ひとつ前の当ブログで、『日本の黒い夏 冤罪』(2001 熊井啓監督)を取り上げました。

30年前の6月27日に起こった「松本サリン事件」で第一発見者の河野義行さんを犯人であるかのように報道をした一件を題材にしている社会派映画です。河野義行さんを寺尾聰さんが演じました。

その河野義行さんのお名前が目にとまったことがありました。映画公開時の新聞広告にはよく著名人の推薦文が載りますが、『リチャード・ジュエル』(2019 クリント・イーストウッド監督)の新聞広告に河野義行さんのコメントが出ていたのです。

近年は実話に材をとることの多いイーストウッド監督が、1996年の「アトランタ・オリンピック」の際に起こった爆弾テロを取り上げています。モハメド・アリさんが震える手で聖火をつけた大会で(この映像も出てきます)僕も覚えていますが、 この爆弾テロの陰に「冤罪」事件があったのはよく知りませんでした。

爆弾の入ったバッグが置いてあったのを発見した警備員のリチャード・ジュエルさん(ポール・ウォルター・ハウザーさん)は、多くの人を避難させ命を救い、英雄になりますが、何としても犯人をあげようと焦るFBIや、スクープに躍起になる新聞記者のために一転、容疑者とされてしまいます。

河野義行さんは、「松本サリン事件」の際に同じような報道をされてしまった方です。なるほど、第一発見者であるのに、犯人とされてしまい、メディアリンチを受けた点で河野さんとリチャード・ジュエルさんはよく似ているなあと思いましたが、何と、河野さんは当時、リチャード・ジュエルさんに会いに訪米しているんですね。自分の経験から「メディアの暴走」などに対し発言していた河野さん、自分と同じ目にあったリチャードさんに話を聞きに行っているのです。「松本サリン事件」が1994年、あの「地下鉄サリン事件」が1995年、そして「アトランタ爆弾事件」が1996年ですから、ご自分がひどい目にあってから2年後、人ごととは思えなかったのでしょう。そんな縁や交流もあって、河野義行さんが映画『リチャード・ジュエル』の新聞広告にコメントを出したのです。

河野義行さん、リチャード・ジュエルさんが酷い目にあったときから、30年ほどが経ちましたが、この「メディア・リンチ」はSNSの普及もあって、状況はより悪化しています。誹謗中傷で自殺してしまった女子プロレスラーなど、本当に命におよぶ言葉のナイフが飛び交っているのです。SNSやネットは人間の残酷さを広げてしまった「パンドラの箱」のように思います。(ジャッピー!編集長)