リトルウィッチアカデミア続編構想。TVアニメ版の10年後を描く物語のPartⅡ
魏怒羅騒動の後の魔法祭(2023年10月)を描く物語・・・の前フリの最終回。
魔法祭で使われるマスタークラウン誕生の物語。

 

※まだ肝心のロッテカンパニー、マスタークラウンの話に到達していませんが、アニメミライの話には到達したので、一旦公開します💦  →その後、スーシィの島に到着したところまで到達 → 前編として残りは後編へ。

 

 

◆卒業の日

 

長かったルーナノヴァでの日々、それも明日で終わりだ。
とは言うものの、イギリスの多くの中等教育機関と同じく、ルーナノヴァも学校としての正式な卒業の日は定められていない。
さらに言うと在学期間が無期限で高等教育部門も存在するため(*1)、卒業という概念もあまり重要なものではない。

 

皆、最終学年の数ケ月前には進路は決めており、GCE Aレベル(*2)などの試験を受けた者はその結果を待つのみとなる。

ただし、どの結果になろうとも進路は決めた範囲の中に収まるのが通例だ。

 

今回の卒業の日は、アッコと所謂ルーナノヴァニューナインウィッチ達が自分達で決めた自主イベントということになる。

伝統ある魔法学校ながら近年は主体性を重んじる教育を進めているルーナノヴァらしいし(*3)、アッコらしいとも言える。

 

卒業イベントの会場は意外にも魔道具カフェ「LAST WEDNESDAY SOCIETY」だ。

 

「アッコのことだから、もっと派手にカテドラルでも借り切ってやるのかと思ったぜ!」とアマンダが意外な顔をする。

 

「いや、そんなお金ないし・・・・」

でも、この意外な選択がアッコの成長の証とも言えそうだった。

派手さを追っていたアッコが、仲間たちと一緒に落ち着ける場所で深い話をじっくりとしたい、そう思うようになってきたのは、大人になった証の一部かもしれない。

 

魔道具カフェ「LAST WEDNESDAY SOCIETY」は、ルーナノヴァでの日々の中でも特に思い出深い場所だ。

 

流星丸との出会いを皮切りに、アンドリュー家潜入シンデレラ作戦、さらに偉大なる魔法の時代を教えてくれたのもここだ。いや、アッコ以外はちゃんと学校で学んでいたのだが。。。

そして、シャリオとの不幸な出来事を知った後、ダイアナから本当の想いを告げられ、アッコが立ち直れたのもここだ。

 

そして、2年生の時の魔女パレードでは、パールに魔女通信特別回線への侵入魔道具を渡し、アッコとの会話を実現させたのもこの店だ。

 

「あれは、よくもやってくれたわね。って感じね。・・・いや、グッジョブと言っているんだけど。」

もはや、家族同然に馴染みとなった店員に話かけるアッコ。

 

「いや、あの子はホントに君によく似ていたんで話をさせたいなと思ったんだ。」

 

「でも、嬉しかった。なんか、本当に私に似てて、後継者になりそうな予感がしたし。」

 

それから、ここで行うということには別の大きな意味もあった。

魔道具屋で行う、と言う意味。

 

それは、ロッテが、実家の魔道具屋を継ぎ、大きな会社に発展させるという夢があったからだ。

それについては、ルーナノヴァの4年間の後半にクロワ先生の後任としてやってきた現代魔法の或る先生のことに触れない訳にはいかないだろう。

 

◆宇宙から来た先生

 

「ロッテ、あの計画は進めるの? あの先生との約束。」アッコは掴み所のない不思議な先生との奇妙な日々を思い出しながら聞いてみる。

 

「そうね。いろいろ大変だと思うけど、やってみようと思っているの。」

 

「あの先生、アッコでさえ引いてしまうくらいのオカシすぎる先生だったけど、なぜか惹かれたのよね~。宇宙から来たと言っていたし。それは嘘だとは思うけど、ナイトフォールにハマったように、作り話だとわかっていても信じてしまうものがあるじゃない。そんな感じかな。」 とロッテ。

 

アッコは、そんな風に目を輝かせながらあの先生のことを話すロッテが不思議だった。

 

アッコも引き気味だったとは言え、勿論会話は交わしている。

 

「あの先生、宇宙を鳥の姿で渡る海賊王(*4)を追っているとも言っていたわね。なかなか傑作な作り話だと思ったけど、ジョニィのことを話ししたら、めっちゃ興味津々でのってきたわ。ジョニィも異世界に行ったりするからね。でも、海賊王って感じではないけど。笑」

 

鳥型妖精ジョニィは、今はどこに居るのだろう? 先生はアッコ達の卒業を待たずにまたどこかに転勤してしまったようだが、実は追っていたりして・・・とアッコはくだらない妄想を思い浮かべた。

 

「でも、マジトロニクスはすごかったぜ。なあ、コンス。」とアマンダ。

コンスもうなずく。

 

科学と魔法を超越したオーバーマジカルテクノロジー。特に音楽から魔法の力を創り出すムジカートはこれまで見たことも無い驚異的なものだった。彼女の愛機リッケンバッカー4001が奏でる音楽から強力な魔法を使う精霊?ムジカート(*5)が生まれる様を見た者は皆「信じられない」と口にする。

 

そんな音楽と魔法という組み合わせも、歌で精霊を呼び出すロッテの心をとらえたのかもしれない。

 

さらにその先生のミッションは現代魔法を教えるだけでなく、卒業後の進路に関しても大きな役割を持っていた。

すなわち、魔法学校発ベンチャー企業の創設である。

 

その起業推進プログラムの名は「Magical Light Flame」と言う。

魔法の光と炎という意味だが、そのプロジェクトは魔法祭においてアナウンスされ、その時学校全体を燃やし尽くすかと思われた巨大キャンプファイアーに因んでいる。(*6)

激情と言う意味もあるので、その様な心構えも表しているし、またFrameと読み替えればそのための枠組ともなる。

 

