リアル・オプションは、DCF/NPVによって求めたNPVに加え、投資タイミングの変更(延期/前倒/中止)や段階的投資、オペレーション規模の切り替え(拡大/縮小)などの選択肢を持つ場合、そのことによる柔軟性が当該案件のキャッシュフロー、ひいては価値創造にどのように影響するかを定量化する。

Real Optionによって、①戦略的な投資決定、②研究開発や競争分析などからもたらされる情報を有効利用した意思決定、③経営環境の変化に応じた事業内容事業タイミングの最適選択、などに関して、数字に基づいた柔軟で合理的な戦略策定が可能。

Real Optionアプローチでは、経営の意思決定や経営戦略におけるフレキシビリティをオプションと考える。

経営意思決定のフレキシビリティ:①プロジェクトへの投資タイミングの延期/前倒し、②事業の拡大/縮小/一時休止/撤退、③研究開発の段階的前進/中止、④生産する製品や原材料・生産方法の転換、⑤生産拠点の集中/分散、⑥新規分野への進出など

NPV>0だからといって、必ずしも即座に事業化しなければならないわけではない。意思決定を先送りする方が有利な場合が多い。例えば、開発した新製品について、直ぐに事業化するよりも、新製品に対する需要についてテスト・マーケティングを行い、その結果に基づいて次年度以降に事業化するかどうかの意思決定をすることにより、NPVが更に大きくなることもある。一方、直ぐに事業化すると、こうした有利な意思決定を行うチャンスを逃してしまうことになってしまう。

NPV分析は、そもそも債券投資における複利最終利回りに歴史的起源がある。債券などの場合には流通市場が発達しており、取引費用が低いので投資は可逆的である。一方、実物資産への投資の場合には、DCF法で有利な投資かどうか判断して即時に実行することが必ずしも合理的でない場合が多い。

TPV = 通常のNPV + Real Optionプレミアム

金融オプションの価値は、将来不確実性が高く、Volatilityが高水準であるほど高まる。不確実性の高い投資プロジェクトほど、TPVがプラスになる可能性が高くなる。

リスクが大きいということは、キャッシュフローがマイナス方向と同時にプラス側にも大きく振れる可能性が大きいことを意味する。将来事業環境が改善すれば、投資規模を拡大できる。逆に、環境が悪化した場合には、事業の縮小や撤退などの意思決定を行って、キャッシュフローの悪化を食い止めることができる。こうした環境変化に応じたフレキシブルな経営を前提としている。

Real Optionは、原資産=投資プロジェクトが将来生むキャッシュフローの現在価値、権利行使価格=プロジェクト投資額とするコールないしプット・オプション。

コール:延期、段階的投資、拡大

プット:縮小

不確実性のコーン(The Corn of Uncertainty):投資プロジェクト価値が時間的変化を図式化したもの。従来のNPV法では、不確実性のコーンの中に数本の「固定されたパス」を人工的に想定し、プロジェクト価値を評価する。これに対して、Real Optionは、不確実性のコーン全体を評価対象とする。

経営戦略によって外生的に与えられた不確実性のコーンを上方にシフトさせる(リスクエクスポージャーを改善する)ことができる。その改善度合(コーンの上方シフト)が、Real Optionの価値。

適用事例:

米国の製薬会社メルクは、医療保険の制度改革、安価な同種薬効品の普及、為替変動などのリスクに晒されており、その上、新薬開発にはますます費用と時間が掛かるようになりつつあった。新薬の開発は莫大な投資を必要としながらも、その投資の戦略的価値は極めて不確実性が高い。従来の投資評価方法では、長い投資期間によってキャッシュフローは大きく割り引かれ、経営環境の変動リスクは正当に評価されない。そこで、小さなバイオテクノロジー企業や大学に資金提供して開発を行わせ、段階的に追加援助を行う方法をとっている。この追加援助契約は、オプションとしての性格を持っており、その要点は次の通り。

①行使価格は約2年後に行わなければならない資本投資金額

②原資産価値は、そのプロジェクトからのキャッシュフローのNPV

③行使期間は、2年、3年、4年ごとに見て分析され、オプションは最短で2年後に行使される

④典型的なバイオテクノロジー企業の株価収益率の年間標準偏差をプロジェクトの変動率(Volatility)の代替値とする(もしくは、モンテカルロシミュレーションを用いる)

⑤リスクフリーレートには、行使期日までの期間である2年から4年に対応する米国債の期間利回りを用いる

以上の要点に基づいて算出されたオプション価値はメルクが自力で初期投資した場合の金額より、はるかに大きな価値を持つことが示されている。

例示:

8世代FPD開発プロジェクトの今後3年間におけるキャッシュ・インフローの現在価値(グロス価値)は、図1のように変動する。価値が上昇する確率は60%/下落する確率は40%。このプロジェクトのキャッシュ・インフローの変動は、類似製品を製造しているメーカーS社の株価と完全相関すると予想される。S社の株価変動は図2の通り。又、各時点における開発投資金額は表1の通り。

製品開発は途中で中断してその年の開発投資を行わないことができる。

しかし、ある年に開発投資を行わない場合には、プロジェクトの価値はその時点でゼロになってしまう。尚、リスクフリーレートは5%で今後3年間は不変とする。

将来のプロジェクトのグロス価値変動に応じて、開発プロジェクトを継続するかどうかフレキシブルな意識決定を行うとすると、現在このプロジェクトは採用すべきか?

開発プロジェクトを中断するのが合理的行動になるのは、何年目の時点でプロジェクトがどのような価値になった時か?