風邪が治んないなぁ‥


財閥系の不動産屋に行ってきた。

まだ漠然とした状態だからね

総合的な相談窓口を探してたんだけど

やっぱりそれなら大きな会社の方がいいかなと。



その店は賃貸をやってない

戸建やマンションの販売とか、土地の売買を主にしてるところでね

そりゃ僕も悪いよ。

どう考えてもまともな職業には就いてないだろうと想像される姿だしね

犬の散歩に行くのと同じ格好だし。


でもさ、だからと言ってさ

いきなり「ここは賃貸をあまりおいてないんですが‥」とか

ちょっと悲しくなるよね。


いや、別にいいんだよ。

賃貸よりも戸建の購入が偉いわけでもないし

間違って聞く人も多いんだろうさ。


だけどね、受付の女の子二人

とりあえず僕の話を聞いてからだろうよ。



でもさ、説明して通された場所から周りを見ればね

みんなスーツとネクタイでピッチリしてて

お金持ってそうな顔の中年のおじさんばかり。

さすがにサファリのような帽子から髪の毛たらしてたらダメだよ。

でもさ、不動産屋ってそんなところだっけ?

僕のイメージは次長課長のコントなんだよなぁ‥



なにしろ、先ほどの失敗で恐縮しまくってる女の子がお茶を出してくれてね

たぶん僕よりも若い男の人とお話をしたんだけどさ

その最中、小さな虫が飛んできてね

僕の顔の周りを飛んでるのさ。


自然にね、ごく自然に処理したいんだけど

相手も生き物だからね、必死に逃げてくれるんだ。

やっぱり本気で追いきれないからさ

処理し損なった後の中途半端な勢いが妙に恥ずかしい。


若いお兄さん、気がついてるくせに

僕への配慮なのか、気がついていない振りをしてくれる。


とりあえず僕も放っておいたよ。

虫のことは気にしないようにした。


だけどね、奴は僕の気持ちを見透かしたようにね

頬スレスレを飛んでくれるんだ。

すぐに払うんだけど、またやってくる。


たしかにね、僕は虫の集るような人間かもしれないよ。

「かもしれない」じゃない、虫がたかる人間だよ。

きっと奴は僕に自覚を促してるんだよ。

だから「もう、いいよそれで‥」と、心の中で虫に語りかけたよ。


そしたらさ、

若いお兄さん

突然ね、「虫だけに無視しときましょう」とか言ってんの。

しかも、「してやったり!」みたいな顔して。


さすがの僕もね、テーブルひっくり返してやろうかと思った。

だってさ、お兄さんはずっと虫のことなんてふれなかったじゃんか。

必死になってたの僕じゃんか。

僕が言うならまだしもね、あんたが言うなと。

いや、そういうことじゃないな。

ただ、してやったり顔に僕が過剰反応しただけだ。

冷静にならなきゃないけない。


仕方ないから「はぁ‥」と、気の抜けた返事をしておいた。



話は結構進んだんだ。

ある程度固定される建物の価格と内装や備品の価格と手元に残したい金額と

それから土地の値段を考えていけば

候補地の目安になるとね。


ここ数年ずっと右肩上がりだった土地の値段だけど

最近では新築が売れなくなってきたから

そろそろ下がり始めるんじゃないかと

まぁ、売買するわけだから

僕にとっては差額の問題だからね

土地ころがしが少ないリスクで大きな利益を得れることは

なんとなく理解できた。


でさ、なんだかわかんないけど

予想査定額みたいなものを出してくれたんだけど

御徒町で値切ったときみたいにね

声に出さず電卓に表示して「これくらいで!」とか言いやがるの。

そのときの顔が、また、してやったり顔でさ

またしても僕は過剰反応してしまって

飲もうとしたお茶を営業の人たちが座ってるデスクの方へブン投げてやろうか思ったよ。

ついでに、「腹の虫がおさまらねぇ」と、さっきのとかけて言ってみようかと思った。

だけど、もう1人の自分がね

「そりゃないだろ‥」と、気づかせてくれたんだ。

ありがたい話だね。


そんなことで僕はまた落ち着くことができてね

お兄さんの話を聞いてたんだけど

またしても奴が現れて、飛び回る。

僕とお兄さんは話しながらも目で虫を追ってたんだ。

そしたら、奴はふらふらとお兄さんのお茶に飛び込んでった。

「あ‥」

二人同時に声を出しちゃったね。

なんか仲の良い友達みたいだ。


そしたらさ、お兄さん

たぶんチャンスだと思ったんだろうな

変にテンションあがっちゃってさ

あー!とか、ぎゃー!とか騒いじゃうのさ。

「もう少しで飲むとこだった!」とかね

落ちてくとこまで二人で見てたのに。


まぁ、しかたないしね

とりあえず苦笑いしておいた。



だけど、最後やられたよ。

お兄さん、

手を口にあてて、体すくめて

「虫だけに、むっしっし」とか言って笑ってんの。


もう全然辻褄あわないしね

「もう少しで飲むとこだった!」の後だからね

笑う理由も見当たらないしね。

お兄さん流に言えば、虫唾が走るってやつだよ。


僕にだって五分の魂くらいはある。

とりあえず帰ることに決めました。


もちろん穏やかに、虫も殺さぬような顔をして

「じゃぁ、今回はこれで帰ります‥」と。


僕ね、このとき絶対「おっ!虫の知らせですか!」とか言うのかと思った。

もしくは「虫の居所でも?」とかね

ちょっと言ってくれるの期待したよ。

そしたらさ、「はい!じゃぁ次はいつ頃?月曜日くらいで?」とか

虫のいいこと言いやがるんだ。