実家の魔道具屋を発展させ会社にしたいと密かに思っていたロッテは、そういう訳でそのプログラムにも参加したのである。

 

「まずはアッコみたいな魔女家系じゃない子のための通信教材を出そうと思っているの。以前は魔導石を持っている家庭じゃないと実習ができなかったけど、今ではマジトロニクスの驚異的な進歩で、レイラインから魔力を取って来るだけじゃなくて、魔力の生成する方法も多様且つ洗練されてきたわ。クロワ先生はちょっといけない方法でやってしまったのだけど、大きな方向性としてはまちがってなかったわ。怒りではなくて信じる心、さらにその具体的な心として創造する心、その一つとして音楽でできることをあの先生は実証してみせた。これは私の得意分野でもあるわ!!」

 

「うーーーん!!! なるほど! そういうことだったのか!? 今、やっとわかったわ。それにしても、魔力を創出する方法がそんなに見つかって来たとは、魔法研究も進んでいるのね。」

 

「アッコ、理解するの遅すぎ。うちじゃヤスミンカが食を創造することで魔力を生成する方法を見つけたくらいだし。

 

◆食べることがわたしの魔法(料理含む)

 

「え、どういうこと? ヤスミンカもクロワ先生みたいになったってこと!?」

 

口数の少ないヤスミンカに代わって、アマンダがまるで自分事の様に自慢げに話を始める。

 

「魔法の源が信じる心だってのは、3年前に明らかになったことだけど、もう一つ重要なものもあったんだ。信じる心は魂の話だけど、健全な魂は健全な身体に宿る。精神のことだけではなくて、身体のことにももっと気を使わなければならないってことさ。その最も中心になるのが”食”ってことだ。”食”ってのは、”他の生きていた者の命を頂く”ってことだ。みんなの想いを集めて魔法にするように、他の命に最大限の敬意を払い、その栄養をいただく。栄養には魔力も含まれているってことだ。それを増進するための料理が魔法料理だ。」

 

「うーん、確かにもっともな話だ。・・・えーっ、それじゃあ、ルーナノヴァの食事ももっと美味しいものにしてくれなきゃ。」

 

食べ物に関しては、アッコも学校の給食が物足りないためかタルトの盗み食いでフィネラン先生に呼び出されたりするなど、多くの問題を引き起こしていた。

 

「私も悪かったと反省していたけど、やっぱり学校側にも問題あったということじゃん。」

 

「オイオイ、真っ先にそんな自分に都合の良い解釈はするとは、さすがアッコだな。」ちょっと呆れるアマンダ。

 

「ヤスミンカは味覚魔法で食事が人の精神、ひいては潜在魔力にどのように影響するか、ずっと研究していたんだ。いつも何か食べていた印象があるけど、実は粘り強い研究だったんだ。」と意外なことを話すアマンダ。

 

「えーーーっ!! そうだったの。ヤスミンカって口数少ないから、そんなすごいことしていたのに言わないなんて勿体ないわ。」

 

「だから、ヤスミンカは卒業したら、料理研究家になって、人の魔力を高める料理を普及させて魔法界に貢献したいとのことだ。このあたりはロッテが教材で魔法が使える人を増やしたいという思いと共通するかな。」

 

「すごーーーい、ヤスミンカ!!! ヤスミンカも何か言って。」

 

「では~~、私の美味しくて魔力の高まる料理をどうぞ。。。。」

 

魔道具カフェの店員が持ってきたのは、暖かいソリャンカとビグス、それにふっくらとしたピローク、そして飲み物としてのケフィアだった。ロシア、東欧の代表的な食べ物だが、ヤスミンカの魔法によりその優れた健康増進効果が魔力増進レベルにまで高められていた。

特に生きている複合発酵飲料、ケフィアは酵母の活動が大幅に強化され、腸内の神経から直接脳に作用することで人の潜在魔力を向上させる効果があった。

 

「私も自分のつくる料理で魔力が向上したわ~~~」とヤスミンカ。

ヤスミンカの魔力は、実はアッコ組、アマンダ組の中では一番と言っていいほどのパワーだったのだが、それは自ら魔力を創り出す方法を発見していたからかもしれない。

 

「えーー、ホントなの!? それは素晴らしいじゃないの。」アッコが驚き、目を輝かせる。

 

「よし、これからはヤスミンカの魔力増進料理を頂いて、ますますすごい魔法が使えるようになるぞーー。」

 

「でも、自分で作れるようになるのが大事だと思うけど。。。」 とロッテが重要なことを話し出す。

「魔力を生み出す原理はこれからみんなが学ばなければならないものだと思うの。」

 

ロッテは魔力を生み出す”モノ”を作ろうと密かに構想していたのである。

そして、魔道具屋の究極の目標として、いにしえの偉大なる魔女たちナインオールドウィッチが創り出した魔法神器の様なものを自分でも生み出したい!という大きな野望にも似た考えを持つ様になっていた。これもあの宇宙から来たというブッ飛び先生の影響が多分にあるだろう。

 

「ロッテは、あの先生の起業プログラムに参加して強い志を持った様ですわね。」ダイアナがロッテの心境を読み取るように言葉にする。

「実家の魔道具屋を発展させて、さきほど仰っていた魔法教材の会社を設立されるのですよね。それだけではなく、古の偉大なる魔女、例えばナインオールドウィッチが生み出した魔法神器、それに匹敵するものを創り出そうとされているのですよね。」

 

「そうなの? す・すごいじゃない。」 アッコが歓声を上げる。

 

「そ・・そうなの、教材だけじゃなくて、強力な魔力でもって人が本来持つ魔力を増強するような道具を作ろうと考えているの。具体的な魔法を発動するための杖のような魔法神器ではなくて。。」

「い、いや、でも、もしかしたら無謀な挑戦かもしれないな、とは思うのだけど、アッコでもあれだけのことをしたんだもの、私にもすごいことできるかな・・と挑戦してみるのも悪くないかな・・と。」

