喧嘩

 

山ちゃん

 

  人 物

山村邦夫(49)居酒屋山ちゃん店主

磯谷茂(49)中学時代同級生

島田咲子(49)中学時代同級生

藤堂(54)山ちゃんの常連客

恭子(24)山ちゃんの常連客

 

○居酒屋「山ちゃん」・入口(夕)

   ひらひらと桜が舞い、路に落ちる。

   都心の飲食街裏路地である。

   引き戸が開き、顔を出す山村邦夫(49)。

   暖簾を外に掛け、舞う桜の花びらに一瞥すると、また中へと消える。

   ビルの谷間から夕日が延び、風になびく暖簾の文字「山ちゃん」を照らす。

 

○同・外(夜)

   春の夜風に肩をすぼめて、雑多な人々が店の前の電飾の小道を行き交う。

   引き戸の硝子越しに店の中が見える。

 

○同・中

   カウンターを囲んで、僅か10席程の狭い店内に数人の客が座っている。

 

○同・中

   コップ酒をあおる磯谷茂(49)の赤ら顔。

磯谷「山村、おまえどう思う?あんなこと言われてさ、俺はもう同窓会はやらねぇよ」

山村「・・」

   調理場で手際よく魚をさばきながら、無言のまま、ちらと磯谷を見る山村。

   コップを手に、天井を仰ぎ見る磯谷。

   ビールを手に、隣席の島田咲子(49)が、

咲子「確かに、磯谷君は成功して立派よ。けど名簿に職業欄は、必要なかったんじゃない?書きたくても書けない人だっているわけだから」

磯谷「なんだよ、島田だって、ビルを相続した勝ち組のお嬢じゃねぇか」

咲子「そう言うことじゃないでしょう!」

   山村の調理をする音が響く店内。

   不穏な空気を察し常連客の藤堂(54)が、

藤堂「あんたら、山ちゃんの同級生?」

   山村が、藤堂にニコリとうなずく。

磯谷「そう、中学で。先日、同窓会で再開してね。なぁ、山村!」

   笑みで答え、仕事を続ける山村。

藤堂「そう。同窓会か、いいなぁ」

藤堂の隣席の恭子(24)が興味ありげに、

恭子「もうやらないってどういう訳?」

藤堂「おい」

   あわてて恭子へ振り向くと、眉間にしわを寄せ、顔を横に振る藤堂。

磯谷「聞いてくれる?あのね、俺が幹事になって同窓会を企画したの。みんなこの年になると会いたいんですよ。それを俺が自慢したくて始めたって言いう連中がいてね」

藤堂「ほー、自慢。どういう訳?」

   呆れ顔で藤堂へ冷たい目線の恭子。

咲子「この人、石松建設の社長さんなのよ」

藤堂「それは大層なもんだねぇ」

恭子「えー、おじさま、社長さんなんだ。うちのお店に遊びに来て~」

   名刺を取り出し磯谷に差し出す恭子。

   苦笑のする山村。

山村「この娘、近所のお店のキャバ嬢でね」

   磯谷は、全く無関心に恭子の名刺を受け取りながら、

磯谷「だいたい世の中、自慢したくて同窓会する人間なんて、いやしないでしょう。」[T1] 

咲子「自慢ていうか、磯谷君、陽子に会いたかったからよねぇ」

   嘲るように磯谷の顔を覗き込む咲子。

磯谷「はぁ?陽子って・・[T2] 。俺は、みんなに会いたいんだよ!おまえだって山﨑にべったりだったじゃねぇか。年甲斐もなく鼻の下のばしてさぁ、ははっ」

咲子「最低ー。私の純真な思い出を汚さないでよ。あなたこそ、結局陽子が来なかったから、駄々こねたりして。情けない男」

磯谷「俺ぁ、みんなの為にやったんだよっ」

   語気を荒げ、咲子を睨む磯谷。

咲子「ぜひ来て欲しいって、みんなに電話で頼み込んでたじゃない。でなきゃ、わたしも幹事なんて引き受けなかったわよ!」

   顔をそむける咲子。

   憤慨する磯谷。

磯谷「なんだぁ?おまえ、奴らの方持って!どいつもこいつも話にならねぇよ。なぁ山村、おまえ、どう思うんだよ」

   山村は仕事の手を止めると、両手を腰に当てて二人の前に立ち、

山村「俺か?うん。そうだな」

   笑顔で二人を暫く見ている山村。

   不愉快そうな表情で尋ねる磯谷。

磯谷「なんだよ」

   山村の雰囲気にいぶかし気な咲子。

咲子「なによ」

山村「今日は嬉しいよ、磯谷、島田」

   山村は笑顔で答えると、自分のグラスを二人に向けて掲げ、グイとあおる。

戸惑う磯谷、咲子。

咲子「嬉しいって、何が?」

   山村は肴を向付に盛り付けながら、

山村「二人の口喧嘩を久しぶりに聞けたからさ」

 

 

 

◯今回の課題である「喧嘩」に関して、磯谷と島田のそれぞれの価値観を非常に上手くぶつけていますね。また効果的に周りも上手く巻き込んでいますのでシーンが更に盛り上がっています。素晴らしいですね。

◯コメントにも書きましたが、セリフの最後の「。」は必要ありませんので気を付けて下さい。他にもコメントに書きましたので確認しておいて下さい。

◯お疲れ様でした。これまでの習作を通して感じたことは、ト書での描写が非常に上手いと感じました。目に見えるものを的確にト書きで表現する。素晴らしい技術です。毎回、イメージが湧き、シーンに入り込むことが出来ました。今後も書き続けて下さいね。シナリオセンターでは今後のカリキュラムも充実していますので是非とも今後もご利用頂ければと思います。

期待しています。頑張って下さい。


 [T1]セリフの最後の「。」は必要ありません。

 [T2]三点リーダーは二マス使います。