無事、住居許可証を得た私は、

「レガッタ」という外国人居住区に引っ越した。

 

 

今度の住居は会社が持っている中でも、一番新しい物件で家具がすべて揃っていた。

リビング、ダイニングがワンルームになっていて、寝室が2部屋、キッチン、トイレ&バス。

標準的な大きさだが、キッチンはビルトインで食洗器までついている。
フロアーはつるつるした大理石で掃除がしやすい。一人では勿体ない広さだが、かなり快適だ。

 

 

レガッタの約半分くらいは、集合住宅で高さは2階建。ゆったりとした住居が一つの棟に15軒ほど。

 

どれも作りは同じようだが、入居者によって室内のアレンジは自由に行っているようで、

購入した当時から新しい形態のものもあれば、

なにもなくキッチンからすべて備え付けなければならないものも多いらしい。

レガッタを管理している政府の方で、手を入れているということはないようだ。
 


ダイニングとリビングの窓からは隣の家もよく見える。

向かいのお宅はおそらくヨーロッパ人で、小さな赤ちゃんがいる。時々泣き声が聞こえてくる。
 

 

この家で必要なものをリストアップする。まずは、カーテンだな。ベットシーツも替えがほしい。

かけ布団はカミルが前の家から持ってきてくれていたから、そのまま使わせてもらう。

あとは、キッチン用品、お皿やコップなど、TVもやっぱりつけてもらって、

冷蔵庫がないので、早急に買わないと。

などなどいろいろ揃えるものを考えるのが楽しくなってくる。
 

 

 

今回の買い物は色々と勝手が分かっているので、手際よく進む。
住居が移ったので、毎朝送迎のバスに乗るのではなく、

この住居内住むMrテッドと一緒に通勤することになり、

MrテッドのドライバーのKが私のドライバーを勤めてくれることになった。

なので晴れて、帰りにスーパーに寄ったり、買い物に連れて行ってもらうことができるようになった。やっほーー!

 

 

 

前は、会社の女子達と一緒にマイクロバスに乗って帰っていたので、

時間の融通が利かないし、ましてや帰りにどこかに寄って買い物をすることなどできなかったのだ。

唯一お水だけはないと困るので、近くの売店に寄ってもらい、

手早く買ってくるということはしていた。

 

でも毎回だと、一緒に乗っている彼女達がうんざりしているのがわかったので、あとは歩いて買いに行っていたのだ。


今度からは、お米もお水もまとめて買える。

ただただそんなことだけでも嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 

便利になるって素晴らしいな。ちょっとしたことでも生活するって大変なんだ。

本では何処でもスーパーやコンビニがあるし、しかもネットで注文すれば届けてくれる。

 

バスだってタクシーだってあるから、たくさん買い物してもそれほど大変じゃないけど、

ここではそうはいかないもの。自分の車があるなら別だけどね。


 

ウキウキ気分でレガッタ内を散歩する。

それでなくてもやることがないので、毎日のウォーキングが日課になった。

 

歩けるだけでも新鮮で気持ちよかった。

区内を大きく回って歩くと1時間以上かかる。

 

奥側には棟ではなく一軒家が並び、あるウォーキング中の夜、大きな家の前を通りかかると、

パーティーが行われているようで、専属のコックや使用人が世話しなく、裏口から荷物を運び入れている姿などを見かけたりした。

 

この辺は各国の石油会社の人や大使などが住んでいるのだろう。どれも大きな家ばかりだ。

 

 

 

レガッタ内のスーパーは歩いて5分ほどだったので、毎日たいして用もないのに、

散歩帰りに寄るのが日課になってしまった。お店のお兄さんとも顔見知りになった。
 

 

引っ越してすぐ、冷蔵庫と洗濯機を買いにいく。リストアップしたものがどこで手に入るかチェックし、

生活品は街の中心地にある大型のスーパーで安く手に入るらしいので、1日はそこで買い物。

3日間くらいで全部揃う予定だ。

 

 


新しく私のドライバーになってくれたKは生粋のリビア人といった感じで、彼の愛車はトヨタ。

 

四人乗りだけど、荷台に荷物が積めるようになっている。

彼は英語が全くわからないので、事前にザラに頼んで、私の買い物リストをアラビア語に訳してもらった。

 