挑戦的な夢を語りつつも不安も隠せないロッテ。

 

「うん、できるよ、できるよ、ロッテなら。 何かちょっと引っかかる言葉があったような気もするけど・・・・」

 

◆アッコの思いとダイアナの夢

 

「アッコはどうするの?卒業した後。」

ダイアナはアッコの志は既に知っていたが(というよりダイアナからのお願いでもあったのだが)、今日はささやかと言えども卒業イベント、皆の志を共有する場でもあった。

 

「わたし、ルーナノヴァに残って教師を目指すことにしたわ。こんな私が教師になるなんて皆は笑うかもしれないけど、アーシュラ先生に育ててもらった恩を返したいの。私を育ててくれたように、今後魔女を目指す子たちを育てたい。特に2年生の時に会ったパールちゃん、昔の私を思い出したわ。そんな子たちを立派な魔女にする手伝いをしたいの。」

 

「確かに落ちこぼれの気持ちはわかるから、教師に向いているかもしれないなー。でも、パールちゃんは落ちこぼれにならないと思うけどなー。」とアマンダがからかう。

 

「えーーー、なによ、私は最初は落ちこぼれだったかもしれないけど、その後の進歩はすごいと自負しているわ。それを成し遂げた私は案外、優秀な教師になる自信はあるんだ。」と自信を見せるアッコ。本当は内心、不安だったのだが。。。

 

「そうですわね。アッコみたいな落ちこぼれが世界を救うこともありますから。」

それに、実は、アッコが来る前から私が見ていたことでもありますから。。」と、ダイアナが妙なことを言う。

 

「え、どういうこと。私が来る前に見ていた??」 アッコは初めて聞くダイアナの話に少し驚く。でも、絶対聞かないといけない話だと直感した。

 

「実は、アッコと出会う前に夢の中でアッコと既に会っていたのです。」と、ダイアナが不思議な話を始めた。

 

「え、ダイアナの夢の中に私が・・・・」 思わず声に出るアッコ。

 

「その夢の中では、私たちは新月の塔の下のダンジョンを巡って、魔物たちを倒しながらお宝を見つけるという実戦形式の授業をしていたわ。できるだけ、深い所まで行って・・深い所の方がより価値の高い宝があるはずなので。」

 

「私は、誰よりも先に最深部まで行き、そこで奇妙な宝を見つけたわ。でも、明らかに封印がされていたの。封印を解くことは危険だという思いもあったけど、私はその勇気も試されているとその時は思ったわ。でも、これが大きな間違いだったのに気づくのにそれほど時間はかからなかった。」

 

「封印を解いて現れたのはとても小さな竜だった。同行していたハンナとバーバラは拍子抜けしてからかい、魔法でおしおきをしたわ。私はそんな品格に欠けることはよしなさいと言ったけど、その竜は魔法で弱るところか逆に大きくなり、猛々しくもなってきた。彼女たちは怖くなって攻撃魔法もかけるようになったわ。私は悪い予感がして、やめる様に言ったけど遅かった。」

 

「その竜は魔法のエネルギーを吸収して大きくなり狂暴化する古に伝わる伝説の竜だったの。気づいた時は手に負えなくなり、最深部から上層に向かって飛び立って行ってしまった。私はとんでもないことをしてしまったとショックを受けつつも、すぐに上層にいる皆に危険に知らせるため飛んで行ったわ。その途中、落ちこぼれの子に会ったの。アッコにそっくりな。」

 

「そこで出会ったのね・・・・」 不思議な話に引き込まれるアッコ。

 

「そう、でも、その子は前から知っていたのだけど、全然魔法が使えないのに自信過剰でシャリオを目指すとか言うものだから、私も躾のつもりとからかい半分もあって、今思えば情けないけどイジメをしていたのね。」

「それで、その時、その子はダンジョンでシャリオの杖を見つけたとか言うものだから、呆れて、放っておいて行ったの。」

 

「え、夢の中でもシャリオの杖を見つけていたんだ。」 ますます興味津々に話を聞くアッコ。

 

「アーシュラ先生に知らせて、上では迎撃態勢を整えたわ。でも、その竜はますます大きくなって新月の塔の最上階の魔導石を狙い始めた。魔導石の魔力を吸い取られたらそれこそ学校が破壊されてしまうわ。私は皆を避難誘導しながらアーシュラ先生は竜を新月の塔から離すため囮になったわ。でも、竜は新月の塔の頂上に向かって飛行するアッコそっくりの子と、そうだわ、ロッテそっくりの子もいたわ。その子たちを追って新月の塔の上まで行ってしまったの。」

 

「で、で、その私にそっくりの子とその竜が新月の塔の上で対決するわけ??? 」ちょっとしたスペクタクルを見ている様に興奮しつつも、その自分そっくりの子がどうなるか?ハラハラするアッコ。

 

「そうなの、そこで対決するのよ。びっくりしちゃうけど。その子はそこでシャリオの杖を使ったわ。シャリオの杖は魔導石の魔力を吸い込み、何やらすごい魔法を使える状態になった様だった。そして、決戦の場は空中になったのですが、なんとその子はシャリオの魔法、シャイニィ・アルクを放って竜を退治しちゃったわ。もうびっくり。でも、その子アッコと同じく空を飛べないものだから、私が追って行って助けたの。

 

「もう、なんだか、まったく私とダイアナじゃないの!!」 びっくりする当のアッコ。

 

「そうそう、さらによ、私がどうしてシャイニィ・アルクを使えたの?って口がすべって聞いてしまったものだから、どうしてシャイニィ・アルクを知っているの?ダイアナって隠れシャリオファン?と返してきて、もう焦った焦った。秘密にしていたことをバラされそうになって、こんな悪夢はもうこりごりと思ったわ。(*7)

