◆ユリドとスーシィ

「なるほど・・・・ 貴方・・・、見かけによらず聡明だね。それに度胸もある。」

一番後ろに居た煌びやかな装飾品に飾られたセクシーだが品のある魔女服を着こなす長身の美女が口を開いた。


スーシィは彼女を見て少し驚く。若く、しかも絶世の美女だ。


「お褒め頂きありがとうございます。貴方の様な若い方がここを仕切っていらっしゃるとは思いませんでした。」
スーシィが素直に心境を明かす。

そして、美しくも底知れぬ力を感じる山の民の王に対し、核心の質問を投げかける。
「貴方も聡明なお方と見受けましたが、どうしてバーニッシュを捕らえ、プロメアとのつながりを確保されようとしたのでしょうか。」
先ほどからスーシィにしては丁寧な喋り方だ。

「なかなか、ストレートに物を言うお方ですね。話が早くて気持ちが良いですわ。」
山の民の王が前に出てきた。身長は180cmはあろうかと思われる。腰には2本の魔法神器と思しき豪華な杖が差さっていた。
口調も先ほどより丁寧になっている。

「私は月里朶(ユリド)。遊牧民の出身ですが、訳あってここを治めさせてもらっています。」
「貴方が仰るようにここ亜細亜(アジア)の魔女達にはまだ西洋の様な明確なルールがありません。ですので、微妙な力関係で成り立っているのは仰る通りです。」

「しかし、我々には西洋の人々も知らない魔法の世界があります。たとえば中国の霊獣です。貴方のマンババラン島も魔獣の宝庫であるのはご存じの通り。魔力の結節点にあるからです。その膨大な魔力は産業革命以降衰えた西洋を上回るでしょう。そして、その発生源は我々の世界だけのものではないこともご存じでしょうか。我々も薄々感じてはいましたが、或る形でそれが明確に現れました。西洋の人々がバーニッシュと呼んだ異世界とつながった者達です。」

テッペリン最高位の魔女、月里朶から魔法の世界の、まだ人類が知り得ていない神秘の一端が明らかにされようとしていた。

「それは私達も理解しているわ。異世界だけに慎重に対処しないといけないこともね。」
ルーナノヴァ卒業後は故郷で魔術の研究に精力を費やしてきたスーシィ。この方面の研究ではアッコやロッテは勿論、コンスタンツェの居るNASA魔法研究所でさえ敵わないかもしれない。

月里朶が続ける。
「中国には4神と呼ばれる霊獣がいます。そのうちの朱雀は西洋でいう不死鳥です。まだ同時に瑞獣の4霊の鳳凰と同一とする説もあります。そして不死鳥の力の源は魔力を伴う炎です。つまり不死の力さえ持った鳥型妖精こそがバーニッシュの最も強い種なのです。」

「貴方の言いたいことはわかってきたわ。その最も強力なバーニッシュが欲しい訳ね。でも、それを独占しようとすることは却って世界のバランスを崩すわ。」
スーシィがジョニィを拉致したことを非難する。

「誤解ですわ。私達は彼を保護しようとしたの。彼を中国から西洋に連れて行った者がその後何をしたかしら。その息子は、人がバーニッシュの力、それだけではなく魔法を使うことさえ否定して、多くのバーニッシュを故郷へ返してしまいましたわ。」
月里朶が訴える。


あのブライトンベリー魔女パレードの時の事件のことだ。

魔法を否定するロバートが怒れるバーニッシュと共に襲ってきた事件。バーニッシュと人との衝突を避けるため、アッコが光魔法で浄化した。でも、その故郷へ返す道を作ったのはジョニィ。しかも魔法を否定したロバートを通り道にして。

「なるほど、そんな事件を起こした西洋の人たちより貴方達の方が適切に扱えると主張したいわけね。」

 

「察しがいいですわね。私達なら彼らが諦めたバーニッシュの能力を生かせます。そうすれば魔法の力はさらに強力なものになり、この地から偉大なる魔法の時代を復活できますわ。」堂々と野望を話す月里朶。

「でも、一方的な主張だけじゃ通じないわ。また危険なものだという誤解を生み、衝突を生む。ここは腹を割って話をする必要があるんじゃないかしら。」

(ここには魔女パレードの事件を起こしたロバートも来ている。)
スーシィが驚くべきことに非常に真っ当なことを言う。いや、実はいつも沈着冷静だったスーシィは元々そうだったのかもしれない。

◆宴

「なので、私達は宴の用意をしてきたわ。それじゃ、メイビィ、あなたの薬とパロパロの力を見せてあげて。」
パロパロは6年前、アッコ、ロッテ達とマンババラン島を探索した時に得たスーシィの使い魔だ。当時はかわいい幼虫だったが、今は立派な蝶となり、なぜか、ガーリィとサービィの双子の妹が世話をしている。

パロパロが翅を広げ、鱗粉を撒き始めた。
メイビィもパロパロの上に乗り、なにやら怪しい薬を撒き始める。

 

「スーシィ、大丈夫ーーーー!?」

そこへアッコ達がやってきた。

 

そこでアッコが見たものは巨大な蝶が鱗粉を撒き散らし、辺り一面がキラキラした金色に包まれている驚きの光景だった。

加えて、スーシィの一番下の妹、カリンのルームメイトのメイビィが楽しそうに何かを撒いていた。

 

「な・なにこれ?ヤバイものを撒いている??」

 

「スーシィさん達が撒いているものなら安心だわ。」と、なぜかジーナが断言する。

(いや、そんなことは絶対ない!)密かに思うアッコ。

 

「貴方達から振舞ってくれるとは、粋な真似をしますわね。」

月里朶が口を開いた。

 

「わざわざ遠くから来て頂いたお客さんもいらっしゃったようですわ。本当に宴をなさるつもりなのですね。」

 

「なに、なに、この状況はなに??」 状況が飲み込めないアッコ。

(それに誰?このちょっとダイアナみたいな喋り方のすごい美人。しかもメッチャ魔力ありそう・・・)

 

月里朶がアッコを見た。そして微笑む。

(面白くなってきたわ。この子がスサノオの魔法神器を受け取った子?)

