのかもしれない。
フランクリンがジョニィを見つけたのも人が居るような場所ではないだろう。
月里朶と麗麗、それにジーナとカリンもやってきた。
カリンも西方に何かを感じたようだ。植物と話のできるカリン。そちらにまだ古代イグドラシルの痕跡が残っているらしいことを伝えてきた。
「やはり、あちらの方ね。カガリさん、あなたの使い魔をそちらに回したらどうかしら。」と月里朶が言う。
「魔獣の方が人間より敏感よ。」
アッコは使い魔のドラゴン、ラモスに乗ってやってきたが、今は老木湾の茂みに隠れておくように指示してある。麗麗のファイヤーボールもそうだ。
「やってきたレイラインを戻って西から森に隠れて向かえば見つからないと思うわ。」
アッコはラモスとのテレパシー通信を試みる。結構離れてしまったが、アッコはラモスの居る場所を思い浮かべて精神を集中させる。ドラゴンライダーとして、時の間隙、空間の間隙を飛ぶために道しるべを見つける時と同じ様に・・。
この姿からはアッコにも円熟味といった類のものが発せられることが見てとれた。真剣なアッコを見ていつもは揶揄うユートも少し驚いたくらいだ。
つながった・・・アッコは心の中でラモスと会話する。
(ラモス君、これからジョニィ君が向かったところに君も行って欲しいの。私達は観光ルートを通って来たからこちらには来てはダメで、一旦レイラインを引き返して西に500mほど行ったところから森の中に出て。
そこから北に向かってくれない。ある程度行けたらジョニィ君と話ができるようになると思うから、そうするようにジョニィ君にも伝えるわ。)
(オッケー、おねえちゃん。なんだか、楽しくなってきたね。)
円熟味の出てきたドラゴンライダーだが、会話の中身はかわいいものだ。
アッコがラモスと連絡が取れたことを伝えると、「なかなかやるわね。」と麗麗が感心する。
最初は敵として現れ、アッコを異次元で翻弄した実力者の麗麗だ。少し感心しながらも麗麗も自分の使い魔の中国火の玉種、ファイヤーボールドラゴンと連絡を取る。
(おねえちゃん、あいつも動き出した。赤いドラゴン。)ジョニィがアッコに伝えてきた。
ドラゴン同士は話はできないのだろうか。イギリスと中国のドラゴンだから難しいのかもしれない。が、単に恥ずかしいだけかもしれない。
麗麗のアジトでラモスはファイヤーボールに体当たりを食らわした。それで気まずくなっているのかもしれない。
まあ、かわいいものだが、気にしないでおこう。
さて、アッコたちはどうするか。ジョニィを追いたいところだが、ホウキで飛んでいくのはやはりマズイ。一旦地上に降りて、アッコ的対策で行くことにした。
◆武陵源奥地へ
地上に降りたアッコたち。観光ルートとは反対の整備されていない場所を慎重に進む。近くに人が居なくなったことを確認し、全員変身魔法をかけて動物となって森の中を進む。
アッコは得意のネズミだ。カリンはかわいくウサギ、ユートはたぬき、リラは賢そうな犬、麗麗は狡猾なキツネ、ジーナはカッコいい狼、そして月里朶は美しく力強く速く走れそうな鹿だ。
セシルは魔法歴は短いもののジーナのおかげか、害の無さそうなかわいい熊になった。意外と魔法歴の長いロバートは若干のブランクはあるものの中国だからとレッサーパンダになった。マンライバートルは身体に合わせてパンダを選んでしまう。
皆進んで行くが、それぞれの動物の特性ゆえ、速度がまちまちだ。鹿は華麗に跳躍し、先頭を進む。その後を狼と犬、キツネ、意外とウサギも速い。そして小ささが不利なネズミ、変身してもだらしない狸、鈍重なかわいい熊とパンダ、レッサーパンダも意外と遅い(歳も関係?)。
つまり、月里朶、ジーナ、リラ、麗麗、カリン、アッコ、ユート、セシル、マンライバートル、ロバートの順だ。やはり女性陣が前だ。
月里朶=鹿が逃げてしまわないように(そんなことはしないと思うが)、ジーナ狼が目を離さず後を付いて行く。
リラはしばらく進めば鳥になることを考えていた。鳥型妖精で鳳凰とも朱雀とも見なされているジョニィと一緒に飛ぶことを夢想していた。
そう言えば、アッコもジョニィと初めて会った時は鳥に変身していた。そして、ロバートの体内にあったプロメアの世界に突入したのだった。