そのリストを基に今日は冷蔵庫と洗濯機を買いに行く。

Kはすこし考えた後、

「任せろ、大丈夫だ」という意味で

「ノープロブレム。ノープロブレム」と頷いている。

彼が知っている数少ない英語だ。
私も少しずつだが、会社にいる女の子達に聞いて、挨拶など簡単なアラビア語を覚えていった。
 

 

さて電気屋はたくさんあって、新型のモデルやビルトインキッチン、

高級な電化製品が並んでいる。当時リビアではこういった電化製品が贅沢品となっていた。

狭い店内に敷き詰められた展示物をみて、機能や値段を確認していく。

冷蔵庫は冷凍庫と冷蔵庫がある普通の大きさのものに決めた。
 

 

洗濯機は、手頃な値段で丁度いいサイズのものはないか見ていくと、

日本では見かけない二層式の洗濯機があったのでそれを購入する。

 

前に日本で使用していた全自動は、脱水だけとか調整が効きにくく、

洗濯とすすぎの間に一々脱水をかけるので、

そのおかげでTシャツなどはすぐにぼろぼろになるなんて経験をしていたので、

全自動がどうも気に入らなかったのだ。(最近のものはそんなことないですよね)

 

 

 

だから懐かしい二層式(確かに面倒だけど)があったので、即決してしまった。しかも安い。

 

手洗いを長いことしていたので、洗ってくれるだけでも助かる。そんな気持ちだ。
冷蔵庫と洗濯機、Kの荷台になんとか収まり、そのまま持ち帰った。

 

 


冷蔵庫がないと暑い日に生ものは買えないので、ほんとに助かる。

早速設置して待つことにする。冷蔵庫は特殊な液体?とかガスか何かが安定するまで、

半日ほど置かないといけないということなので、明日には利用できるだろう。
Kが一人で運び入れてくれたので、すごく助かった。ありがとう。流石の彼も疲れきっている。

 


Kが帰り、早速洗濯をしようと洗濯機を取り付ける。

 

こちらは簡単だ。ホースを所定の穴に差し込んで、電源を入れて、蛇口をひねればOK。
どんどん水が溜まっていく、洗濯物を入れ買ってきた洗剤を入れて、

洗濯スタート。回ってる、回ってる。感動。一回目の洗いが終ったので脱水をする。 

 


うん?
水が減らない。どうしたのだろう…
うーーん?!!

 

 
壁に取り付けた脱水用ホースの穴をよーく見ると、床から15cmくらいの高さにあるのだ。

そりゃ流れないだろーーーーー!さっきはウキウキしすぎて冷静には見れていなかったのだ。

 


信じられない。

 

 

だれ、これ設計したの。っていうか普通、地面とか少なくとも洗濯機より下にしなきゃ脱水できないってくらいわかるだろうがっ!!!

怒り半分、脱力感たっぷり。せっかく洗濯機買ったのに。

はあー 

 

洗濯機を台の上に載せて、穴より高くする?いやいや中が覗けないし、出し入れできない。

 

途方に暮れていたが、ここのバスルームは外国によくあるワンルームなので、

ホースをはずせば、そのまま流れるなと落ち着いた心で判断する。

 

 

排水溝もあるし。よし、流すしかない!ということで、短パンに履き替え

、ビーサンを履き、ホースをはずし水を流す。バスルーム一面水浸しになる。

 


とりあえず脱水成功。仕方ないしばらくこの方法でやるしかないようだ。

一気に流れると溢れそうになるので、少しずつ調整する。

 


洗いが終ったのでゆすぎをして、また脱水する。

なんとか溢れないように、モップで水の流れを排水溝の方に押し流す。
脱水した洗濯物をタンブラーに移し変えて絞りに入る。これでひとまず終了だ。
かなり疲れきってバスルームから出ると、なんと水が浸水してリビングにまで流れているではないかー!

 


慌ててモップを取り出し、流れている水をバスルームに押し戻す。

床が石でよかった。

ソファーや家具は濡れることなく済んだようだ。

それでも流れ出た水は半端なかったので、

バスタオルを出して拭き取る作業を続ける羽目に。

かなりの重労働、やっぱり全自動じゃなくて良かった。

リビアでの生活は、なかなか一筋縄ではいかないのだ。

 

 


そんなこんなで、その日の夜は暮れていった。