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一度読むと、この表紙がカワイクしか見えない(笑) 「読み進めるうちアシュラが可愛くなった」レビュー多し。(それだけジョージの心理描写がうまいんだギャ!)
こんにちは。木村悦子です。(^-^)
前回、ヘビーな漫画好きをカミングアウトしましたが、何か書きだすと止まらなさそうです。。今更ながら私もこの作品のすごさを共有してみたいと思います。
【おことわり】ネタバレ、未見の方ご注意ください。
とはいえ、すでに映画化も数年前、アシュラの感想(及びネタバレ)情報も多いので気軽に書きます。(^-^)
早いので、さわり紹介に広告を引用します。
アシュラ:青年マンガ:ジョージ秋山 - 電子書籍・コミックはeBookJapan
(ストーリー要約)
大飢饉のさなか、気のふれた母親に産み落とされたアシュラ。実の母に食用として焼き殺されかけるが動物的本能のままサバイバルし生き延びる。人を殺し食う、畜生の暮らしを続けていたアシュラ。そんな中、南無阿弥陀仏を唱え人の道を説く法師や、優しい少女「若狭(わかさ)」との出会い通じて、人間らしい感情に目覚めていくが…。
アシュラの母親登場(男に捨てられ、気がふれ、腹に子を宿している)
こんな状況のため、絵がリアルじゃないのがかなり救いです。
幸せな家庭のゴミをあさって食べる赤ちゃんのアシュラ。
「かわいそうに、ごみすて場のものをひろって…なにかあげましょうか。」「よせっ。」
同情するものがいても必ずそれを制止する人間がいる。ひとりの人間の内面の動きでもあると思う。この描写は繰り返し出てきます。
「あいつをいまのうちに殺しておかなくては、いまに食い物がなくなって山をおりてくるにちがいない」
直観的に危機を感じアシュラを始末しようとする一家の父親
その結果(常人離れした斧の使い手アシュラに父親の腕は切り落とされる。むじゃきに喜んでそれを食べるアシュラ)アシュラにまだ善悪の区別はない。
この後、父親が弱り、それを引き金に落ちぶれ崩壊していく百姓一家の凄惨なシーンが続く。
映画のような法師との出会いシーン。
「おまえは人肉を食ったな」「グギギ」
言葉も知らないアシュラとそのふびんさを嘆く法師。
「グアギ」「あほっ」「獣のようにすぐおそいかかりおる」「グアギ」「喝!」「助け合っていくのが人間の世界じゃ」
まだケモノ状態のアシュラに人の道を説く法師。
ブログを書くためページを読み返していて、単なるおもしろいマンガの紹介を超えて、これが自分に起こった事だったと気づきました。
あまり無い経験でしょうが、私自身が両親への憎しみを抱きながら生きてきて、30才を出た頃恩師の藤川さん(タイで出家した日本人僧侶。)に出会った時もまさに、こうだったと。懐かしさとデジャヴ感にボウ然としました。
当時、藤川さんはすでに60代半ば頃。本当にこの老師のようだったのです。