そして、ダイアナを見つめる。

(彼女がバーニッシュになった魔女。最高に興味深いわ。)

 

さらにカリンの傍に居るゴルドバーン、麗麗の傍にいるファイヤーボールを見て、ニタリと笑う。

(それに魔獣が3体。私の魔獣と合わせて6体・・・)

 

魑魅魍魎とした亜細亜の魔女たちの前代未聞の宴が始まろうとしていた。。。

 

◆感情と意識がつながる戦場


蝶型魔獣パロパロが撒き散らす鱗粉で当たり一面は金色の世界だ。
 

「こんなの絶対、身体に悪いよね。」 アッコが断定する。
 

「ハハハハ、やってくれますわね。」月里朶(ユリド)が笑い出す。
 

メイビィが撒く薬は別の薬効があるのだろうか。
「これは9年前の魔女パレードで私が撒こうとしていた気分が良くなる薬の改良型だ。」 スーシィが白状する。
 

「ええ、そんな薬やっぱりあったんだ。」 呆れるアッコ。
と、アッコは何かに気付く。
これは、あの蜂騒動と同じ状況では?
(上から目線の伯爵に対抗したように、今回はあの如何にも天上から見ているような背の高い、悔しいけどすごく美人の、(わざとかしら)ダイアナみたいな喋り方をする、あの魔女をぎゃふんと言わせる構図なのね。きっと。)
 

すると、アッコは気分を高揚させるために薬と鱗粉を浴びに前に出る。
(やっぱりアッコはやってくれるわね。鉄砲玉を・・・) ほくそ笑むスーシィ。
 

「あなたが、噂のアツコ・カガリさんね。落ちこぼれだったのにスサノオの魔法神器まで授かった幸運の乙女。」 
月里朶がいかにも興味を持った顔で前に出てきた。

長身で2本もの魔法神器を持ち、煌びやかで豪華な魔女服を身に付けた山の民の王。

風格で圧倒されそうだ。ただ、遊牧民出身というだけに足取りは軽い。戦闘力は相当ありそうだ。
 

アッコも気持ちだけは負けないように気合を入れ直す。メイビィの薬の効果か高揚感もある。

だが、何か別の、自分ではない様な感情が湧き上がってきて、アッコは大いに戸惑った。
 

(アッコ、心の中で相手と対峙して!) スーシィが叫んだ。
いや、ちょっと違う、スーシィの声が心の中で聞こえてくる。
(え、これはテレパシー、まさか、みんな使えるようになったの?これが鱗粉効果?)
驚くアッコ。だが、アッコはジョニィとの交信でテレパシーの扱い方には慣れている。
(なるほど、そういうことね。私が先鋒を切るので正しいわけね。)心の中で呟くアッコ。
 

アッコは彼女なりにスーシィの戦略を理解した。
パロパロが撒く鱗粉は人が吸うと脳の神経にまで届けられ、神経活動を魔力の波動として周囲に発信する。

これにより意識から魔力の強さまで含めて、人に内在する精神活動全てが露わにされるという恐ろしい物質だ。
それにより、アッコの意識の中に他者の意識が入り込んできたのだ。
 

(確かに素晴らしい宴ですわ。みんなを楽しい気分にしてくれた上に蝶魔獣の鱗粉で我々の意識は一体となるわけですね。) 月里朶も理解しているようだ。
 

(でも、そうなると、ますます精神面の勝負となる訳ですね。身体能力が自慢の貴方にとって不利じゃないかしら?)
と心の中で語りかけてくる月里朶。
 

(それって体力バカって言いたいの。失敬な。メンタルの強さは誰にも負けないわ。あ・賢さもだいぶ身に付けたわよ。)意地を張るアッコ。
(アッコ、大丈夫かしら。)ダイアナも心配する。
 

でも、今は1対1で相対している。手を出すのは礼儀に反する。
相手側の騎馬民族衣装風の魔女服を纏った集団、おそらく遊牧民時代からの月里朶直轄の配下と思われる集団も手を出す気配はない。


ちなみに麗麗は漢民族出身だ。同じく漢民族の小太りの中年魔女が睨みつける。潜入捜査官だったことが明らかになり相当腹を立てているようだ。それがパロパロの鱗粉効果がなくともひしひしとわかる。
(あの魔女は私が相手をしないといけないようだわ。)麗麗がジーナに語る。
(あれはともかく、騎馬民族の魔女たちは相当手強そうね。)ジーナが警戒を強める。
 

(あの者たちの意識はどうなっているの?) パールやリラが心配そうに尋ねる。
(相手の意識とコンタクトを取る前に、まず、自分たちの意識を共有できるようにこの状態に慣れることが先決ね。)

スーシィがアドバイスをする。
 

戦いの中では自分の心のコントロールが極めて重要だ。今回はそれがダイレクトに仲間にも影響を与える。
しかも、相手にも伝わる。手の内をさらけ出して、純粋な「チカラvsチカラ」の戦いになるだろう。
しかし、戦いながらも密なコミュニケーションもできるわけだ。話し合いで解決できる可能性も高まる。ある意味、人間力が試されると言えよう。

◆月里朶と相対する者


(カガリさん、私の心を読めるかしら? 何を考えているかわかりますか。フフフ・・・)
 

(え・・・ なに・・? わたしを・・・愛している?)
 

