社内の連絡手段にも一苦労した。

会社のインターネットはもちろんLAN配線は

すべての部署で使用できるようになっていたが、

オフィスの電話は内線がつながったりつながらなかったりで、役に立たない。

急いでいる時などは携帯を利用するしかなかった。
 

 

メールでは英語が得意でない人とやり取りするには不適切で、

いつ相手がメールを見るのかわからず、時間もかかり過ぎる。

社内の人と共有できるアウトルックなどの共有サーバーは利用していなかった。
 

 

 

リビアで仕事をしていて驚いたことは、

あらゆることがシステム化されていないということと、

とにかく効率が悪いということだった。

 

 

 

人も動かない。

書類に不備があるから取りに来るようにと連絡しようにも、

電話が通じない、相手が出ない場合は(ほとんどいつも)、

仕方がないので4階建の建物を上から下に何度も往復し(もちろん階段だ)

それぞれの部署に赴き、申請却下された書面を持っていき説明する。  
 

 

 

こちらが分かり易く説明しても、必要なんだの一点張りで埒があかない。

英語が分からない人には分かる人をみつけ通訳してもらったり、

そんなやりとりを何度も行いながら、日本だったら5分で終ることにも

数時間かかったりして、時間も体力も無駄に消費していた。
 

 

 

会社のスタッフにとっては、面倒な奴らが来たという感じだったのだろう。

カミルと私が来る前まで、申請すれば希望した金額を貰うことができ、

どう使おうと追及されていなかったのだ。

額は小さいが多くの部署で横領がはびこっていたのも頷けた。
 

 

 

 

しばらくこの会社で働くようになって

「リビア人は働かない」という印象が私の中で強くなっていった。

もちろんすべての人ではないがその傾向が強いように思えた。

 

 

なんだかんだと理由をつけてすぐにやろうとしない。優秀なのはいつも女性達だった。

きちんと仕事をこなし期限もちゃんと守ってくれた。

 

 

 

 

総務的な役割をするPRという部署では本当に苦労した。

ひとつ象徴的な事件がある。

 


私が業務をしていたオフィスには、書類をしまう棚が十分になく、

今まで溜まっていた書類を新しくファイルし、

棚に鍵をかけ保管する必要があったために、

ある日書類棚をPRに注文した。

 

 


通常の流れだと、オフィスで必要なものは各部署で申請書を作成し提出していたようだが、

PRでも予備の文房具などは少し管理をしていた。

書類棚は大きなものなので、PRを通して申請書を

提出してもらうのがベストだろうと判断し、彼らに仕事をしてもらうことにした。
 

 

とにかく各部署に予算はないので、その都度必要なものは資金を得なければならない。

申請までに2日程かかり、経理から承認を得て資金をPRスタッフのアリに渡す。

 

 

明日中に買ってくるように伝える。

その後3日経っても、5日経っても音沙汰なく、

アリを捕まえて、いつ買ってくるのかと問い詰めるが「インシャラ」といって逃げられてしまう。
 


「インシャラ」とはアラビア語で「神のご加護を」とか

「神のご意思があれば」といった意味の言葉なのだが、

彼等は何でもかんでも「インシャラ」といって自分の意思で動こうとしないのだ。

 

 

私には怠けているようにしか見えなかった。

神のご加護があればいつか買ってこれるだろうという理屈らしい。

面倒くさいわけだわざわざ買いにいくのが。
 

 

そんなこんなで数週間たっても私のオフィスに棚が運び込まれることはなかった。

 

 

いいかげんに怒った私は、英語がさほど通じないアリに

 

「何で自分の仕事を全うしないのか、

どれだけ私が棚を必要としているか、

これはあなたの仕事で私の仕事ではない」とつめより

 

「No インシャラ! You will !」

と怒りをぶつけたが、

 

両手を上に上げて首を傾けニヤニヤ笑い、結局逃げられてしまった。
 

 

 

そのやりとりを聞いていたカミルと同僚のアンサー、Mrテッドが、

大爆笑して私の肩をたたき喜んでいる。

 

 

「あさこが一番怖い、今度から何か頼むときはあさこに頼もう」とからかわれた。

 

 

人の気も知らないで、いい加減にしてほしい。

リビア人の怠慢さには皆ほとほと手を焼いているようだ。

 

 


棚がないと書類の整理ができないし、

重要書類なので鍵をかけ保管する必要があったのだ。

これ以上待てなかったので、結局、申請したお金を取り返し、

仕方なく自分で買いに行くことにした。
 

 

 

つづく