言葉とは裏腹にダイアナはノリノリで楽しそうに話をする。

そう、実際、この夢は楽しかったのだ。ダイアナは表面上とは裏腹に、アッコの様な子と出会えることを心の奥底では願っていたのだ。

 

そして、本当に夢に出てきた子とそっくりな子が実際に同期として入学してきたのだ。

もう、興味が沸かないはずがない。

 

表面上は夢の中と同じく、それと、やっぱりあまりにも酷い初期のアッコの考え方や行動を躾けるつもりで冷たく当たってしまうダイアナ。だが、優等生のダイアナが落ちこぼれのアッコに異常なまでにかまう姿はイジメを楽しんでいるというより、見る人によっては親身に指導している様にも思えるものだった。

そう、実は、上から目線の態度は、伝統、それに体面やしきたりも重要という大人な考え方が、ダイアナの真の想いとの対立から過剰に反応したものだった。真の想いが(例えばシャリオに対する想いなど)が出てしまわないように、そして体面やしきたりをきちんと守るために、過剰なまでにそちらの要素が出てしまっていたのだ。この「LAST WEDNESDAY SOCIETY」で衝撃の事実を知りどん底まで落ち込んでいたアッコを立ち直らせた時も、最初はアッコのことは嫌いだったという話から始めたが、実はそんなことはなかったのだ。

 

「そうだったの! それは知らなかった。そんなことがあったなんて。ダイアナって本当は最初から私のことを想っていてくれていたんだ。それに気付かずひどいことばかりを言ってごめんなさい。私って、ホント最初っから子供すぎて嫌になりそう。」

 

「ううん、いいのよ。それでもかけがえのない友達になる気はしていたわ。でも、私の家に押しかけて来た時は驚きましたが。」

 

「あ、あれは・・なんだか、本能的に行かなきゃと思って先に身体が動いてしまっていたって感じなんだけど。ライバルだから、とか今となっては恥ずかしすぎる物言いしていたけど、心の奥底ではもっと友達になりたいと思っていたのかな・・・」

 

真の気持ちの交流に暫し感慨に浸る2人。

 

*******

 

「あ、ところで、ダイアナは国連に行くのだったよね。世界平和に貢献したいとか、ホント、ダイアナにはピッタリの場所だよ。1年の魔法祭の前、ダイアナに変身しちゃって、今だから言うけど、ダイアナの部屋で日記をついつい見ちゃって、世界に想いを馳せていることを知って、ダイアナと私の差を身に染みて思い知らされて落ち込んじゃったけど。ホント、ダイアナはすごいよ。もう掛け値なしに尊敬するよ。」

 

「ありがとう。アッコ。でも、あの時もそうだったけど、ルーナノヴァを去るのは寂しいわ。だからこそ、あなたにはルーナノヴァに残ってその発展を支えて欲しいの。」

 

ダイアナとアッコの会話を聞き入るみんな。誰もが初めて聞く2人の奇妙な出会いの話と、変わらない友情に感銘しているようだった。

 

◆空と宇宙への夢

「じゃあ、次は私とコンスの番だな。」 とアマンダが自ら抱負を述べ始めた。

「知ってるとは思うけど、私ら2人は空を目指すことにしたよ。コンスはさらに高く宇宙だけどさ。」

「そうね、でも2人にぴったりだと思うよ。空を飛ぶのが似合っているアマンダに、宇宙ロケットでも作りそうなコンスタンツェだもんね。」 とアッコ。

「でも、TOP GUNはハードル高すぎと思ってけど、本当に採用されたんだよね。すごいなあー 」 感心するロッテ。

「TOP GUNは昔の名称だけどね。いかにもすごそうだけど、基本はパイロットの養成機関だ。」

「でも、そこの生徒ではなくて、教官として採用されたんだよね。どう見ても教官と言うキャラじゃないけど。。。」 とアッコが疑問を呈しながら、からかう(でも、実は誇りに思っている)。

「それを言うなら、アッコも教師というキャラじゃないけどな。。」 と返すアマンダ。
「パイロットに飛行魔法を教える教官だ。これからの飛行機乗りは自らの身体で3次元の感覚を掴むために自分で飛ぶ能力も求められるということさ。自分で飛べれば飛行機が無くても飛行感覚の訓練ができるからな。」
「そのカリキュラムを本格的に導入するために、とりあえず飛行魔法が得意な魔女にお呼びがかかったってわけだ。まあ、そういう意味では本当に使えるかどうかテストされる身ではあるんだけどさ。」

「いわゆる空間識失調への対策にもなるってわけですね。」 とダイアナが具体的な意義を挙げる。さすが、博識なダイアナ。パイロットに関する知識も持っている。
「これも魔法が社会に貢献できる姿の一つと言えます。ぜひとも成功させ、そのプロジェクトを軌道に乗せてくださいね。」 とダイアナがエールを送る。
 

「コンスはNASAに行くんだったよね。」 アッコが今度はコンスタンツェの話題に振る。

 

でも、相変わらずコンスタンツェはうなずくだけ。

「まあ、コンスは無言実行タイプだから、結果を見るまでのお楽しみ、としておこうぜ。」 とアマンダが早くもまとめる。
 

◆魔獣と宝石の島

「となると、あとはスーシィか・・・・」


「スーシィは卒業後、何をするの?」 アッコも聞く。アッコもまだ知らないのだ。
 

「え、わたし??」
鬱陶しそうに口を開くスーシィ。
 

「まあ、故郷に戻って、当面はブラブラするかな。気が向いたら、宝石探しでもするかもしれないけど。
スーシィは確固たる企みがあったのだが(*8)、まだ、皆に言う必要性は無いと考えていた。いや、むしろ秘密にしておきたかった。

「え、宝石さがし?? スーシィらしくない! 本当のことを言ってよ。本当は魔獣とかからヤバイ毒物を取ってくるとかじゃないの。」 とアッコ。

「いや、本当だよ。マンババラン島には謎めいた宝石がまだたくさん眠っているんだ。ただ、それらを発掘し、精錬するには特別な薬品が要る。それを作り出す技術を手に入れることもルーナノヴァでの目的だったんだけどね。」