(そんな・・・ わたしを惑わそうとしているの?  でも、本心なのよね。きっと? 鱗粉効果が本物なら。)
 

(アッコ!! 惑わされてはダメ!)
(ダイアナの声だ。みんなの意識も伝わって来た。みんな心配している。)
 

(愛しいアツコ・カガリ。私の元へおいで。)
月里朶は魔法神器の一つに手をかけた。
 

(アッコ、魔法を出す気よ!! 気を付けて!)
ダイアナの(心の)声が一段と高まる。
 

月里朶は魔法神器に手を添えただけだ。そのまま手だけを上げる。その手から蜘蛛の糸のようなものが放たれた。それはたちまち大きな網を形成した。
 

「アッコ!捕獲魔法だわ。逃げて!!」 声に出して叫ぶダイアナ!
 

(ふふ、鱗粉が裏目に出ましたわね。行動が予測できますわ。)
 

(ダメだわ、心理戦で相手の術中にはまっている。) ジーナが分析するも、対策は・・・
 

アッコはあえなく網に捕まった。
(ああ、なにこれ!? 魔力が失われる・・・)

力なく倒れ込むアッコ。
(なんてこと、わたし、全然いいところ無しだわ。)

麗麗に捕まり、月里朶にも簡単に捕まり、ちょっと自己嫌悪に陥るアッコ。

 

ダイアナをはじめ、みんながアッコを助けようと前に出る。
が、スーシィが止めた。
 

(あいつの予測と同じ行動をしてはダメ!)
(あやつ、魔力も本当の力も出していない。こちらばかりが心の内をさらけ出している。心のバリアがとても強固だ。それを破らなければ不利な状況は変わらない。アッコをどうするのか?アッコの心にコンタクトを取る際に隙が見えるかもしれない。)(スーシィ心の声)
 

(みなさん、様子見モードに入られた様ですわね。別にカガリさんを食べたりはしませんからご安心ください。)
 

(でも、本来の狙いはバーニッシュのはずだわ。ダイアナとジョニィ。)(スーシィ心の声)
 

(月里朶さん、本来は私が狙いではないのですか? 私もそこへ招待いただけるかしら?)ダイアナが前に出る。
 

(ダイアナさん!!) だが、リラが割り込む。リラは心の声を大きく上げた。リラはジョニィと普段から心の声でコミュニケーションを取っている。心の声のやり取りには慣れている。


(僭越ながら、私とジョニィの方がこのような場での戦いには慣れています。あの魔女の狙いも不死の力を持った鳥型妖精と言っていました。私とジョニィが対処するのがベストな解と思います。)
 

まるで、9年前の魔女パレードで、騒動に的確に対処した8才のリラを思い起こす様なしっかりした口調で話すリラ。ジョニィとも既に心の内を共有し腹を決めているようだった。
 

ついに新世代のダイアナが出てきたわね。
妙にルーナノヴァの状況に詳しいスーシィ、メイビィから聞いているのだろう。
 

麗麗のアジトでの戦いで強く結ばれた2人、その活躍は皆の予想を上回るかもしれない。

「月里朶さん、私が相手をするわ!」


リラが力強く、声と心の声の両方で宣言する。麗麗のアジトで自信を失い、泣いていたリラの面影は全くない。
 

(若い方が出てきましたね。まだ学生さんですよね。若い芽をつぶすのは本望ではありませんが、仕方ないですわね。) 微笑む月里朶。
 

(リラ!! 本気なの!? アッコもあえなく捕まったのに。)
ダイアナが止めに入ろうとする。


が、リラは杖さえ持たず、手を鳥のように広げた。その後ろの空気が揺らぐ。
(これは、ジョニィとの複合??融合技!!!!) ダイアナが目を見張り、止めるのを躊躇する。
 

「私もーー!!!」 何かに取り憑かれた様にパールまで飛び出した。

 

リラ、パール、そしてジョニィ。
 

ま、まさか、リラデパールの再現!!!???
トーマスがこれから起こることを感じ取り、身震いする。

魔法祭で3人がシンクロし、起こした奇跡!
しかし、今回は魔導エンジンは無い。

 

が、アルフレッドがニヤリとほくそ笑む。

UFOロボ小型版をまるでドローンを空に放り投げるように離昇させる。

 

リラの後ろの揺らぎが炎となり、鳥の形を描き始めた時・・


アイビークルネッタグルードーー!!!」なんと!今度はカリンの声だ。例の万能植物魔法の呪文だ!
 

2本のツタがゴルドバーンから放たれる。魏怒羅の時と同じ、いや、これはむしろ魔法祭でダイアナにバーニッシュの力を与えた時と同じだ。

2本のツタをレールの様にしてUFOロボが上昇する。

魔法祭の時を思い起こせば、これは異世界とつながるための儀式の始まりだ!!