武陵源もだいぶ奥地に入って来た。もはや人に見られる危険性はないだろう。ネズミで走るのに疲れたアッコは鳥に変身した。呼応するようにリラも鳥に変身する。
「おいおい、飛んでいくとはズルい。もうここまで来たらいいだろう。いでよ、ホウキ!」と人間に戻ったユートがホウキを出して飛び始めた。
「もう、しかたないわね。」とカリンも人間に戻ってホウキを出してユートに続く。
ということで、皆、飛び始めた。
変身魔法が得意な者は、念のためを思ってか、変身して飛ぶ。
月里朶はまたもや華麗で気品のある鶴だ。おそらくタンチョウだろう。こんなところに鶴が居るのか?と言う気もするが、これだけの秘境、居ても不思議ではないだろう。ちなみに中国の国鳥候補第一位がタンチョウだった。しかし学名が日本の鶴と言う意味だったため退けられたといういわく付きだ。でも、中央政府に抗う少数民族の月里朶には相応しいかもしれない。
狼だったジーナは鷹に変身する。キツネの麗麗はカラスだ。
ちなみにアッコは平凡な鳩、リラは美しい中国のキジ、虹のキジに変身した。できるだけ鳳凰に近づきたい、ジョニィに近づきたいという想いが表れているのだろう。
アッコがラモスの接近を感じた。ファイヤーボールも近くにいる。人に見つからないように森の中を低空飛行する。7mほどもあるドラゴンが巧みに飛ぶ。彼らは人間より早く謎の魔力を探知していた。
(ジョニィ君が向かっているところに謎の魔力が発生しているよ。)とラモスがアッコに話かけてきた。
(謎の魔力?)
(そう、この世界のものではなさそうな・・・)といつもの賢いドラゴン、ラモスが答える。
(この世界のものではない?まさか、宇宙? ジョニィ君は本当に宇宙から来たんじゃないわよね??)
(でも、トーマス君がロバートさんの身体に入って異世界に行った時に宇宙がある!って叫んでいたわね。)
今まで、テッペリンでも魔法祭との時でもプロメアの世界とつながっていたが、それがどこにあるのかはわかっていなかった。
(そうか、それは宇宙にあると考えるのが自然だよね。太陽もあるし・・・ あの太陽ってまさか本当の太陽だとは思っていなかったけど・・)
鳥になったアッコは考え過ぎて木にぶつかりそうになる。
「ひえーっ、あぶない!!」
(そろそろ、僕の上に乗る? 考えながら飛んだら危ないよ。)と優しくラモスが声をかけてきた。
「さーて、そろそろ楽しいショーの始まりだよ。カガリさん、時の魔法を発動して一足先に朱雀の記憶を確認しに行かないかしら?」
と華麗なタンチョウの月里朶がアッコに何かを持ちかける。
「え、なに、言っているの?? 訳わかんない。分からないの悔しいけど、あなたのペースに巻き込まれるのはゴメンだわ。」
「フフ、私が先にジョニィ君を独り占めにしてもいいかしら。」
「ダメよ!! それは! 私がやるわ!」 といつもは優しい口調のリラが怒りを込めて叫ぶ。
華麗なタンチョウと美しい虹のキジが並行して飛ぶ。目的地まで競争しているようだ。
その後を鷹のジーナ、そしてラモスに乗ったアッコと、麗麗もファイヤーボールに乗って後を追う。
「カガリ先生、時の魔法を教えてもらえますか? 先生は幌呂魏有無を研究なされてましたよね?」
「あ、あれは・・・」 アッコは言おうとして口を詰まらせる。
(キケンだわ・・・)
(受け皿が・・・)
(こんな時、スーシィが居てくれれば・・・)
「リラ、乗せられちゃダメ! 過去から戻れなくなる危険性があるわ。」
「その点は私がコントロールできるから大丈夫よ。」月里朶が自信を持って断言する。
「行くなら私よ。私は5000年前からも戻って来た。ラモスは時の間隙を飛ぶ魔獣よ。私なら大丈夫だわ!」
アッコは今回は別のやり方のため、内心不安もあったのだが、リラを危険な目に会わせるわけにはいかない。
こうして、アッコは月里朶の計画に付き合うことにしたのである。
◆宇宙と時間と意識の結節点
武陵源の北側奥地は浸食によって作られた奇岩はめっぽう減り、台地となってきた。その上を地面を這う様に飛ぶ。
アッコはジョニィに追いついてきたことを感じ取った。
(ジョニィ君、近くに来たよ。今はどこにいるの?)
