エアコンが好きなんだ。
暑いのも寒いのも嫌。
どちらかに偏った日に外出するなんて真っ平なんだ。
だから、冬にスキー、夏に海
そんな過酷な場所に僕がいることなんてあるはずがないこと。
なのに日曜日、僕は海にいた。
どうしてなのか理由は書かないけど
何かを得るためには何かを犠牲にしなきゃならないこともある。
悩んだ末、気がついたんだ。
僕にとって「夏に海に行く」は、「海に入る」よりもずっと簡単。
その程度の取引なら、得るものの方がずっと大きい。
それに海を見るのは結構好きだから、むしろ好都合なんじゃないかと。
とりあえず車で2時間もかからず、大磯へ。
さすがに海が見えてくると、気分が高揚してはしゃぎだしてしまう。
窓からうっすらと潮の香がしてきて
ここは海なんだと実感するけど
車から降りて吸い込んだ空気は、それほど潮っぽくなく、なんだか残念な気分になる。
大磯の海はとてもとても穏やかだった。
ときどきサーフボードを抱えた男の人が
その鍛え上げられた小麦色の肉体を、これでもかと見せ付けるように歩いてるけど
男性の体に興味があるはずもなく、嫉妬することもなく。
だけど、思ったより人が少なくて
邪魔が入らず波を眺めていられるのは気分がよかった。
繰り返す波はたいした変化もなく
まぁ、毎回ちがう波がさらいにきて
2メートルが突然10メートルになったりしたら
怖くておちおち眺めてもいられないけど
だいたい同じ大きさで、ほとんど同じ音だから
かなり悠長な僕でも飽きてしまう。
だんだん陽射しも強くなって
砂浜にごろんと寝転んで、太陽を見ようとしたら眩し過ぎて
目をずっと後ろにそらしていくと、建設中のマンションが見えた。
窓側に海のあるマンション。
布で隠されていてはっきり見えないけど
「ここからの眺めは最高ですよ!」なんて、セールスの声まで聞こえてきそう。
そういうつくりだから、なんだか僕を見下ろしてるようで
まだ覆い隠してる布が間にあるから、それほど威圧感はないけど
いざ、除幕式でパッと布が消えたら
この砂浜はマンションの監視下になって、
やっぱりおちおち波なんか眺めていられないだろうと思った。
そしてそこに住む、803号室や801号室は特別な使命をどこからか与えられて
昼も夜も窓際に置いた椅子に、双眼鏡を首から下げて座り
繰り返す波を監視するんだ。
荒れた冬の日には、足元にストーブを置いて
こんな暑い日には、アイスバーをかじりながら
ただ、波だけを監視し続ける。
もちろん、シーズンになれば
この大磯の浜辺は家族や恋人や友達連れで賑わうから
ときどき本能で、その双眼鏡が忙しなく動くときもあるだろうけど
そんなことすると、すぐに電話が鳴って
一度目は若い女性から、二度目は少し年齢が上の女性から
三度目は若い男性から少し厳しいことを言われ
それでもやめないと、四度目はかなり暴力的な声で
注意じゃなく叱責される。
たぶん五度目は委託された回収専門の会社から。
藁をもすがる気持ちで広告にあった借り換えの会社に電話すると
気づいたら倍くらいに膨らんでて、もう後戻りできなくなる。
何の話かわからなくなったけど、きっとそういうことに。
帰りがけ、国道一号線をヨタヨタ走るおじさんたちと遭遇した。
1人は幟を掲げてて、そこには「反核平和」と書いてあった。
ランナーのゼッケンにも「反核平和」の文字が。
「おおっ!」と、僕は身を乗り出してしまったけど
少し髪の薄くなったおじさんの黄色いランニングシャツの背中には「赤旗」とあった。
なんてわかりやすい人たちなんだろうと、感心する。
最近はみんな普通の格好をしていて、警戒する前に巻き込まれてしまう事件が多いから
こういう人はとても助かる。
やっぱりコックは白くて長い帽子を被っていてほしいし
ホストは髪の毛がまだらであってほしいし
不良は白いジャージを着ていてほしいし
オタクはネルシャツにナップザックで手に黒いビニール袋を持っていてほしい。
最近はどうも白い長袖Tシャツが多い気がする。
きっと背中を丸めて、バタバタと走るんだろう。
なにしろ僕はそういうことで安心できる。
それは1つの思想のように感じられるから。
なにしろ、「反戦平和」の幟を車道に掲げてアピールしてたから
僕はなんとなく会釈してしまったのだけど、変に睨まれた。
学会の刺客だとでも思ったんだろうか?