 

(なんと、この子たちがアレをやってくれるのですか。驚きですわ。)

驚きながらも笑いが止まらない様な月里朶。

 

玄武―――!!!!
月里朶が「声」を出した。美しく力強い声だ。先ほどまでの過剰に丁寧な調子は無くなり、戦闘モードを入ったことを明確に告げている声だった。
 

天上から空飛ぶ亀が回転しながら降りて来た。蛇も従え、それが渦を巻く。
 

スーシィがそれを見て狂喜する。パロパロも喜んでいるようだ。
 

(宴はこれからが本番よ)

◆魔獣戦争

月里朶が玄武に飛び乗った。
魔獣の上に立つ月里朶はまさに王と呼ぶに相応しい出で立ちだ。


亀は一見大人しいイメージがあるが、この亀は違った。
鋭い大きな牙を剥き出して唸る。とても猛々しい亀だ。しかもそこに蛇が纏わり付く。
月里朶が魔法神器を手に取り、高く掲げた。それを振ると動きに従って蛇が動いた。蛇は魔法神器が放つ妖しい光も纏い、見るからに恐ろしい姿で威嚇する。
亀と蛇が発する威嚇の圧と月里朶の覇気だけで圧倒されそうだ。
 

「これは・・・想像以上だわ。」ジーナが驚愕する。麗麗を通じて情報を探っていたが、月里朶とその使い魔の魔獣の実態については未知の部分が多かった。
 

月里朶1人でこちら全員が圧倒されそうだ。
 

でも、リラは怖気づかない。パールも冷静に光魔法のチャージを始める。リラの背後の炎はジョニィの形を明確に描き始めた。が、それは普段のジョニィより数倍大きかった!!
 

(え、なに・・・ あれは? まるで魔獣だわ?) ダイアナが驚く。
(こ・これは・・・やはり・・・・) ジーナが何かに感づく。
 

(みなさん、上を見て、宴の幕開けよ。)スーシィの声が皆に届いた。
頭上に太陽が輝き始めたのだ!

カリンの魔法でゴルドバーンから放たれた2本のツタが開けた異次元への扉から覗く太陽。UFOロボがカリンと太陽との間で何かを中継する。
 

「ルルスス・ミラミス・アクディアス!!!」
「マクミル・ミクミル・メクトラル!!!」

 

呪文の声が響いた。
パールの光魔法と・・・・もう一つは?? シャイニィ・アルク??
リラが杖なしで、光の弓矢を発現させた!!
 

「ど・どういうこと!? クラスソラスなしで??」 ダイアナの驚きも当然だ。

「シャイニィエナージアー!!!」 パールが叫ぶ。
「シャイニィアルクーーー!!!」 リラもだ。
 

光のシャワーとその中を光の矢が駆け抜ける。
矢は蛇が開けた大きな口に吸い込まれる。さらに光のシャワーを浴び、飲み込んだ光の矢が大きな光球となって蛇は爆散した。
 

「なんてこと!? 」
 

これには月里朶も驚いたようだ。声に出してしまう。
 

(こ・これは・・・ カリンが開けた異世界への扉、それが関係しているのだわ。) ダイアナが気付いた。(カリンはクラウソラスを持っている。)
ジーナも頭上の太陽を見て確信した。(これが、月里朶が欲したチカラだわ。)
 

「こうなると、私も本気を出さないといけないわね。」
白虎!! 青龍!!


月里朶は残りの魔獣を呼び寄せた。中国四神獣のうち3体を使い魔として従える月里朶。これが中国の支配民族ではない遊牧民族出身の月里朶がテッペリンの頂点に君臨する理由だ。
 

リラ達の側も、ゴルドバーン、ファイヤーボール、パロパロの3魔獣が臨戦体勢に入った。
 

いよいよ、戦いは魔獣戦争の様相を呈してきた。

3体の魔獣を従えた月里朶はまさにラスボスに相応しい威厳を放っていた。

中央に堂々と立つ月里朶、左に白虎、右に青龍、後ろに玄武。
 

だが、月里朶は動かない。
リラとパールの先程の攻撃、そして背後に居るジョニィのチカラを見極めようとしているようだった。
 

リラの背後のジョニィを象る炎はますます大きくなっていった。通常のジョニィのサイズを遥かに超え、ゴルドバーン並みの大きさだ。
それが徐々に実体化していく、紅、赤、朱、山吹、黄、の5色が見えてきた。


(ホント、まさか、貴方たちがここまでやるとはね。確かに彼は朱雀だわ。プロメアとも見事に繋がっている。素晴らしいチカラ。しかし、何のために使おうとしているのかしら。)
月里朶は皆に聞こえるように心の中で語る。
 

(私は、何かに使おうなんて思っていないわ。ジョニィのことをもっと知りたいと思っているだけよ。)
リラが応えた。
 

(学生さんらしい答えね。) ほくそ笑む月里朶。
 

(世界を変えたいという野望は無いの? 魔法に関わる者なら、これはチカラとしてとても魅力的よ。)
 

(そんな野望なんて無いわ。皆の幸せを願っているけど、それは誰か一人の“チカラ”なんてものではできないわ。)

毅然と反論するリラ。
 

(可愛いわね。でも、世界を変えてきたのはそのような野望、野心を持った者だったのよ。歴史を見ればわかるわ。)
 

(そうかもしれないけど、私はあなたに賛同できない。)
 

(私の考えがわかっていないのに、どうしてそんなことが言えるのかしら。)
(でも、あなたたちの考えはわかったわ。それに経験も・・・・ 本当にいい人材がそろっているわ。)
 

(なに、どういうこと。なにをするの?)
リラはとても気味の悪いものを感じた。なかなか月里朶の心の中が読めないのに、こちらは見透かされている様な感覚。パロパロの鱗粉が月里朶にとって有利に働いているような嫌な感覚。
 

(フフフ、ゲームをしましょ。私は何も貴方たちを傷つけるつもりは無いわ。でも、貴方たちが持っているものが欲しいの。カガリさんが持っているスサノオの魔法神器とか。もちろん、朱雀も。これで四神獣揃うわ。)

(なにを勝手なことを。何も渡さないわよ!!)
リラは怒りを込めて心の中で叫ぶ。リラが怒ることは極めて珍しい。ジョニィのことに及んでリラは感情を乱された様だ。
 

(リラ、感情的になってはダメ。) ダイアナが心の中で叫ぶ。
 

(では、貴方たちが傷つかないように、代わりに使い魔の魔獣同士で戦うというのはどうかしら。フフ、貴方たちの経験を読み取らせてもらって、面白いものを見つけたわ。古代日本の魔獣、魏怒羅。それに相当する魔獣を私も創っていたの。)
 