「え、本当なの。私もちょっと興味が沸いてきた。」 とアッコが先ほどとは打って変わって話に食いついてきた。

スーシィ、魔法石って知っている?」 と今度はロッテが聞いてきた。
ロッテも何か気になったようだ。

「魔力を宿す石だろ。魔法神器には必要なものだ。あのシャイニィロッドにも嵌め込められていた。 まあ、そういうのもあるだろう。ロッテも来るかい。」
とスーシィはあっさりとその様な重要物も有ると答える。
 

「え、そうなの!? シャイニィロッドに嵌め込められていた石と同じ様なものがスーシィの島にあるの? えー、私も行ってみたい。」

「あーー、アッコにはさっきアッコが言ったように魔獣を狩る方をやってもらおうかな。」と返すスーシィ。
 

「え、また、私を捨て駒にしようと考えているでしょ。」

「でも、ロッテは魔法神器を創ろうとしているから、絶対必要よね。うん、また3人で今度はスーシィの故郷で冒険をしよう!!!!」 とまとめて、自分も行くことにしたアッコ(教師になる話は大丈夫か?)。

ということで、皆の進路がそれぞれ明確になり、共有できたようだ。

ーーマンババラン島編ーー


◆魔力の創出に向けて
 

「アッコ! 遅いわーー、早く!」 ロッテが叫ぶ。
 

「ごめーん、フィネラン先生との打ち合わせが長引いて。」
「でも、いよいよだね。スーシィの故郷に行くの。どんなところだろー?」


2人はこれから飛行機に乗り、マンババラン島に向かうのだ。
 

「ところで、ロッテの実家の魔道具屋さんは会社になったの?」
「ううん、まだ。きちんとした事業計画ができるまでは今のままの個人事業主としての自営業の方がいいと思って。そのためにも魔法神器実現の目途を今回で立てたいところね。」
 

「すごいなあー、さらっと魔法神器実現なんて言っちゃうのね。ナインオールドウィッチが創った様なものを私達で本当に生み出せるのかしら。」と少し不安になるアッコ。
 

「鍵は魔法石ね。魔力を吸収し蓄えることのできる石。魔法神器の力はそこにあるの。シャイニィロッドだって、あの7つの星の石が魔力の源だったのだから。」
 

「言の葉を蘇らせる度に光った石よね。あんな不思議な石はどこにあるのだろうって思っていたけど、スーシィの故郷ならありそうな予感もするわね。何があっても不思議じゃなさそう。」
 

「でも、きっと魔獣とかも居そうね。アッコが呼ばれたのもそちら方面の対策よね。きっと。」とロッテが少し笑いながら返す。
 

「えーー、ロッテまでそんなこと言うの? でもアルクトゥルスの森の冒険を思い出してちょっと面白いかも。。。」 とネタにされつつも意外とまんざらでもないアッコ。

マンババラン島へは直通の飛行機は無いので、近くの大きな島に降りたち、そこからは船になる。


「なかなかの道のりね。魔力は満ちてそうだから、ホウキで飛べないこともなさそうだけど、まずは慌てず行くのが賢明だと思うわ。それに暑いし・・💦 」 慎重に物事を進めるロッテ。また北欧出身のロッテは暑さに弱い。南国ではできるだけエネルギーを使わないようにと思っていた。


そして、船着き場に到着したのだが・・・
 

「え、船、と言っても・・これは空飛ぶ船? 」 ちょっと驚く2人。
そう、船と言ってもそれは飛行船だった。しかも魔界を飛びそうなおどろおどろしいデコレーションを施した怪しさ満点の機体だった。(*9)
 

「お客様、これから魔界の島へ案内して差し上げます。
飛行船の案内係がにこやかに微笑みながら楽しさ満点の楽園に案内するかのように語りかけてきた。


「魔界の島ですって。まあ、そうかもね。」 とロッテが呆れる。
アッコは却ってワクワクが止まらない。

 

**********

 

飛行船の窓の外にマンババラン島が見えてきた。


南国らしい木々に覆われた、活気溢れるエネルギーを感じさせつつ、どこか得体の知れない未知なる何かを内に抱えた様な神秘的な島だった。

飛行船が発着所に到着した。外に出れば、スーシィが出迎えに来ているはずだ。
 

「スーシィ! こっちこっち。」 スーシィを見つけたアッコが叫ぶ。
アッコはとても元気だが、ロッテは南国の熱気にやられて早くもくたびれた顔をしている。
 

ゆっくりとアッコの方に歩きだしたスーシィにアッコは一目散に駆け寄り抱きついた。
「暑苦しい~ 」 鬱陶しそうに抗議の声を上げるスーシィ。
そのかなり後ろをヨタヨタと歩くロッテ。アッコとのテンションの差が激しい。
 

「すごいね。スーシィの島。色んな秘密が隠されている様な神秘的な島。飛行船の人は魔界の島と言っていたよ。」 アッコはそれを楽しそうに言う。
「はい、はい、そんなに楽しんでいたらロッテに恨まれるよ。」
 

汗をぬぐいながらロッテがやって来た。本来、ロッテの方に重要な目的があるのだ。アッコの様な遊び感覚ではない崇高な使命に基づく壮大な夢の実現だ。
 

「わ、わかっているって。ここですんごい魔法石を見つける!! やってやるって。見てて。」  
アッコも重要な目的は忘れていないことを強調する様にハリキリ出す。
 

果たして、この島でこれから何が起こるのであろうか。

◆マンババラン島


スーシィの故郷、マンババラン島はその名の通り、魔女の住む島と古から語り継がれてきた島だ。

ちなみにマンババラン島は正式名称ではない。正式名称は別にあるのだが、多くの人がここをマンババラン島と呼んでいる。
 

マンババランは現地の言葉で魔女のことだ。黒魔術を使う恐ろしい魔女とされているが、そのおかげで古くから外敵の侵入を防いでいた。今では正しい知識を持った人々に白魔術の恩恵を授けるパワースポット、ヒーリングスポットとして知られるようにもなってきた。が、まだまだ一般の人には行けない場所に数々の秘密が隠されているとの噂だ。
 

