東京駅からの帰りの電車に乗り込んだ。
座席に座ろうと思ったところ、床に定期入れが落ちている。
近くの乗客に確認したが、自分のではないと言う。
近くに駅員もいないし、降りた駅で拾得物として届けようと思っていたところ、
隣に座っていた老紳士が、あなたの真後ろに駅員がいる、と言う。
思い切り振り返って見ると、ちょうど本当に真後ろ、自分の死角に当たる所に駅員さんが立っていた。

列車の発車時刻が迫っているが、ここからが早かった。
目には見えない連帯意識が働いた。
自分が真後ろにいる駅員さんに、定期入れを届けようと立ち上がったところ、
隣にいた老紳士が阿吽の呼吸で、私が席を取っておいてあげるから、と言ってくれた。
小走りに列車外の駅員さんのところに向かい、
車内に落ちていたことを伝え、定期入れを手渡した。

再び車内に戻り、隣の方にお礼を言った。
「きっと今の定期入れ落とした方、東京駅で降りましたよね、改札から出られないで困っているはずですし、駅員さんにすぐ早く渡せて良かったです。おかげさまです、ありがとうございました。」

そのまましばらく放置されていたかもしれない定期入れが、こうしてすぐに渡るべきところに渡ったこと、そして何よりも思いがけず、隣り合って座った方の善意に触れることができたこと、それがとても嬉しかった。

乗換駅で降りる時、隣の方に会釈したところ、ニッコリ微笑んで会釈を返してくれた。
こういう人としての暖かなやり取りができたことが、何よりも嬉しかった。