(え、どういうこと!?) リラもアッコもダイアナも驚く。
 

黒竜、黄竜もおいで。 月里朶が声に出して、さらなる魔獣を呼び寄せる。
 

(ええ、3体だけでもすごいのに、まだ居るの?)
さすがに月里朶の底知れぬ力に慄然とするリラやアッコたち。
 

3体の竜が揃った。中国型の長い胴体に小さな手足の竜だが、3体も揃うとその圧は相当なものだ。
さらに月里朶が2つの魔法神器を掲げ交差させる。何か大きな魔法を発動させる様だ。
ピンク色の、美しいが今となっては妖しく気味の悪さしか感じられない光の球が交差した魔法神器から発生し、魔獣たちを包んでいく。
 

(これは、モフモフの魔法と同じ・・・)スーシィが驚きと共に呟いた。
(まさか、合体するのか?)
 

眩しさに目をそらすリラたち。
光の中で不気味な生物が誕生しようとしていた。

光が収まったその後の光景に皆が目を見張る。場は恐るべきキメラ魔獣の圧に支配される。

◆3大魔獣地球最大の決戦


キイイイイイーーーーッ ピロロ
以前に聞いたことのある強烈に嫌な鳴き声がこだまする。


「魏怒羅!?」  昨年、対峙したダイアナ、アッコ、カリン、ユートが叫ぶ。
 

月里朶の魔法から生まれた魔獣は、中国の神獣、青竜、黒竜、黄竜が3つの首を形成し、胴体からは猫科の猛獣然とした鋭い爪を備えた俊敏かつ力強い四肢が出ていた。胴体部分は白虎の様だった。事実、3つの竜だけでなく白虎も消えていた。
尾が蛇だったら如何にもキメラだが、そうはなっていなかった。玄武は健在だった。そもそも蛇はリラとパールの攻撃で撃破されていた。
 

しかし、この4体の合体だけでも恐ろしさは極まっていた。
ただ、翼が無い。翼があれば完全なキメラ形態だろう。
 

フフフ、翼は朱雀が担うわ。) ほくそ笑む月里朶。
 

月里朶の恐ろしい言葉に、リラは最大限の嫌悪感を示す。リラには似つかわしくない怒りの感情が抑えきれないほど大きくなり、再びシャイニィアルクを放つため魔力を集中させる。
「ジョニィは渡さないって言ってるでしょ!」 声に出して叫ぶリラ!
狙いを定め、再び光の矢を放つリラ。
 

しかし、魔獣は前方に黒い穴を展開した。
「え、なに。。。。」
光の矢はむなしくそこに吸い込まれていく。魔獣は平然としている。
「異次元転移魔法だわ。魔獣も使えるの?」 驚く囚われのアッコ。
 

今度は、魔獣の3つの頭から光線が放たれた。
魏怒羅の引力光線と同じだ。ほぼ実体化したジョニィこと朱雀の身体を捉えた。
そして引き寄せる。
 

リラは流星丸に乗り、魔獣とジョニィの間に割って入ろうと飛び出した。
「リラ、ダメよ、生身の身体で魔獣に立ち向かうなんて!!」 アッコが悲鳴のように叫ぶ。魏怒羅と対峙したアッコはその恐ろしさを肌で知っている。
 

「あなた方に危害が及ばないように魔獣同士の戦いにしましょう、と言いましたのに、どうしてそんなことをするのかしら?」 
 

引力光線が今度はリラを捉えた。人知を超えた力にはたとえ魔女でも抗えない。「あううっ」身動きを取れなくなったリラ。必死で逃れようとするが、圧倒的な力の前に人間の力の弱さを思い知らされ打ちのめされる。そして、じゃまだ! とでも言う様に外に放り投げられた。
強い力で拘束され振り飛ばされるリラ。「きゃあああっ」 締め付けられた力と強烈なGに悲鳴を上げる。壁に叩きつけられたら相当のダメージだ。
だが、炎が出現し、リラを優しく抱くように包んだ。麗麗のアジトでも見られたものだ。それはクッションの様になってリラを受け止める。
 

(リラ、なんてことを!ムチャしちゃダメだよ。) ジョニィの声がリラに届く。
(ジョニィ、大丈夫なの?) なんとか応えるリラ。
 

3本の光線のうち、一時的ではあるが、1本が途絶えたことでジョニィは左の翼が自由になった。翼から波動を発して、残りの光線から逃れようと身をよじる。
 

ジーナが号令する。「みんなで助けるよ!」
麗麗がファイヤーボールを呼び寄せた。ファイヤーボールはキメラ魔獣に向けて火球を発射した。
だが、玄武が飛び出し、固い甲羅で弾き返した。キメラが朱雀を捕らえるまで玄武が守る役目を担っているようだ。
 

一方、ユートがゴルドバーンに乗って何かを始めた。
「カガリさん、今のうちに逃げて。」
「え、ユート君、いつの間に・・・?」
囚われのアッコの元に突然、ユートが現れた。ゴルドバーンも一緒だ。
そして、ゴルドバーンが網を食い破る。アッコは外の光景に驚いた。全てが止まっているのだ。
「俺達だけが動ける。今のうちに・・・」 ユートが時間を止める魔法を発動したようだ。
アッコもゴルドバーンに乗る。
そして、スサノオ大王の魔法神器の力を解放した。
M3アッコの登場だ!!
 

