リビアに来てすぐの頃、大使館に在留届けを提出に行った。

担当の方にパスポート表記の件など色々とお世話になっていたのでお礼を言い、

リビア生活について教えてもらった。

 

 

その当時(2008年)リビア日本人滞在者は100名ほどだった。

多くは日系企業、大使館などの駐在員とそのご家族だということ。

 


 そんな中、一人だけ私のように 単身で来ている日本人女性がいると教えてくれたのだ。

 

 

「Aさんに連絡をとって、連絡先を教えて良いかどうか聞いてみましょう」と提案してくれたのだ。

 

 

 

その女性、あきこさんはその後、

私のリビア生活を支える無くてはならない友人となり、

精神的に支えられ頼りになる存在となった。

 

 

 

リビアに来てから、仕事や自分の生活も落ち着かず、

先はもらっていたけど、しばらく連絡は取っていなかった。

 

 

生活にも慣れ監禁生活に嫌気がさした頃、彼女にメールで連絡をし、

彼女の家に遊びに行かせてもらうことになった。

 

あきこさんが住んでいるのが、レガッタだった。

私も早く移りたいと願っていた為、彼女の家を訪問するのを楽しみにしていた。

 


 
金曜日の休みの日(イスラム圏では金曜が休日)、

タクシーでレガッタまで出かける。

初めて乗るタクシー。

 

大通りまでいつも通りの遠慮のない視線をかいくぐって、歩いていく。

黒い車体に白でペイントしたタクシーは埃まみれ。通りを何台も走っている。
今日の外出はカミルには内緒だ。

 

一人でタクシーに乗って出かけるなんて言ったら、

心配して車を寄越すとかなんとか言いかねないので、秘密にする。

 


通りに駐車しているタクシーに近づき、人相の良さそうな人かどうか確かめ、

 

「レガッタまで行きたいが、いくらか」と訊ねる。

 

そうでないと、降りるときにとんでもない額を言われかねない。

気のいいおじさんだったので、安心して乗り込む。

 


 
こちらではタクシーは助手席に座る。

オーストラリアでもそうだった。

なので、おじさんと話さないわけにはいかない。

でも、やばい人だったら逃げにくいから、

今度からは後部座席に乗ったほうがいいな、などと一瞬考える。
 

 

どこから来たのか聞かれたので、ヤバーニ(日本人)と答える。

 

 

おじさんは、アラビア語で、ジャパーン、トヨータ、サムライなど知っている日本を連呼して、

私とコミュニケーションをとろうとしてくれている。
おじさんはアラビア語で話し、私は英語で返す。

 

 

 

「どうだ、リビアはいいだろう?」

と聞かれた気がしたので、


「うん、みんなやさしいし、好きだよ。外歩くといっぱい見られるけど」と返す。

 

するとおじさんはにこやかに笑い、満足したような顔をする。
 

 

スピーカーからはアラビア語のノスタルジックな音楽が流れている。

開けっ放しの窓からはムワッとした埃っぽい熱気をおびた風が入ってくる。
 


うーん、いいなー、これこれこの感じ。
やっとリビアを旅して交流している感じがした。

いつになく窓を開けて入ってくる風が心地よく、自由に感じた。
 

 

いつも会社まで通る道と変わらないのに、

見るものが新しく感じられるから不思議だ。

こうして一人この土地で生きている人と心を通わせるだけで、

こんなに見る風景が変わるなんて。

 


どうして、今までこんな風に出かけなかったのだろう。

そんなに危なくないじゃないか。

カミルは心配だから大げさに言っているだけだな。

 

 

そんなことを考えながら走っていると、あっという間にレガッタに着いた。

おじさんに乗ったときに確認した額を渡し、帰りも来れるか聞いてみる。

 

「わかったわかった、来てやるよ」とうなずいてくれたので、

携帯の番号を聞いて大体の時間を伝える。

 

通じたのかよくわからないけれど、無事迎えに来てくれることを願う。

 

 

おじさんがユーターンしたのを見送り、待ち合わせのゲートまでテクテクと歩いていく。

ゲートにいる男性が二人興味深げに、私の方をジーっと見ているのがわかる。

 

 

ゲートの脇の道に沿った壁側に寄って待つことにする。するとすぐ、

長身のスラッとした女性がやってきた。

 

 

あきこさんだ!

 

あきこさんがゲートのおじさん達にアラビア語で私の友人だ的なことを話し、私を迎え入れてくれた。
 

 

無事にゲートを通過して、挨拶も早々に彼女の家に行く。

ゲートから3分くらいの場所にマンションのような建物がたくさん並んでいた。

どれも2階建て。その一角の1階にある彼女の家に到着。

 


ドアを開け、靴を脱いで絨毯の敷かれたリビングに入る。

 

大きさは日本の1LDKよりはるかるかに広く、一人で住むには丁度いい大きさだった。

リビング、キッチン、寝室にバス&トイレ。
 

 

部屋に着いてすぐ、あきこさんがお茶を淹れてくれた。

彼女のお気に入りのフランスの紅茶だそうだ。

甘い芳香が部屋にたち込める。フランス製のチョコレートまでご馳走になり、

久しぶりに優雅でゆったりとした時間を過ごした。

なんでも、リビアにフランスのチョコ専門店があるらしく、彼女のお気に入りなのだとか。
 

 

 

あきこさんは、国連ボランティアで1年ほど前からここリビアで活動しているという。

すごいなぁ、自分の専門性を活かして、こういう所にやってくるのも夢があるというか、勇気がある人だなと思った。

 

 約2年のボランティアを経て正規の職員を目指しているそうだ。

主に都市開発が専門分野で、フィリピンに長く留学していたこともあり、

公用語のタガログ語が堪能で、リビア滞在中はアラビア語も習得しているそうだ。

現地の人としっかりコミュニケーションをとって、生きている彼女をとてもたくましく感じた。
 

 

あきこさんは、海外で活躍している女性特有のさばさば感があり、

屈託がなく、それでいて初対面で馴れ馴れしくしてこない礼儀正しさみたいなものがあって、

日本人の繊細な気の使い方ができる洗練された人だった。

 

そしてどんなことも楽しんでしまうというような、底抜けの明るさがある人だった。
 

 

リビアでの生活やレガッタでの生活についていろいろと聞く。

お茶も飲んでゆっくりした後、スーパーまで一緒に買い物に連れて行ってもらった。

 

 

置いてあるものをチェックして、野菜や果物もたまに売っているらしいが鮮度が悪いので、

外の八百屋に行くほうが断然安くていいと教えてもらう。

 

さすがリビア、ヨーロッパが対岸にあるだけあって、輸入品のお菓子やスナックも充実している

お米もパンも売っているしここのスーパーでかなり事足りるなーと期待が膨らむ。

 

 

 

そして、

あきこさん家訪問から1ヶ月半後、

ようやく私はレガッタに移り住んだのだった。