帰宅すると、髪がゴワゴワで
とりあえずシャワーを浴びることにした。
ところが大変なことがおきた。
泡立ちが悪いと、シャンプーを手に取るとコンディショナーで
じゃぁ、もう1つの方だと、頭に付けるとまた泡立ちが悪い。
見ると、もう1つもまたコンディショナーだった。
実は僕が買いに行ったんだ。
どうやら間違えて、コンディショナーを2個買ってきたらしい。
うん。僕が悪い。これは誰も怒れない。
だけど、レジを通すとき店員さんは気づいたはずだ。
なのになぜ注意してくれないのか。
でも、思った。
注意されても恥ずかしい。きっと僕のことだから
「2つ必要なんです」という顔をして、そのまま買って帰ったかもしれない。
そんなことを考えていると
「ねぇ、なんでコンディショナーが二つあるの?」と、
どこからかやってきた弟が嫌味っぽく指摘してきた。
しかたがないから
「コンディショナーが好きなんだ‥」と、言ってやった。
ご存知だと思うけど載せておく。
con・d
・tion・er /‐
(
)n
|‐n
/



1a 調節する人[もの].
b 空気調節装置,エアコン.
2a (運動の)トレーナー,訓練者.
b (動物の)調教師[者].
3 (化粧用・整髪用の)クリーム,化粧水,コンディショナー.
暑いのも寒いのも嫌。
どちらかに偏った日に外出するなんて真っ平なんだ。
だから、冬にスキー、夏に海
そんな過酷な場所に僕がいることなんてあるはずがないこと。
なのに日曜日、僕は海にいた。
どうしてなのか理由は書かないけど
何かを得るためには何かを犠牲にしなきゃならないこともある。
悩んだ末、気がついたんだ。
僕にとって「夏に海に行く」は、「海に入る」よりもずっと簡単。
その程度の取引なら、得るものの方がずっと大きい。
それに海を見るのは結構好きだから、むしろ好都合なんじゃないかと。
とりあえず車で2時間もかからず、大磯へ。
さすがに海が見えてくると、気分が高揚してはしゃぎだしてしまう。
窓からうっすらと潮の香がしてきて
ここは海なんだと実感するけど
車から降りて吸い込んだ空気は、それほど潮っぽくなく、なんだか残念な気分になる。
大磯の海はとてもとても穏やかだった。
ときどきサーフボードを抱えた男の人が
その鍛え上げられた小麦色の肉体を、これでもかと見せ付けるように歩いてるけど
男性の体に興味があるはずもなく、嫉妬することもなく。
だけど、思ったより人が少なくて
邪魔が入らず波を眺めていられるのは気分がよかった。
繰り返す波はたいした変化もなく
まぁ、毎回ちがう波がさらいにきて
2メートルが突然10メートルになったりしたら
怖くておちおち眺めてもいられないけど
だいたい同じ大きさで、ほとんど同じ音だから
かなり悠長な僕でも飽きてしまう。
だんだん陽射しも強くなって
砂浜にごろんと寝転んで、太陽を見ようとしたら眩し過ぎて
目をずっと後ろにそらしていくと、建設中のマンションが見えた。
窓側に海のあるマンション。
布で隠されていてはっきり見えないけど
「ここからの眺めは最高ですよ!」なんて、セールスの声まで聞こえてきそう。
そういうつくりだから、なんだか僕を見下ろしてるようで
まだ覆い隠してる布が間にあるから、それほど威圧感はないけど
いざ、除幕式でパッと布が消えたら
この砂浜はマンションの監視下になって、
やっぱりおちおち波なんか眺めていられないだろうと思った。
