そんなことが毎日続いたわけじゃない。
ただ、僕が彼女を想う前に
必ず向こうから電話がきた。
だから、僕は全部が受身だったのね。
僕は特に彼女のために時間を割こうとは思わなかったし
彼女もいつでも性を解放できる環境にいなかったから
他愛のない話だけで、電話を切ってしまうこともあった。
性以外の彼女の話は
とてもオカルトチックでね。
小説のような暗黒街だと、東京を思ってたり
男はいつも女性を蹂躪しようとする魂胆を抱えてると思い込んでたり
僕がそんな話に飽きてしまうと
それを彼女は敏感に感じ取って
会いにきて欲しいと、縋るように言う。
男はみんなそれでどうにかなると思ってるんだね。
どうも僕は環境に慣れやすい性質なのか
彼女の特異さにも慣れてしまうのね
だから、どんなに彼女が息を乱そうが
彼女の淫らな姿を想像しようが
それほど心を揺さぶられなくなってしまった。
それでも一週間は経ってない
「実は嘘をついてたの」と、彼女は言うんだ。
僕はどうせまた年齢だったりするんだろうと、
「実は主婦です」とか言うんだろうと思ってた。
口ごもったあげく、「実はわたし、まだ処女なの」だって。
もうね、どうしょもないね。
大概のことには驚かないと思ってたけど、
久々にマスオさんみたいな声をあげちゃったよ。
「え?なに?いままでのやつ全部嘘?」
そしたら「ごめんなさい‥」だって。
さすがに笑った。
もう、ずっと笑ってた。
でも、まぁ安心したよ。
バイブ入れられたまま街を歩かされる中学生なんて
やっぱり居ちゃならないからね。
うん。まぁ、よかったんだよ。
「ごめんなさい‥ごめんなさい‥」
なんども彼女は謝るんだ。
きっと僕が怒ると思ってたんだね。
これまでは男を誘惑するための縋る言葉も
今度ばかりはとても切実に感じた。
人によってなのかもしれないけど
初体験後、憑かれたように性に溺れて
淫乱という言葉が実感できる女の人を経験したことがあるから
きっと、その類なのだろうと僕は思ってたんだ。
だから、その人がそうであったように
少し時間が経てば、極端なほど興味を失ってしまうんだろうと
僕は彼女を考えてた。
でも、そうじゃなかったのね
願望と想像が常軌を逸するほど肥大しちゃってたのね。
なにしろ、たくましい想像力だ。
なんだか急に彼女がいじらしく思えたよ。
そういえば、彼女の話ははしたない週刊誌的な内容だった。
きっと、こっそりお兄ちゃんの如何わしい本でも読んで
頭にこびり付いちゃったんだろう。
僕は安心しちゃって
「あ~そうなんだ。そうか、そうか、うん。よかった」と
それをなんども繰り返してた。
そんな僕に彼女は素直に言うんだ。
「処女だと嫌われると思った」
「まわりはみんな違うから、恥かしかった」と。
それは間違いだって、一生懸命話したよ。
僕は男女共に未経験な時期が長いほうが、人生を楽しめると思ってるから。
でも、焦る気持ちもわかるんだ。
僕がそうであったように、それが人生の最も大きな問題のように感じて
なんにせよ、中学生の性体験は早過ぎると思うし
せっかくの悶々とした時期を終わらせてしまうのはもったい
いつまでも恋は恋でいられないものだし。
もちろん、僕の話も彼女には届かない。
ただ、なんとなく嬉しそうな気分は伝わってくる。
僕もそれに気をよくして、もう少し大事に相手をしたいと思った。
僕の気持ちも伝わったのかな
だけど、僕が考えてた方向にはいかない。
やっぱり、どこか彼女は混線しちゃってる
気がつけば、甘えたような声を出すようになって
今度は僕のことを好きだというんだ。
こんな状況で、どこに誠実さがあるのか
僕には見つけることができないけど
ものすごく真剣に言うんだ。
はじめて彼女を怖いと思った。
これまでも、そう思うチャンスはあったんだろうけど
僕はなにぶんマゾらしく、どうにか受け入れてしまう。
だけど、さすがの僕も正直怖かった。
遅すぎると思うだろうけど、
彼女は普通じゃない。
僕なんかが想像できる範疇にいない存在なんだって気がついたんだ。
もちろん、丁寧に対処したよ。
脅えたそぶりなんてみせたら、大変なことになるような気がして
それにどんな状態でも、人は決定的に傷つけられていいはずがないしね。
なんか僕、不思議な現象にぶつかると
いつも自然な素振りで誤魔化す癖があるみたいだ。
彼女は昇降口の前で初恋の人に告白したように
とても真剣に悲劇的になってる。
シクシクと泣くんだ。
僕はもう、全然意味がわからない。
これは本当に怖かったよ。
ただね、次の日ちゃんと自覚したみたい。
メールで「昨日はおかしくなってた‥」だって。
もちろん僕は「それはいつもじゃないか!」と、
また無難にごまかしてしまったけど。