ビルと
ビルの間の
青空に

ゆっくりと
巨大なウミウシが
姿をあらわした

ゆっくりと
ゆっくりと
とおりすぎてゆき

やがて
ビルの背後に
消えていった

しばらくすると
巨大なヒトデが
姿をあらわした

腕が一本足りないヒトデが
ゆっくりと
姿をあらわした

とおりすぎていくうちに
腕が
さらに一本もげた

後ろからやってきた魚が
その腕を
食べた

そんなこんなで
魚たちにみとれていると
あたり一面が赤く染まり始めた

やがて
すべてのものが
赤味に飲み込まれていった

しばらくすると
巨大なクジラが
姿をあらわした

ひときわ巨大なクジラが
ゆっくりと
姿をあらわした

ひときわ真っ赤なクジラが
ゆっくりと
姿をあらわした

ゆっくりと
ゆっくりと
とおりすぎていく

その巨大さのなかに
飲み込まれてしまいそうなほど
ゆっくりと

その真っ赤な色のなかに
吸い込まれてしまいそうなほど
ゆっくりと

ゆっくりと
ゆっくりと
とおりすぎていく

ときのながれの向きが
逆向きになりそうなほど
ゆっくりと

見ているものと見られているものが
あべこべになりそうなほど
ゆっくりと

ゆっくりと
ゆっくりと
とおりすぎていく

実をいうと

そのクジラは
その巨大なクジラは
その真っ赤なクジラは

いまだに
とおりすぎきっては
いないのだ