そしてそこに住む、803号室や801号室は特別な使命をどこからか与えられて
昼も夜も窓際に置いた椅子に、双眼鏡を首から下げて座り
繰り返す波を監視するんだ。
荒れた冬の日には、足元にストーブを置いて
こんな暑い日には、アイスバーをかじりながら
ただ、波だけを監視し続ける。
もちろん、シーズンになれば
この大磯の浜辺は家族や恋人や友達連れで賑わうから
ときどき本能で、その双眼鏡が忙しなく動くときもあるだろうけど
そんなことすると、すぐに電話が鳴って
一度目は若い女性から、二度目は少し年齢が上の女性から
三度目は若い男性から少し厳しいことを言われ
それでもやめないと、四度目はかなり暴力的な声で
注意じゃなく叱責される。
たぶん五度目は委託された回収専門の会社から。
藁をもすがる気持ちで広告にあった借り換えの会社に電話すると
気づいたら倍くらいに膨らんでて、もう後戻りできなくなる。
何の話かわからなくなったけど、きっとそういうことに。
帰りがけ、国道一号線をヨタヨタ走るおじさんたちと遭遇した。
1人は幟を掲げてて、そこには「反核平和」と書いてあった。
ランナーのゼッケンにも「反核平和」の文字が。
「おおっ!」と、僕は身を乗り出してしまったけど
少し髪の薄くなったおじさんの黄色いランニングシャツの背中には「赤旗」とあった。
なんてわかりやすい人たちなんだろうと、感心する。
最近はみんな普通の格好をしていて、警戒する前に巻き込まれてしまう事件が多いから
こういう人はとても助かる。
やっぱりコックは白くて長い帽子を被っていてほしいし
ホストは髪の毛がまだらであってほしいし
不良は白いジャージを着ていてほしいし
オタクはネルシャツにナップザックで手に黒いビニール袋を持っていてほしい。
最近はどうも白い長袖Tシャツが多い気がする。
きっと背中を丸めて、バタバタと走るんだろう。
なにしろ僕はそういうことで安心できる。
それは1つの思想のように感じられるから。
なにしろ、「反戦平和」の幟を車道に掲げてアピールしてたから
僕はなんとなく会釈してしまったのだけど、変に睨まれた。
学会の刺客だとでも思ったんだろうか?
帰宅すると、髪がゴワゴワで
とりあえずシャワーを浴びることにした。
ところが大変なことがおきた。
泡立ちが悪いと、シャンプーを手に取るとコンディショナーで
じゃぁ、もう1つの方だと、頭に付けるとまた泡立ちが悪い。
見ると、もう1つもまたコンディショナーだった。
実は僕が買いに行ったんだ。
どうやら間違えて、コンディショナーを2個買ってきたらしい。
うん。僕が悪い。これは誰も怒れない。
だけど、レジを通すとき店員さんは気づいたはずだ。
なのになぜ注意してくれないのか。
でも、思った。
注意されても恥ずかしい。きっと僕のことだから
「2つ必要なんです」という顔をして、そのまま買って帰ったかもしれない。
そんなことを考えていると
「ねぇ、なんでコンディショナーが二つあるの?」と、
どこからかやってきた弟が嫌味っぽく指摘してきた。
しかたがないから
「コンディショナーが好きなんだ‥」と、言ってやった。
ご存知だと思うけど載せておく。
con・d
1a 調節する人[もの].
b 空気調節装置,エアコン.
2a (運動の)トレーナー,訓練者.
b (動物の)調教師[者].
3 (化粧用・整髪用の)クリーム,化粧水,コンディショナー.