「離してよ!」


つかまれた腕を振りほどこうとしたが、ユウジはさらに手に力を込めてきた。


「あっ!」


壁に押さえつけられた私の手の甲に、ごつごつした突起があたって痛い。


ユウジの顔が怖い。息も荒い。本気なんだ…




しまった。早々に帰ればよかった。


ユウジは私に気があるのかもって、本当は前から気付いてた。


でも彼を男として見れない私は、


「なんでも言うことを聞いてくれる、すっごく親切でとっても優しい男友達」 


と彼の行動を理由づけしていた。 


ユウジの気持ちを利用しながら友達でいたかったってこと…ずるいよね。




でもさ


お前は私の胸を見て生唾のみこんでただろ?


落し物を拾いながら、私の足や下着のぞいてたんだろ?


私が髪をかきあげる仕草を見て、恋愛と肉欲をかん違いしているだけなんだろ?


ずるいのはどっちよ?


純粋じゃないのはどっちよ?




「なあ、聞いてんだろ?どう思ってんだよ。俺のこと…?」


ユウジは顔を近づけて、私の首筋に唇が触れそうな距離で言った。


「お前にとって俺は、ただ貢ぐだけの男かよ?」



いつもと違う乱暴な口調と、首筋を這うような生温かい息に、私の体ががたがたと震えた。

どうしよう、今は下手なこと言っちゃいけないって本能が騒ぐ。


言葉を選んで答えなきゃ…


『貢いでくれなくてもいいのに』


『ユウジが自分からいろいろしてくれたんじゃん』


『友達のままでいたい…』 


『これ以上の関係になったら 私たち…もう会えないよ…』




どれを言っても多分ユウジを怒らせる。


怒ったら彼は きっと このまま私を…




何も答えられず涙がこぼれてきた。


子供みたいに嗚咽まで出てきた。


ひっ ひっ って


こんなに泣き方したのはいつ以来だろう。


止まらない…




ユウジは憑き物がとれたように、押さえつけていた私の両手を離した。


「ごめん、ゆみちゃん。大丈夫?」


私はただただ恥ずかしくて、両手で胸を覆い隠すように体を丸くした。


その間も涙はどんどん溢れて零れおちた。



「ごめん、ごめんね」


ユウジは私の顔をのぞきこみ、肩を優しく抱きしめた。



もういつものユウジだ。


これできっと、もうしばらくは「なんでも言うことを聞いてくれる気のいい男友達」でいてくれる。


私は嗚咽しながら微笑んだ。