出会い

 

えにしの森

 

  人 物

北条爽(23)渋谷神社神主

渋谷怜(20)相武大学3年生

 

○相模地方・渋谷神社

   夏草と大樹の生い茂る小高い山。

   その頂に、静謐な古い社がある。

 

○同・社殿(中)

   烏帽子に、装束をまとった北条爽(23)が、一人、祝詞を上げている。

   神事を終え、社殿を退く北条。

 

○同・鳥居

   山上の社に続く、急坂の参道の下に、田舎道に面して鳥居がある。

   鳥居には「渋谷神社」の扁額。

   渋谷怜(20)は鳥居に一礼すると、額の汗をぬぐい、タブレットパソコンを取り出して神域を撮影する。

 

○同・参道

   参道の石段を登ってゆく怜の足。

   幽玄な山上を見上げる怜。

   逆光の中を下りてくる北条の影。

   参道の半ばで無関心にすれ違い、通り過ぎる二人。

   が、ふと同時に立ち止まり、

   振り返る北条。

   振り返る怜。

   一瞬目が合い、少し慌てて二人は小さく会釈をする。

   再び参道を歩み始める二人。

   と、(ご、ご、ごーっ)、

   突然低い地鳴りが轟き、鳥の群れが飛び立つや、周囲の木立がざわざわと揺れ始める。

   次第に大地が轟音とともに激しく揺れ、階段が波打つ。

怜「きゃぁ」

   転ぶように倒れ込む怜。

北条「うわっ」

   しゃがみ込む北条。

   参道沿いの石灯籠が崩れ落ちる。

北条「地震だっ!大きいぞっ!」

   怜に向って叫ぶ北条。

   ガラガラと社殿が崩れ落ちる。

   北条に振り向き、手を伸ばす怜。

北条「こっちだっ!」

   北条は、怜に這うように近づくと、身動きできない怜を引き寄せ、杉の巨木の根元へと向かう。

 

○杉の巨木の根元

   北条は地面から浮き出た根に足を踏ん張り、怜を抱えながら叫ぶ。

北条「幹につかまってっ!」

怜「きゃぁ!」

   激しく揺れる山体、そして轟音。

   揺れ動く画面に砂埃が舞い、次第に真っ白な無音の画面に変わる。

 

○同(地震後)

   白の世界から砂煙が徐々に消え、見えてくる抱き合う二人の姿。

   揺れが治まり、はっと我に返った北条は、怜を抱く腕を離す。

北条「大丈夫?」

怜「は、はい」

   周囲を見回す二人。

   辺りの景色は一変している。

   二人のいる参道脇の巨木を残して、崩れ去った山肌の一角から、幾つもの五輪塔と朽ちた兜、刀、そして人骨が現れている。

北条「これは・・!」

   一瞬、地震を忘れる北条の顔。

   しかし、怯える怜に気づくと、

北条「また揺れると、ここも危険だ。さぁ、下りよう。動けますか?」

怜「はい、大丈夫です。ただ少し足が」

   足を引きずる怜に肩を貸す北条。

 

〇渋谷神社・鳥居前の道

   路傍に転がる石に腰かけ、境内の山域を呆然と見上げる二人。

   山腹には露出した五輪塔が見える。

北条「一先ずここなら安全だ。僕は北条爽、一応この渋谷神社の神職です。」

怜「ありがとうございました。わたし、渋谷怜です。大学で相模の中世史を調べていて。それでこちらに・・[T1]

   扁額「渋谷神社」が落ちている。

以上

 

 

 

◯今回の課題である「出会い」に関して、「起」の部分、天地人を上手く使い、伝えていると思います。

 

◯人物設定も中々面白いですね。またそれを非常に上手くト書きやセリフで描けています。キャラクターの特徴を掴むのが上手いですね。素晴らしい。

 

◯地震の描写もト書きで非常に上手く表現できています。目に見える映像をしっかり描けています。良いですね。

引き続き、次回の習作も頑張って下さい。


 [T1]三点リーダーは二マス使います。