私の師です
地味ながら最も好きなシーン。美しい自然を観てすなおに「きれい!」と感じ、それ故に涙を流すアシュラ。美しいものを美しいと感じられる心だからこそ、悲しみも感じる。
やっと人間世界に紛れ込むも、荘園の地頭の息子を殺し、崖から落とされ行き倒れるアシュラ。それを見つけた少女若狭(わかさ)との出会い。
「ね、恋ってわかる?」「わかるわかる」
貴重なほほえましいシーンだが、通しで読むとその後の悲惨を描くためのスパイスに過ぎないとわかる。(泣)
若狭は貧しい人々の吹き溜まり「散所」のリーダー青年七郎と愛し合っている。それをのぞき見し、嫉妬する地主の息子彦次郎。
「お前の事で頭がいっぱいなんだ」「卑怯よそんなことするなんて」「グワッギ」←アシュラの声
若狭に出会うたびレイプに及ぶ彦次郎と、怒るとケモノに戻ってしまうアシュラ。彦次郎は陰でライバル七郎をリンチしたり、解りやすい嫌な奴。
いまの感情で殺せば、もっとお前の心は苦しくなるぞ。両親をゆるしてやれい。ゆるさないギャア。
両親をゆるせと説く法師。自分を焼いて食おうとした母親をゆるせないアシュラ。
ジョージ秋山先生はわかっているなあと思う。異性の親に対して、ゆるせないと思う子供は、あまりにも自分がその親を好き過ぎることに気がついていないのです。
私がそうでした。愛して(執着して)いるから憎いのです。(愛の反対は憎しみではなく、無関心)
どんなえらいやつでも同じじゃ。みんな同じようにくさりはてていくだけじゃ。
正統派の説法をする法師。不浄観といって今でも東南アジアでは、人間のミイラなどを前に瞑想し、煩悩を静める方法が取られています。けして好奇的なものではなく、諸行無常をダイレクトに知る主旨。
みんな獣だギャ。食うか食われるか。親と子の間だってそうだギャ。
人間はみな獣じゃ、おまえもわしも、お前の父親も母親も…獣の本性をさらけ出す時がある。これが人間のあわれさじゃ。両親をゆるしてやれ。
アシュラが苦しんでいる原因はアシュラの「ぼんのう」(渇愛)ですが、これを癒し、受入れるのは普通に生きているだけでは本当に難しいことです。
私が再三紹介している「内観」はその専門治療法であり、内観に救われたお蔭で私にとって仏教があまりにも大きい意味を持ってしまいました。
内観でAC(アダルトチルドレン)・人格障害克服
アシュラは今の言葉で言えば、幼児虐待を生き抜いてきた典型的な「アダルトチルドレン」(AC)。ACは、親への憎しみがあるうちは、それを克服することが最大の生きる意味になります。(人は、誰かを憎みながら幸せにはなれないため)
なにするんだそれはおれたちみんなのだぜ。おれたちを殺す気か。
若狭を手に入れたい彦次郎の画策で、餓死寸前に陥っていく若狭親子。見かねて散所の米を持ち出そうとするリーダー七郎が、仲間に見つかりそれを咎められる。(地獄)
わたし、七郎さんっていう人がわからなくなりました。わたしをほんとうに愛しているのでしょうか。
飢えが深刻になり、もうろうとして七郎への疑問を口にしはじめた若狭。
現実には、食わせられない=愛していないと同義になってしまうあわれさ。
食わせられていないけれど、愛している…。
それは、相手にとっては決して愛じゃないという事実。
ほんとに我が身に照らして色んなこと考えてしまったんですが、別に男女に限らず捨て猫をひろうとか、色んな局面でぶつかる話。
誰かを愛したい時、わきまえていなくてはいけないこと…。
お前はまだ子供だ。若狭よかったな幸せになるんだ。
泣きながら何も言わず七郎の前から姿を消す若狭と、若狭を手に入れた彦次郎。ショックで泣きながら駆けて行く七郎。地主の息子との結婚を能天気によろこぶ若狭の父ちゃん。
世の中ってこんなもんですよね。(><;)
ジョージ先生はそこをボカしてくれないのです。。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
と、だいたいこんな話です。最後はあれほど恨んでいたアシュラの母親も亡くなってしまいます。
生まれてすぐ母に殺されかけ、誰にも頼れず虐められ、辛いことばかり。
まさに「すべてが苦」
説法ならその後、苦集滅道と続き、その苦を無くす道がある…(四諦・八正道)と説かれますが、始まりはもろもろの人生苦にうんざりという地点なのがポイント。
やはり普通に人生がHappyなら、なかなか開けてこない視点かも。(実際はすべてを手に入れているような人も無常からは逃れられないのであるが)
発表時は食人表現で有害図書指定まであったらしいですが、読めばいたずらな過激さでなくテーマ故の必然と解ります。親子ですら奪い合わずには生きられないのが人間ですが、己が生きるため他者を傷つけて、幸せになれるのか、という人間の本質的大問題を超ストレートに提示しているだけ。
思ったんですけど、ふつう、そのことを真正面から問題にしないですよね。
それは通常、宗教の領域なわけで。(笑) そこにしびれました。
結局、その答は愛憎を超えた世界に行くしかないため、後に描かれた完結編ではアシュラが出家し頭を丸めた姿で旅立つところで終ります。(出家とは愛も憎しみも捨てます、あれが好きこれは嫌ではなく、一切の生命の幸せを祈る存在を目指しますということなので)

この完結編を読むためにそれまでの本編があったんだギャ!
終始ドロドロの世界だったため、完結編で青空の下笑うアシュラには救いがあり本当にホッとします。聖人が最後まで出てこず、そのため全てを手に入れた末ピストル自殺するしかなかった「銭ゲバ」との最大の違い。

こっちも面白かったズラ
仏教で最初の戒としてあげられる「不殺生」ですが、私達は根本的に食べなくては生きられません。例えベジタリアンであっても他の命を奪わずして生きることはできないのです。
だけでなく、生きていれば若く、美しく、健康で、頭が良く、金が、地位が、名声が、すべて手に入れば、更に一族の継続が欲しいと貪欲もきりがなく。
そうやって、みんな争いあい、奪いあって生きています。私もです。
仏教には六道の考え方があり、私達は生前の行いで作った業により、以下の六つにグルグル生まれ変わっているとされます。
照光寺所蔵・製作の仏教美術【仏画師:宮坂宥明】│長野県岡谷市-照光寺公式サイト
美しい六道輪廻図とその解説。
阿修羅道は争いの世界なので、アシュラは奪い争い合うことがテーマと解ります。(銭ゲバは銭中心だが、アシュラは「人間が生きるために奪いあう事」そのものを主題にしており、より本質的)
この大テーマは再び、後年の大問題作「捨てがたき人々」に登場しますが、素晴らしすぎてこの作品のレビューは自信ありません。(^^;)
読後感は最高に悪いので注意。(おもしろさも破格です)

その意味で、アシュラは重い題材ながら(この三作の中で唯一)救いがある実は明るい作品です。(笑)
私のように「その価値を解っていなかった人」の「ジョージ秋山の世界」入門編としておすすめします。\(^o^)/
読んでいて、出会ったばかりの頃、何度も藤川さんにいわれた言葉を思い出しました。
life-of-buddha-26.jpg (2485×1449)

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