ひとつ前の当ブログの続きです。

『白い夏』(1957 斎藤武市監督)の舞台は千葉の安房あたりの小さな海辺の町。町を牛耳っている有力者(相原巨典さん)は町長の座を狙っていて、選挙が近づくと、買収しようと一人あたり200円ずつ入れた封筒を町民全員にバラまきます。その配達を請け負うのが、前述のチャラい郵便配達員・近藤宏さん(阿部サダヲさんに似ています)と、地元紙「安房新報」の記者・西村晃さんです。地元紙といっても、弱みを握って記事に書くぞと脅してカネを要求する「業界ゴロ」のような怪しい新聞です。西村晃さん、こういう小悪党をやらせたら絶品です。この二人は青山恭二さんを陥れようと「切手泥棒」の濡れ衣を着せようとコソコソ暗躍します。

この近藤宏さん&西村晃さんのコンビがバラまく「一人あたり200円」って、今だとどのぐらいの価値でしょうか。1957年当時、ハガキ5円、映画館入場150円、国鉄初乗り10円だから、ざっと3000円ぐらいにあたるのかなあ。どれほどの数の町民に配ったのかさだかでありませんが、けっこうな出費ですな。そこまでしてなりたいんだから、町長になれば相当な旨味があったのでしょう。

おまけに、ボスは芸者を孕ませたり女癖も悪い奴で、芦川いづみさんを嫁にしようと言い寄ったりします。最後はもちろん、青山恭二さんの活躍で、このボスの悪事が露見します。旧弊な田舎の閉鎖的な風土、野卑な下品な連中が幅をきかせている中、純朴な青年がやって来て、民主的な町になる……何だか、石坂洋次郎さんの書きそうなお話ですが、この映画の原作は新田次郎さんでした。

石坂洋次郎作品ぽいといえば、主人公がモテモテなのもそうで、青山さんが郵便局に赴任するや、若い芸者(高友子さん)、積極的な看護婦(中原早苗さん)などが近寄ってきます。ヒロイン・芦川いづみさんは青山さんと中原さんとの仲を疑って、最初は冷たかったですが、誤解もとけます。この辺のハッピーな終わり方も石坂作品的ですね。

面白かったのは、青山さんの宿直中に中原さんが押し掛けてきて、「ねえ、明日、映画に行きましょうよ! 今、『白い夏』って面白いのやっているのわよ」と言うのです。映画の中で、その映画がかかっているって「メタ世界」が描かれていたのか! 

それにしても、この1957年(昭和32年)で描かれているのと基本的には同じ「金権」選挙の構造がいまだに続いているって、どういうことなんだよ! (ジャッピー!編集長)