スーシィは現地の人間なので、その辺りにも入って行けるという訳だ。アッコとロッテだけでは辿り着けない禁断の場所にも行けるだろう。ただし、危険なのはアッコだ。猪突猛進の精神で容易に禁を冒し、恐ろしい呪いが降りかかるとも限らない。
 

「まずは、面倒だけど、あなたたちも私の家で寝泊まりするので、うちの家族に挨拶にしないとね。」

スーシィが最初の仕事をアッコとロッテに告げる。
 

「おお、スーシィのご家族ってどういう人なのかしら。なんだか楽しみ。」 なんでも楽しむアッコ。
スーシィの家は山奥の方にある。飛行船発着場からは遠いのでホウキに乗って飛ぶことにする。
 

ロッテも、「暑いけど、飛んでいる方が熱気の溜まっている地上より涼しくていいね。」と魔力を使うものの、飛んでいる方が快適の様だ。
 

その間、マンババラン島を空から眺める。ほとんどが森に覆われており、海岸線に沿って一部町がある感じだ。細い道が山の中に続いているが、所々広場の様なものがあり、そこは何かの作業の拠点になっている様だ。魔獣探検隊の拠点かもしれないし、宝石や魔法石発掘を企む輩の拠点かもしれない。
山奥からは魔獣の鳴き声なのか、聞いたことも無い奇妙な鳴き声も聞こえてくる。
 

山奥の高台にスーシィの家が見えてきた。東南アジア系の日本とはまた趣の異なった瓦葺の屋根の、ちょっと魔女風とも形容できる怪しくもオシャレな家だった。
 

「おー、なんだか、怪しさもあってスーシィっぽいけど、意外とお洒落じゃない。いいデザイン。」 テーマパークに行く時にも似たウキウキ感を感じるアッコ。
 

「中に入ったら、シャキッとした方がいいよ。うちの母さん、かなり怖いよ。」
 

「え、そうなの? それは気合入れた方がいいわね。お世話になるんだし、そこはしっかりしないとね。」 と少し真剣な顔を見せるアッコ。
 

◆マンババラン家
 

「まあ、やっかいなのは、母さんより妹連中かもしれないけど・・・・」
「ただいま、お客さん、連れて来たよ~~」
 

出てきたのは妖艶という言葉があまりにも似合っている如何にも魔女という風体の女性だった。
 

「ようこそ~~、かわいい魔女のお二人さん。アナタたちがスーシィのルームメイトでしたのね。スーシィがいっぱいご迷惑をおかけしたと思うけど、よく生きながらえてここまでいらっしゃいました。素晴らしいことです。」
 

なんだか、不思議な奇妙な気分になるアッコとロッテ。
 

「でも、ここはスーシィがたくさん居ますので、さらにご迷惑をおかけしますと思いますが、気にせず生きてくださいね。素晴らしい日々になると思いますので。」
 

「あ・ありがとうございます。よろしくお願いいたします。お世話になります。」とロッテが挨拶する。
アッコも同様に挨拶するが、一言付け加えた。「スーシィがたくさんいらっしゃるとはどういうことですか?」
 

「ふふふ、スーシィから聞いていないのですか。うちは大家族でスーシィには妹がたくさん居るのです。皆、いい子ですよ。」
 

「そう・・・そうだったのですか。」
スーシィの様な子がたくさん居るということは、たくさん実験台にされるということ??と少し恐ろしい想像が浮かんでしまうアッコとロッテ。
 

「おねえちゃん、お帰り~、あ、この人たちがおねえちゃんの学校時代のルームメイトで、実験を手伝ってくれる人?」 と2人のスーシィそっくりだが、少し小さい子たちが駆け寄って来た。
(え、実験を手伝うの・・・? まあ、魔法石を見つけることにつながるのならいいけど・・・)と顔を見合わせながら考えを巡らすアッコとロッテ。
 

「じ・・実験って何かしら?」 と恐る恐る尋ねるアッコ。
 

「えーーっとね。」
 

「今はダメ!!」 とスーシィが注意する。
「先に自己紹介しなさい。」
 

「ガーリィです!」「サービィです!」と立て続けに名乗る2人の小さいスーシィ。
「じゃ、歓迎の魔法!!!」
と2人がなにやら綺麗な石を取り出すと、突然、魔法を放った!
 

部屋全体が光につつまれた・・・


「え、な、なにーーーー???」 不意打ちを食らい、驚愕するアッコとロッテ。
閉ざされた空間のはずの部屋が一気に開放される。部屋がぺしゃんこになり、その部屋から幽体離脱のように外の空間に身体が放たれた感覚だ。
 

「えええ、何これ?幽体離脱!?まさか死んでないよね? 居た場所から意味不明な空間に飛び出したような感覚。」 混乱するアッコ。レイラインに初めて乗った時の感覚にも似ているが、やはりだいぶ違う。
 

「ロッテ、ロッテは大丈夫?」と隣にいるロッテに聞く。こんな訳わからない状況でもロッテは隣にいたので少し安心だ。
「これは・・・!? 」 ロッテは別の何かを見ているようだ。
 

だが、次の瞬間、視界に元の部屋が戻って来た。
 

「はい、あんまり悪戯しないこと!」 スーシィが2人の妹に言い聞かせていた。
 

「スーシィ、今の何?」
 

「以前、見つけた魔法石だよ。一瞬だが異次元にトリップできるみたいだ。探索魔法を念じ続けていたら魔力の源への扉が少し開いた感じ。魔力の根源を知るにはいいサンプルだと思う。」
 

