このところの当ブログで、『あした輝く』(1974 山根成之監督)、『しあわせの一番星』(1974 山根成之監督)と、浅田美代子さんがアイドル歌手だった頃に主演した映画について取りあげました。

あれから50年、浅田さんは現役の女優さんとして活躍なさっています。5年ほど前に『エリカ38』(2019 日比遊一監督)を観ました。これには、その前年亡くなった樹木希林さんも出ておられます。この作品、62歳の女性が38歳と偽って資産家にウソの投資話を持ち掛け、何億円も騙し取った事件を基にしています。タイで逮捕されて、妙に若作りした格好が映し出され、ワイドショーなどで話題になりましたから覚えている方も多いと思います。この女性を演じるのが浅田美代子さんで、浅田さんのデビューとなった『時間ですよ』で共演以来、可愛がってもらった樹木さんが生前、浅田さんに主演を勧め、監督も決めるなどお膳立てしていたそうです。そして、ご自身も浅田さんの年老いた母親役で出演されています。

ちょっと変わった構成で、エリカ(浅田美代子さん)がどんどんお金を騙し取る過程が描かれる中、取材する窪塚俊介さんの質問に対して、被害にあった人たち(古谷一行さん、小松政夫さんなどが演じます)の証言が時折挿入されます。ワイドショーなどでは、スキャンダラスで一面的な部分でしか捉えられないのを、いろいろ多角的にアプローチしていくようで、一種のマスコミ批判になっています。

古谷さんが「松葉杖ってあるでしょ。あれと同じだね……。あのとき(投資したとき)はそれが自分の支えになると思ったんだね……」などと言います。もちろん、怒り狂った投資家たち(佐伯日菜子さんなど)がエリカを責め立てるシーンもあります。ですが、全体的には、「元を言えば、エリカも被害者のひとり」という論調が意外に多いのです。エンドロールには、実際の被害者の声も流れますが、そこでも「私たちもエリカになっていたかもしれない」という意見がありました。

劇中、エリカが子供時代、暴君そのものの父親、従うだけの母親のもと、貧しい生活を送っている回想シーンりますが、そこにテレビから流れる「1970年の万博」の映像がかぶさります。「人類の進歩と調和」を謳ったイベントから約50年、結局、日本が拝金主義の、「金」だけに幸せを見い出す国になったことを示すようです。なるほど、希林さんはこれが言いたかったのかなあと思ったのでした。

これが希林さん最後の作品かと思ったら、その後も『命みじかし、恋せよ乙女』(2019 ドーリス・デリエ監督)というドイツ人監督の作品にも出ておられるようです。病魔におかされながら、最後まで演じることを全うされたのです。 (ジャッピー!編集長)