月里朶は、今度は想定外のことに驚いた。突然、何もないところから変身したアッコとゴルドバーンが出現したのだ。
(アッコが脱出したことに気付かなかった。これはテレポーテーション? あの竜の能力? いや、なにかが違う。空間を超えたのでは無さそうだ。あの異世界の子の能力なのかしら?)
 

不可解な現象に今度は月里朶自らが動いた。異次元転移魔法を発動し目の前に暗黒の空間を出現させる。その中に入り、姿を消した月里朶。次の瞬間、アッコの前に黒い穴が出現し中から月里朶が出現した。だが、狙いは同乗しているユートだ。2本の魔法神器のうち、一つを剣に変えてアッコを牽制し、もう1本から捕獲魔法を発動して捕まえようとする。
ユートの時間魔法は連続発動ができない。
 

ゴルドバーンが身体を回転させ、月里朶を振り落とそうとした。が、月里朶の身体能力はすさまじい。空中に放り出された状態から蜘蛛の糸のようなものをゴルドバーンにくくり付け、離されないようにしながら、一瞬のチャンスでユートに捕獲用のこれまた蜘蛛の糸でできた網のようなもので囲い込んだ。そして、そのまま捕らえてゴルドバーンにつなげた糸を切って空中に飛び出ると、その下には玄武が待ち構えていた。
 

「逃がさない!!」 アッコも飛び出す。シャイニィスタッフ(天羽々斬)を大刀に変えて、蜘蛛の糸を切ろうとする。が、月里朶の魔法神器が剣となりそれを阻む。
そして、玄武の甲羅に降り立ち、今度はそこが戦いの場になった。ついに月里朶とアッコの一騎打ちだ。
月里朶が長い脚を出してアッコを蹴り上げようとした。身長差は相当ある。リーチでは圧倒的に不利だ。しかし、アッコは目を見張る動きでかわし、懐に入り込む。驚きの身体能力と度胸だ。これまでいい所の無かったアッコが汚名返上とばかり、月里朶と互角の戦いを見せる。
 

しかし、月里朶もテッペリンの頂点の魔女、そして遊牧民出身の類まれな身体能力を持っている。2本の魔法神器を剣に変え、2刀流でアッコに迫る。剣技、体技も風見あつこと戦った時からは著しく進歩したアッコだが、月里朶の技を完全に見切るのは困難だった。なんとかスサノオ大王の魔法神器から出る防御魔法とそれに伴うM3形態の身体強化魔法(シャリオ版上位バージョン)でダメージを防いでいる状態だが、形成は明らかに不利で、玄武の10m×5mの甲羅から落とされてしまう。ゴルドバーンが受け止めたが、ユートが捕まったままだ。
 

その間もジョニィ朱雀とキメラ魔獣の戦いも続いていた。
 

ジョニィは一時的に自由になった左の翼からバーニッシュの持つ力の一つ、あのロボットのリラデパールを形成した時の、炎の実体化魔法を発動し、盾を作った。盾で光線を防御して、束縛を逃れ、攻撃に転じる
 

カリンはユートのことを心配しながらも自身の役目を全うしようと努めていた。異世界、プロメアの世界とつなげておく役目を。
カリンのツタを伝わってUFOロボには相当の魔力が蓄積されていた。
ジョニィはUFOロボにバーニッシュの炎実体化魔法を使って拡大進化を発動させた!
 

「おおおお、これはリラデパールの再現だ!!」 トーマスとパールが思わず声に出した。
 

「いや、メカ古史羅(ゴジラ)の再現よ!」 スーシィがほくそ笑む。「いや、メカラドンか?」

UFOロボに炎が纏わり付き、外形を拡大するかのように形を描く。

それはもう一体の朱雀を見ている様だった。

炎が実体化するとUFOロボは鳥を形取ったアーマーの形態となった。

アーマーはジョニィ朱雀の所に急降下し、合体した!


アーマードジョニィ朱雀はキメラ魔獣の光線を弾き返して、上昇する。

そして、プロメアの太陽からエネルギーを大量に取り込み充填を開始した。
その姿は宇宙と一体化でもしそうな火の鳥。アーマーを通してでも光輝く。
 

「す、すごいわ!リラデパールの魔導エンジンの時よりすごい!!」 パールが唖然とする。
 

(こりゃ、出るよ、古史羅よりすごいのが・・・まさに火の怪獣ラドンだね。)スーシィが怪しげな情報を元にニタリと笑う。
反撃は万全の様に思えた。
後光の様な光を背にジョニィ朱雀がすさまじい熱線を放つ!!
 

古史羅のアトミックビームを上回るプロメア起源のバーニングストリーム!! それが炎のなだれのようにキメラ魔獣に向かって注がれた!
 

「玄武!! バーニングリフレクター展開!!
 

それでも月里朶は余裕の表情を崩さない。
亀の魔獣、玄武が再びキメラ魔獣を守るように前に出て熱線を受け止めた。
「リフレクターの意味を知ることね。」
 

なんと!熱線は亀の甲羅で反射され、アーマードジョニィ朱雀の方に向かったのである。
「ええええええ、どういうこと!?」 勝ったような気分でいたパールやリラ達が悲鳴に近い驚きの声を上げる。
強烈な熱線の矛先は、あろうことかジョニィに向けられた。
アーマーが溶解しジョニィの生身が露わになる。相当なダメージを受けたようだ。熱線放射のエネルギー消費も大きい上に強烈なダメージを受け、力なく落ちて行くジョニィ。

 

勝ったと思わせておいての敗北。ショックが大きすぎる。
キメラ魔獣が再び引力光線を放つ。ジョニィに抵抗する力はもはや残っていなかった。引き寄せられるジョニィ。

 