「ええ!そんなのがあるの。やはりスーシィの故郷には魔法石があるのね。」 ロッテが好奇心を露わにして尋ねる。
 

「ロッテはさっき何を見たの?」アッコが尋ねる。
 

「よくわからなかったけど、イグドラシルの枝のようなもの。アッコがアルクトゥルスの森で世界改変魔法を使った時のような。イグドラシルの実体がどこにあるかはよく解らないけど、私たちの世界ではなくて別の世界からわかりやすい形で影の様に見えているのかもしれないけど。」 
仮説を述べるロッテ。
 

「その別の世界に行けたら、より正確にわかるかもしれないね。もしかしたらジョニィ君なら行けるかも。魔女パレードの時も異世界に行っていたみたいだし。あ、それにあのブッ飛び先生が言っていた宇宙って、もしかしてそれかも? もっと詳しく聞いていればよかった。ハナから冗談かと思っていたから・・。」

とアッコが、真剣に見解と意見や反省を述べる。
 

「そうすると、石も別の世界から来ているかもしれないね。シャイニィロッドが消えたのも元の世界に還って行っただけなのかもしれない。そうか、故郷に帰っていったんだ。なんだか、魔法って私が思っていたより奥が深くて素敵。」

今度は感慨にふけるアッコ。
 

「それはそうだよ。まだまだ私達なんか魔法のこと全然わかっていないと思うよ。アッコも真面目に勉強する気になってきた? アッコ、教師なんだから、もっと勉強しないといけないよ。」

とロッテがからかい気味に言う。
 

「えー、厳しいな。ロッテ~~ 私が嫌いなのは座学で、実践形式は大好きだよ。」
 

「理屈も勉強しないと、猪突猛進ばかりじゃ、効率悪いし、大怪我するかもしれないよ。」

とロッテが真面目に勉強の大切さを講義する。
 

「うん、うん、わかった。ロッテを見習って勉強する。なにしろ教師だもんね。」
 

「教師なのに、こんなところで遊んでいていいの。」 とスーシィがツッコむ。
 

「遊びじゃないよ。研究だよ。これもきちんと報告書を作って皆の前で成果を発表するように、と、フィネラン先生から言われているんだ。あ、それを思い出したら心が重くなってきた。」 反論しつつも落ち込むアッコ。
 

「えーと、まずは家を案内するね。それが終わったら少し休憩の後、作戦会議ね。」
スーシィがテキパキと段取りを告げる。いよいよ明日からは本格的に探索開始だ。
 

と、そこにスーシィのお母さんがやってきて一言。
「あなたの使い魔探しも忘れずにね・・・・」
 

スーシィ、使い魔を持つの? すごいな~~ 私なんかいつのことやら。」 と、アッコ。(*10)
 

「あ、もしかして、とんでもない魔獣を使い魔にするとか?」
 

「そうね、アッコを餌にして手なずけないとね。」 いつものパターンで返すスーシィ。
 

「魔獣もそれなりに居るから気をつけてね。」 と、さらに付け加える。
 

「スーシィの島ってホントどういうところなのよ。まあ、確かに飛行船のおっさんが言っていたように魔界の島なのかもしれないけど。」

◆魔法石探索計画


「まずはロッテのアドバイスに従って、魔法石の事前勉強ね。」とスーシィが真面目なことを言う。
 

ルーナノヴァでも魔導石を含めて魔法石の勉強はあったが、一般化された、どちらかと言えば上辺だけのものだった。
魔法石そのものは種類も多い上に分布が偏在しており、核心部分は各地の魔法使いの暗黙知として内在しているものだった。マンババラン島の魔法石も一番よく知っているのは現地の魔女、魔法使い、魔術師の類の人々となる。
 

スーシィがマンババラン島の地図を持ってきた。一般人にはお目にかかれない地図だ。一般の地図では単に大きな森(島のほとんどは森だが)としか描かれていない部分に非常に細かいランドマークが多数刻まれていた。
 

「これを使って、現在わかっている魔法石の分布と魔獣の生息地の説明をするね。」 スーシィから魔界の島の詳しくもおどろおどろしい解説が始まった。
 

特におどろおどろしいのは人を喰う分離合体型コウモリ魔獣だった。でもアッコは分離合体ロボみたいで面白がる始末だった。ある程度予想された反応だが、そんな心持ちでは絶対ヤバイやろ?という、その他2人の心の内だった。

「観光で来る人はほぼ南側のリゾートに集中している。一部北側にも隠れ家的リゾートはあるけどね。北側の少し山に入った所に探検隊がよく使っている宿泊施設がある。といっても普通の人は島の中心の山岳地帯には入れないけどね。うちの家はここだ。島の最大の山の西側、普通の人が入れる限界線より少し南側だ。」


地図ではそこから道らしきものが描かれているが、それは一種のレイラインとのことだ。魔力を扱える者でないと通れない。
スーシィとアッコ、ロッテはそこを通って魔法石の採掘場所に向かうのだ。
 

「この島の中央にある最大の山、ビッグバンディラーンの南側が一番大きな採掘場だ。そこから回って東側にもある。しかし、山の頂上付近はまだ探索が進んでいない。やっかいな魔獣が居るからだ。」
「今回は、アッコもいるからね。みんなでそこを探索したいと思う。」

とスーシィが提案する。
 

「えーー!? やっかいな魔獣がいるのに? まずは採掘が進んでいる場所で練習してからがいいんじゃないの?」
 

「いや、そんな悠長なことは言っていられないだろ。アッコは早く本業に戻らないといけないし、ロッテの思いもそんなレベルの低いものじゃないはずだ。それにそういうところの石はあらかたうちの子たちも採ってきているしね。古の魔法神器に匹敵するものを作ろうとするなら、危険も冒してレアな石を探す必要があるだろうね。」
スーシィがアッコに許された時間とロッテの意向を鑑みて挑戦的だが妥当な提案をする。
 