台地に大きな陥没が出来ていた。直径は2kmくらい。底は見えない。
その地下に吸い込まれるような空間の中心にジョニィは居た。
陥没の円周に到着したアッコたち。
「ここが意識の跳躍が可能な場所ね。」月里朶が口を開いた。
「どういうこと? ここは何なの?」
「時の魔法を使える者はここで自分の意識をいかなる時にも持って行けるわ。これはここが宇宙とつながっていることも意味しているのだけど。言わば宇宙と時間と意識の結節点ね。」
解説する月里朶。
急に壮大なことを言われても多くの人は理解できない。
ただ、ジーナと麗麗は分かっていた。国家が追っていた秘密だからだ。
「でも、それは単なる一手段、朱雀の記憶を蘇らせ、本当の力を解放することこそが目的よ。」
テッペリンでも語った月里朶の野望が再び露わになる。
「そんなことを強行すれば、また我々と戦うことになるわよ。」ジーナ、そして麗麗が警告する。
だが、月里朶の意識は既に空間を超えテッペリンにつながっていた。テッペリンからノットオーフェ・オーデン・フレトール(に相当するもの)が放たれた。
ここにつながるハイウェイレイラインが形成されたのである。
見えない底から、再び玄武、白虎、青竜、黒竜、黄竜が現れた。月里朶の力の象徴、5体もの神獣だ!
想定外の展開に固まるアッコたち。
「なんてことを!! 月里朶さん、どういうつもり?」アッコが呆れて叫ぶ。
「あなたもリラさんもジョニィ君の真の姿を見たいでしょ。でもそこの警察のお2人は望んでいないようだから、邪魔されないように用心棒を呼んだだけよ。」
「カガリさん、あなた一緒に行くと言ったわね。来る覚悟はあるのかしら。」
「行くわ、ジョニィ君のルーツを知るのが今回の目的だから。でも、あなたの野望には興味ないし、もしそれが悪いものなら私が阻止してみせるわ。」
「アハハ!言うわね。好きよ。そういう貴方のところ。」
「じゃあ、時の魔法を発動させるわね。あなたも多少は心得があるようね。」
「カガリ先生、私も行きます。 私は・・・ 私は・・・彼の・・・ 恋人ですから・・・」 理知的だが堅物のリラが一生懸命、想いを絞り出すように言葉にした。
そこまで言われてはアッコもどうしようもない。
「いいわ。リラ、そのあなたの想いとチカラ、きっと大丈夫よ!!」
「なんて、展開⁉️」 呆れた顔の麗麗。
「ジーナ、どうするの?」
「仕方ないわ。彼女たちに任せましょう。」
アッコにとっては3度目、リラにとっては初めての時間旅行、ただし、今回は時間間隙に入って生身が移動するものとは違う。それはイグドラシルとシンクロできる魔法を使える者がイグドラシルの力も借りて行うものだ。アマンダとコンスタンツェがNASAの技術でユートとカリンをサポートしたことも同様だ。
それに対し、今回は意識を人間の力だけで時間の中を移動させるものだ。だが、それも実は宇宙から来る謎の力を利用していると思われる。経験を積んでいるらしい月里朶と違いアッコ達には実質、初めての未知のものだ。ただ、アッコはルーナノヴァの時間の間でそれにつながる魔法に触れていたのである。
アッコとリラは月里朶に連れられ、ジョニィのところに向かう。月里朶はまだ鶴のままだ。アッコとリラもまた鳥になって向かう。ジョニィも鳥なので実はその方が都合が良いらしい。
ジョニィを囲む様に3人(3羽)が円陣を組む。
月里朶が何か呪文を唱え始めた。
ジーナや麗麗たちが見守るが見た目には何も起こらない。
意識のジャーニーだからだ。
はたして、この後、ジョニィに関する秘密が何か明らかになるのだろうか。
月里朶が語った宇宙から来た人物との関わりは???
次回
第2話 黄山