「やめてーーーーー!」 泣き叫ぶようなリラの声。
キメラ魔獣に吸い寄せられるジョニィ。元々のヒトサイズから巨大化したと言ってもジョニィの全長は10mほど、それに対しキメラ魔獣は、40mはある。引力光線に吸い寄せられ、3つの口にくわえられてしまったジョニィはまさに捕食される獲物のようだ。
リラの目から涙が溢れ出る。「お願い、やめて・・」
 

月里朶が再び合体魔法を発動させる。
優しいピンクの光に包まれる魔獣たち。その優しさとは裏腹の残酷な作用がその中で行われていた。
リラは涙を流しながらもその光景から目を逸らすことはできなかった。
 

「フフフ、完成ね。」
光が収まった後、絶望の光景がリラやアッコたちに提示された。
白虎の身体から朱雀の翼が生えていた。キメラ魔獣完全体だ。
翼はキメラ魔獣の体格に合わせてジョニィのものより遥かに大きくなっていた。
玄武も合体し背中に甲羅があるのも見て取れた。
 

呆然とするリラやアッコたち。
(こりゃ、大いなる計算ちがいだったわ。) スーシィが舌打ちする。
だが、スーシィには考えがあったのである。パロパロの力の恩恵を今度は受ける番だと。敵の力が全て露わになり、目的が成就したと思っている今こそ・・・・
(懐には入った・・・)

◆絶望から希望へ 信じる心は愛


衝撃のあまり、立ちすくむリラ、パール、アッコ、ダイアナ、ジーナ、麗麗、カリン、ルチア、アイナ、エリス、アルフレッド、マンライバートル、トーマス、ロバート。
囚われのユートも呆然自失だ。


しかし、スーシィ、メイビィ、ガーリィ、サービィは違った。
みんな、気合を入れて!ウチらも逆転劇やるよーーーー!!」 スーシィが柄にもなく皆んなを鼓舞する。
「パロパロ! 鱗粉の濃度を上げて!! 奴らとの心のリンクをもっと強化するんだ。奴らの魔獣とも! メイビィ、アッコたちに例の薬を吸わせて気合を入れてあげな。」
スーシィは明らかに何かの確信に基づいた作戦を実行しようとしていた。
 

「リラ! ジョニィへの愛を思いっきり叫びな! 奴らの内部に入ったジョニィ、幸いにも奴らの魔獣は全部1体になった。まとめて内側から崩壊させるんだ。ジョニィの意識が奴らに洗脳される前に、つながりを強固に保つんだ!!」


柄にもないスーシィの熱い言葉。いや、アッコを大事に思うスーシィの心は誰にも負けないくらい熱かった。同じものを他の者にも期待するのは別に不思議ではないのかもしれない。スーシィだって実は愛の戦士?だったのだ!?
 

リラが立ち上がり、涙を拭い精神を集中させる。

(ジョニィ、聞こえる? 私の声が・・ あなたの声を聞きたいの。こんなにもあなたが恋しいなんて! あなたと一緒になりたい!! 私の魂をそこに送るから、苦しみも私に背負わせて!
 

この姿を見て、月里朶が、らしくなく動揺した。事態を重く見て、魔獣だけの勝負と言っていたにも関わらず、配下の魔女達にリラたちへの攻撃を指示したのである。


「させないわよ!! みんなリラを守って!」 ダイアナが叫ぶ。
「よっしゃー、行くよ、」 魔法祭でもリラを見込んでイジメているように見せかけてリラの本当の力を解放させた上級生のルチアと、バーニングレスキューの面々が率先して突進する。
リラを尊敬するパールとトーマスも手を取り合い、光魔法の発射体勢を整える。
 

「月里朶も焦っているわ。」 麗麗とジーナが冷静に判断すると共に、本来の警察官としての行動を取る。元来怪しいテッペリンの魔女達の取り締まりという職務を実行に移すのだ。
 

ダイアナがバーニッシュモードに入る。アッコと同じ様にここまでいい所の無かったダイアナ。新世代の生徒たちの先輩としてここは名誉回復しておかねばならない。
 

アッコもM3モードをフル回転させる。ようやく先輩達もMAX戦闘モードに入ったようだ。
 

襲い掛かって来る遊牧民族の魔女たち、動きを始め身体能力は相当のものだ。しかし、ここはアッコたちの気迫が勝る。アッコが天羽々斬、いや、今はアッコがシャイニィスタッフと名付けた巨大な杖を剣に変え、強烈な斬撃を放って敵の魔女達を寄せ付けない。ダイアナもバーニッシュの能力と魔力を掛け合わせた炎魔法を放ち、同様に敵の接近を阻む。アッコとダイアナだけでなく、新世代の生徒たちも月里朶の配下と互角以上の戦いを見せる。


一方、精神を集中するリラの呼びかけに呼応するようにキメラ魔獣の様子が徐々におかしくなってきた。

(リラ、ありがとう。君のおかげで自我を取り戻せた。不思議な気分だ。ここも案外悪くない。四神獣の器は僕の居場所だったのかもしれない。)


翼を羽ばたかせキメラ魔獣を持ち上げようとする。だが、それを押さえようと3つの首が翼に噛みつく。
そこにゴルドバーンとファイヤーボールとパロパロが襲いかかった。3つの首だが、元々は3体の神獣、首だけで大きさは同じくらいだ。しかし、果敢にも体当たりをかますなど格闘戦で押さえ込む。パロパロも小さな脚で頑張る。
 

(リラ、キメラ魔獣の弱点は腹だ。白虎の弱点、玄武も一体化されたから能動的に守れない。持ち上げるから、そこを狙って。)
ジョニィからリラにメッセージが届けられた。これはダイアナやパールにも共有された。
 

カリンは今もなおプロメアとの接続を死守していた。
「ダイアナさん、エネルギー、渡しますーー!!!」カリンが、らしくなく叫ぶ。
ダイアナがバーニッシュの力を魅せる!莫大なプロメアのエネルギーを受け、必焼火炎発射の体勢を取った。ダイナレックス無しでの生身レックスロアーだ!!!! もはやダイアナにはダイナゼノンは不要だ!彼女自身がダイアナゼノンだった!!

