ひとつ前の当ブログに続いて、『善人の条件』(1989 ジェームス三木監督)の話です。

妻(小川真由美さん)の父親で市長だった男が突然亡くなり(腹上死)、急遽、市長候補に持ち上げられた津川雅彦さんですが、カタブツの学者で選挙のことなんか分かりません。そこに参謀として雇われた「選対プロ」の丹波哲郎さんが早速カネをバラまき、否応なく「金権選挙」の泥沼にハマっていきます。

学問ばかりの夫にかまってもらえなかった小川真由美さんは、父の秘書だか事務局長だった小林稔侍さんと関係を持ったことがあり、それをあばく「怪文書」が出回ります。すると、丹波参謀、少しも慌てず「スキャンダルもチャンスだ。堂々としていなさい。逆に人が集まるぞ」と不倫の当事者、小川さんと小林稔侍さんを二人とも「選挙カー」に乗せるのです。もう、注目が集まるなら手段を選ばずです。

もう一人、橋爪功さん演じる選挙ブローカー(というか、選挙ゴロ)がいて、こちらは選挙に「文字通り」賭けていて、「いやあ、賭けていないと気合が入らないからねえ」とウソぶく始末。橋爪さんが応援演説に連れて来た芸能人(汀夏子さん)は「それで、こちらは何党でしたっけ?」と尋ねるのには笑いました。きっと、こんな風に頼まれるままに顔を貸す芸能人もいるんだろうねえ。こうなると、もう「営業」です。

クリーンな選挙を目指していた津川雅彦さんも、こんな取り巻き連中に毒されていきます。そんな父親の醜悪な姿を見て娘が自殺未遂をはかり、ようやく津川さんは良心を取り戻します。ラストは全てをぶちまけ、ブローカー、結託した企業などを糾弾し、「そして、いちばん悪いのはお前たちだ! お前らが民主主義をダメにしたんだ!」と吠えます。この台詞を映画を観ている客席に向かって言うのです。劇中に、タダ酒、タダ飯を目当てに来る人々が出てきますが、自分のことしか考えずカネに転ぶ有権者たちにも強烈な喝をいれるのです。そして「ありがとうございました」と言い、津川さんが退場して映画は終わります。

ちなみに、タイトルの『善人の条件』は津川さんの姑で市長選に引っぱり出す山岡久乃さんが、腰の引ける津川さんに「黒いモノを白と言わせるのが政治家でしょ! 善人が政治を動かしたためしはないのよ」という台詞から来ています。なるほど、内閣のどこ見ても「善人」なんていないもんなあ。今まさに実感できる台詞ですね。(ジャッピー!編集長)