「本当に好きだったんだから」


先日亡くなった黒川紀章さんの最後の言葉は

とても素敵だと思う。

男性が持つ理想の愛情のかたちだと思う。


僕がもし奥さんの文子さんだったとしたら

「それは反則だよ‥」と、少し微笑みながら泣くことになるだろうな。

「だったんだから‥」の「から‥」は美しすぎるよ。




やっぱりね、僕の黒川さんの認識は

都知事選や参院選のもので

「金持ちの少しおかしなおじさん」程度のものだったんだ。

僕は建築について何も知らないしね。



ニュースでこの最後の言葉を聞いたとき

頭によぎったのは、細野晴臣さんの「恋は桃色」で

「おまえの肩に 雨が降れば 僕は傘を閉じて 濡れていけるかな」 

だったのね。


男の人の愛情はさ

どこか不安げで、献身的だけど大らかで、だけど狭くてね

いつまでも少年らしく、傲慢だけど純粋で可愛らしいものなんだよ。

いや、そうあるべきだと思うのさ僕は。


だけどね、どうしても女の人には理解されないことが多くて

憂鬱な気分にもなるし、諦めもあるんだけどね

それしか方法がなくてさ、基本的に不器用なんだよ。



だけどもさ、黒川さんの奥さんは

黒川さんをとても理解してるんだね

想いのこもった言葉の端々に知性を感じるし

きっと素晴らしい夫婦なんだろうな。

まさしく「共生」というやつだね。




そんな素敵な言葉を残した黒川さんだから

変なおじさんで終わらすのは間違いだと思ったの。

ちゃんとさ、「共生」の意味も知らなきゃならないかなと。



で、ちょっと調べてみればさ

凄いよやっぱり。

「共生」と言えばさ

人間と自然の共生みたいにね

心地よいだけの軽薄なものを感じてしまうんだけど

黒川さんはね

唯識思想を根本に置いて

「あらゆるものは空である」というところから

愛と憎のような対立する概念を縁起として捉え

ニュートラルの状態で共存させる。

それはもちろん相対化して無価値にするような

低い次元の話じゃないんだ。


僕たちの感じている、認識している世界は

すべて自分の心の中にあるもので

ならば自分の心の中に対立する概念が同時に存在するのなら

一方を優として、一方を劣として認識するような

そういう西欧的な二項対立をせずにね

対立する概念の秩序立ては可能だということ。


これはさ、巨視的に考えると簡単に頷けるんだよ。

経済と文化は共生できる?と、問えば

みんな頷くだろうし、自然と人間の共生も可能とか不可能じゃなく

既にやるべきこととして認識されてる。


だけどね、微視的に、自分自身の心を想像したとき

その凄さが、難しさが理解できると思うんだ。


あなたは相対する概念を感情を論理を、どう取り持ってるのかな?

現実を根本に据えて、ときにあっちへ、ときにこっちへと

場当たり的対応で済ましてないかな?

「状況が変わったんだ」ということを理由にして

分裂症のように振舞ってないかな?


または、どっちにも必ずある欠点を見つけて

鬼の首をとったかのように騒ぎまわり、否定ばかりしてないかな?

欠点から目をそらして盲目的に信奉してないかな?

「どっちも、どっちだよ」と、自ら取得することを諦めて

ニヒリズムに陥ってないかな?


「共生」はさ、

真実なんて見当たらないし、問題は山積みだけども

様々なものを諦めて、それでも積極的に取得していこうよ、と

相互理解とか、そういう話じゃなくさ

僕たちはそれを既に共生させているんだから

自分も世界もちゃんと愛していこうよ、と

そういうことなんじゃないかな?よくわかんないけど。




たぶんね、そんな感じだと思うんだけどさ

そういう思想を表現するのが建築で

共生の空間を創ることが黒川さんの目的だったんじゃないかな。


ときにそれは進歩主義の批判だったり

西欧的な近代化批判だったり

批判というかたちで表現されて

要するに、黒川さんは仏教の唯物思想を基盤にした保守主義の人だったんだね。

勝手な僕の解釈だけどさ。



その「共生」は、福田総理の「自立と共生」よりも小沢党首のよりもね

とても理想的な机上の空論的な雰囲気があるけれども

僕たちが気がつかないだけで、既に保有している

原則的な、正しく現実的な

むしろそれ以外方法のないものだと思うよ。



夜な夜なポスターを貼ってたら職務質問されたとか

楽しいエピソードもたくさんある、ちょっと変わったおじさんだけどね

可笑しみや可愛らしさも、思想も夫婦の関係も

たしかに「共生」してたと思うんだ。


奥さんは「建築としての黒川の名前を忘れないでください」と言ったけどね

思想家として、思想の体現者として

精神と肉体の一致に近づいた偉大な人として忘れられないと思うよ。


ちょうど僕も喫茶店作りをしていたからね

だいぶスケールは小さいけどさ、目指すべき場所、人なんだと思った。