「その魔獣は山の頂上にいるのね。まるで山の主みたいだよね。確かに興味はあるけど、ちゃんと対策を練らないとね。猪突猛進だけじゃ大怪我するとさっきも言われたところだし。」

アッコは、ロッテから言われたことを引き合いに出して予防線を張ろうとしているようだ。
 

「その魔獣は山の主といったようなものじゃない。沼の主だな。人を引き込む沼。煩悩を持った輩が一番危ない。欲望を持った奴らもだ。多くの一攫千金を狙った奴らがその犠牲になっている。」 怖い話をするスーシィ。
 

「沼・・・引き込まれるの?」
 

欲望を現実化する魔獣だ。実体化した欲望に自らが滅ぼされる。」 スーシィが解説する。
 

「ひえー、恐ろしい。 あ、でも、そうだ。私もブルームーンの太古の亡霊に欲望を叶えさせられそうになったけど、耐えたよ。多大な犠牲があることも知ったので。あんな感じなのかしら?」 アッコが自分にとって極めて重要な出来事となった経験も踏まえて見解を述べる。
 

「そうだな。強い意志が必要だ。その魔獣の能力は上手く使えば凄いことも実現できる。諸刃の剣だ。そのような思念を現実化する強力な魔力はその辺りに膨大な魔力を引き寄せている魔法石があることも示唆しているはずだ。」

スーシィがそこを狙う理由をさらに明確に述べる。
 

「す・すごいね。でも、それを手にして、なんとか制御できるようにしたい。そのような魔法神器を創りたいわ!」

慎重なロッテがこんなにも前のめりになるのは珍しい。魔道具屋としての自覚に目覚めたというか、アッコや例のブッ飛び先生の良い影響を受けてロッテ自身も結構な猛進型に変わって来たのかもしれない。

「じゃあ、明日の朝6時に出発するわね。」 と、スーシィが探索開始の時間を設定した。


「早っ、それじゃあ、もう寝ないとね。」 アッコが旅の疲れもあったのか、早々と寝支度を始めた。
 

前のめりになっていたロッテも、「そうだね。明日のために体力を温存しておかないと・・・」 と気分を切り替えて同じく寝支度を始める。
 

スーシィだけが真剣に山の頂上への道筋を見極めようと地図を凝視しながら考え込んでいた。
 

◆魔法石探索開始
 

「はあーーっ、眠い! スーシィ、眠いよー 」 アッコが文句を垂れながら目を覚ます。


スーシィは早くも準備万端な様子だった。明らかにアッコとは真剣度が違う。地元民だから厳しさも身に染みているのかもしれない。もしくは、アッコをビビらせるために過剰に演出しているのかもしれないが。。。
 

ロッテも準備は終わろうとしていた。魔法石探索はロッテの野望実現のためなので、ロッテが真剣なのも当然だろう。
アッコだけが観光旅行気分だ。
 

「アッコ、ちゃんとしてよーー、アッコもフィネラン先生にきちんとした報告をしないといけないのよね。成果が出る様に協力してよ。」
 

「あー、ごめんごめん、そうだった。真剣にやる。やるよーーーー。」

アッコの「真剣」をロッテとスーシィはどの程度真に受けているのか甚だ疑問ではあるが、そんな感じで魔法石探索への出発の時がきたのである。

◆ビッグバーンディラーン


ビッグバーンディラーンの麓につながるレイラインに乗る。勿論、スーシィが先頭だ。麓までは何度も行っているが、それでも万全の警戒が必要だ。多くの魔法石が様々な魔獣を呼び寄せ、世界でも類を見ない魔獣の王国を形成していた。麓から頂上まではさらに厳しくなる。スーシィでさえも一人では行けず、親戚のマリトを連れて行ったくらいだ。
 

はたして、今回アッコとロッテの助けだけで行けるのであろうか。アッコについては、魔獣を引き付けるための餌、もとい囮として使おうと思っているのかもしれないが。
 

「魔力をずっと感じるわ。こんなところが今でもあったなんて。」 ロッテが今まで感じたことのない密度の高い魔力が漂う空気に気持ちの悪い違和感を覚える。
 

「すごいね。これならすごい魔法も使えそう。」 アッコはいつでもいい方に解釈する。
 

「前より魔力が高まっている。魔力の地殻変動が近いのかもしれない。危険だけど、今までにない魔法石が採れるようになるかもしれない。」
スーシィが危険という言うくらいの大きな出来事が近づいているらしい。地殻変動にも例えられる現象とは何なのか。イグドラシルに何かが起こっているのか?


~後編に続く~

 

 

◆注釈

(*1) 修士課程のこと。これらからルーナノヴァは仕組み的に日本の高専にも似ている。

(*2) General Certificate of Education A-levelといい、

     イギリスの学校制度において大学受験レベルの学力を持つことを示す資格。

     単なる試験ではなく、国際的な資格となる。実は日本でも受けられる。

     試験科目には聖書学などもあるが、残念ながら魔法は無い。

(*3) イギリスの学校は伝統的な私立校の方が差別化のためか

     先進的な考えを取り入れていることが多い。

(*4) アトムスク。「フリクリ」参照のこと。星と生物の中間的存在(「プログレ」で言及)。

(*5) 音楽から生まれた魔女?? タクトオーパス参照のこと。でも設定には謎が多い。

     実は某先生は在任中或る失敗をしていて、それがのちほど大きな問題となる。

(*6) 「フリクリ プログレ」の卒業アルバムに載っていた校内行事事件。

(*7) もうお分かりと思うが、アニメミライ版のことである。

     マクミル・ミクミル・メクトラルを知っているのもこの夢のおかげ。

(*8) 「10年の時を超えて」で怪獣少女の役回りをこなしていたが、そちら方面。

(*9) UJ版コミック第4話参照

(*10) アッコもこの6年後にはドラゴンを使い魔にする。