まるでチェスのように
竜也は 私の進めるマスを ひとつづつ潰していった。
そして 抜け目なく ひとつだけ 行き易い道を残していた。
ある日、彼はスーツを着て、私の両親に挨拶に来た。
竜也も私も、両親が暗黙の了解で
結婚を許していることは分かっていた。
良家の長男で、一流企業に勤める、好青年の竜也。
父の酒の相手もよくしていたし、母にはまめに贈りものをし
何かあれば両親のために車を出して、送り迎えもしてくれていた。
出来すぎた娘婿だった。
両親はもはや私の大学進学は考えていなかった。
下手に進学し就職して世慣れていくことで、女は縁遠くなる、今のままの私がかわいい、と
私のいないところで彼が両親に吹き込んでいたのだ。
「竜っちゃん、式はいつごろで考えてるの?」
「ゆみちゃんの卒業を待って、来年で考えています。」
「じゃあ、結納の日取りをご両親と相談して、…」
勝手に話が進んでいく。
私は…
これでいいの?…
まだ 何もできていないのに…
私の…夢って…?
…お金をねだること…?
この男の…
言いなりになって…
きっと…
今よりもっと逆らえなくなる…
一生閉じ込められ…
振り回され…
弄ばれ…命令され…
「まだそんなに急がなくても…。」
私は精一杯明るく言った。 思ったより声がリビングに響いた。
父母と竜也が私を見た。
軽い沈黙と間 ――
私はひきつるような笑顔を続けていた。
指が冷たくなって震えた。 唇も震えていたかもしれない。
「私、やりたいことあるし…。」
勇気を振り絞って続けた。
「働いても…みたいし…」
「そうよねぇ」
母が答えて豪快に笑うと、張り詰めた空気は一気にもとにもどった。
「今まで勉強だけさせてたから、
ちょっとくらい社会で働いてもらって、
親孝行のひとつもしてからお嫁に行ってもらわなきゃ」
母は、ケラケラと笑った。
「大丈夫です、僕が親孝行します。」
竜也が言った。
「僕がゆみちゃんをもらったら
お義父さんとお義母さんは僕が面倒みますから安心してください。
もう、こき使ってもらってOKです♪」
「あら~、嬉しい♪ 頼りになる息子ができて幸せ!
ゆみちゃん、いい旦那さんつかまえてくれて、お母さん嬉しいわ♪」
しばらく談笑した後、母は席を立った。
その瞬間 テーブルの下で 私のスカートの中に
竜也の手が入ってきた。
「ひっ」
父は全く気付いていない。
強い力で 手は 内腿に沿って上へ這いあがってくると、付け根でぴたりと止まった。
指を立てられて、軽く痛みを感じた私は 思わず軽く腰を浮かせた。
すると下着の横の隙間から指が入り 無理やりあの部分に 中指が挿し込まれた。
どくん、どくん、と鼓動が聞こえる。
私は心底 この男が怖くなった。
何者なの?… 狂ってるの…?
彼は、好青年のようにさわやかな笑みを浮かべたまま、私の耳に唇を近づけてきた。
はた目から見ると きっと、時間を惜しんで「愛してる」 と囁き合う、
仲睦まじいカップルに見えているに違いない。
竜也は中指にもう一度ぐっと力を加えた。
私はうつむいて 歯を食いしばり スカートをぎゅーっとつかんだ。
彼は耳にぴったり唇を当て、
ささやいた。
「あとで二人になったら…覚えてろよ」