 

勿論、リラはシャイニィアルクの発射体勢を取る。カリンからクラウソラスの力は絶え間なく伝達されていた。
パールとトーマスも光魔法発射体勢を取る。
キメラ魔獣に取り込まれたはずのジョニィが翼を羽ばたかせ、四神獣のキメラ魔獣を持ち上げ、腹を見せようとする。

呪文が響く。
マクミル・ミクミル・メクトラル シャイニィアルクーーー!!
ルルスス・ミラミス・アクディアス シャイニィエナージアーーー!!
必焼大火炎 レックスロアーーーーー!!
魂のこもった驚異の攻撃魔法の3重奏がリラ、パール&トーマス、ダイアナから発せられた!
 

「いけない!」月里朶とキメラ魔獣は異次元転移魔法を発動させ逃げようとする。


が、「時の門番よ、我が望みを聞き入れたまえ!」時の魔法を囚われの身ながらユートが発動させた。
キメラ魔獣の周りだけ時は止まり、逃走は阻止された。全くもって魏怒羅の時の再現だ。
 

3つの攻撃魔法を腹にくらったキメラ魔獣は腹が大きく膨れ、雄叫びを上げると共に爆散した。
爆炎が収まると元の魔獣たちが現れた。


ジョニィ朱雀も元通りになり、翼を広げて飛翔する。前より幾分大きくなったようだ。

(リラ、ありがとう。また、自由になれたよ。大好きだ!リラ💗)

 

感極まって泣き出すリラ。

 

「なんてこと!! これは全く持って予想以上だわ。」
月里朶が驚きの表情を見せる。だが、同時に満足しているような不思議な表情だった。
 

(ここまで、計算ちがいになるとは・・・)スーシィがつぶやく。
「ガーリィ、サービィ、メイビィ、宴の最後の仕上げをやるよ。」
スーシィがなにやら行おうとしていた。
 

ダイアナも面目躍如と言ったところで安堵する。
アッコは訳分からない状況だが、終わったのよね。今度こそ?と喜びを爆散させて良いものか探りを入れているようだった。
リラは号泣状態だった。仕方ない。パール、トーマス、ルチアが駆け寄る。
 

そうして、この物語はエピローグを迎えるのである。

◆大団円 大自我誕生? ジョニィの正体?

「メイビィ、パロパロの鱗粉の濃度を大自我誕生レベルまで上げな。」


「はい、おねえちゃん、世界改変魔法級になっちゃうけど・・・」
 

「さーて、全員を極楽に連れて行ってあげるよ~~~」
 

パロパロの鱗粉濃度が危険なくらいに上がって行く。
もはや、各人の意識に全員の意識が入り込み、現実と頭の中の区別も付かなくなってきた。
 

(やっぱり、月里朶さん、私達を試したんだね。朱雀を手に入れると言っていたけど、自由人のあなたがそんなことを言うのはおかしいと思っていた。)とスーシィ。
 

(いえ、朱雀は魅力的だったわ。私も欲しかったけど、あのリラさんの愛には勝てなかったようね。挫折を味わせるのも成長の糧と、ちょっと残酷なこともしたけど、予想以上の力だったわ。)と月里朶。
 

(え、何、どういうこと?? もうやめてよ。そんな裏があったなんて。)アッコが苦言を呈する。ジーナと麗麗にも騙された上に。


(あら、ごめんなさいね。カガリさん、あなたとの勝負も楽しかったわ。)微笑む月里朶。
 

(なに、その余裕の表情。なんだか悔しい。)結局は勝てなかったアッコ。
 

(ダイアナさんも想像以上だったわ。ネイティブのバーニッシュではないのに、あれだけのプロメアの力を扱えるとは・・・)
 

(そうですわね。あなたの言うとおり、プロメアの力は皆にすばらしい福音をもたらすかもしれません。でも、それだけに使う者の責任も大きいと思いますわ。)いつもの流石なダイアナの言動。
 

(では、そろそろ、そのダイアナさんの崇高な精神も含めて共有、一体化しましょう。リラさんとジョニィ君との愛も皆で分かち合いましょうね。)
 

(え、) 顔を赤らめるリラ。
 

月里朶もスーシィの意図を理解しているようだった。というよりに先に一体化しているようだった。
 

(ま、テッペリンの魔女とマンババラン島の魔女は長いつながりの歴史があるからね。) とスーシィの心の声。
スーシィも最初からお見通しの様だった。
 

いや、それだけでなく、マンババラン島からテンペリンまで短時間で来ることができたのも月里朶の手はずがあったからだった。
 

そして、ここに居る全員が、意識が宇宙と一体化するくらいに高まって行くのを感じた。
天に昇るような感覚だ。皆がお互いの力を真に理解できるようだった。
 

その一番上を飛ぶのは朱雀であり鳳凰でありバーニッシュでもあるジョニィ。プロメアの太陽に近づく姿は星と生命の中間的な存在の様だった。アッコは学生時代後期のあの宇宙から来たと宣う「ぶっ飛び先生」が言っていたアレを思い出していた。
 

(え、まさか、ジョニィが・・アトムスク?) アッコの密かなつぶやきは皆に聞かれたのだろうか?

 

・・・そうして、この物語は番外編へと続いていく

**おしまい**