ひとつ前の当ブログで、かつて人気を誇ったロッカーが別の道に踏み出す姿を描いた『キープ・オン・ロッキン』(2003 両沢和幸監督)を取り上げました。

同じように、「栄光とその後」という視点の「ロック映画」としては、『Aサインデイズ』(1989 崔洋一監督)もあります。こちらは、実在の女性ロッカー・喜屋武マリーさんをモデルとした映画です。原作は利根川裕さんの『喜屋武マリーの青春』(ちくま文庫)です。

まだ沖縄がアメリカの統治下にあった時代、米兵相手のクラブは大盛況。ベトナム戦線に送られる米兵たちが不安を紛らわすように集まり、アナーキーで刹那的な熱気が充満しています。その中で、ロックを演奏する「バスターズ」は大人気。リーダーのサチオ(石橋凌さん)はファンの女の子、まだ16歳のエリ(中川安奈さん)、をモノにして結婚、子どもが生まれます。

映画の後半は、自分のやってきたロックが時代遅れになってきている焦り、家族のためにお金を稼がないといけないという現実、そのせめぎ合いが痛々しいです。そんな焦燥感が爆発するのが、エリとサチオがキャベツをぶつけ合うシーンです。生活費を入れないサチオにエリが食卓にキャベツをどん!と置き「これしかないから」というと、頭に来たサチオが家を飛び出し、車一杯のキャベツを運んできてエリに投げつけるのです。

「生活」と「ロック」の二項対立ですが、僕はこれもまさに「ロック」だと思いました。だいたいが、「ロック」の母体である「リズム&ブルース」、さらにそのルーツである黒人音楽はそもそも厳しい労働を強いられる生活や、差別への呪詛や嘆きから生まれたものですからね。その後、エリがヴォーカルをやるようになり、「スージーQ」を喉から血が出るほど練習する様など、生活からにじみ出る「ロック」を感じさせました。

砂利を運ぶダンプの運転手となったサチオの手はすっかり労働者のそれになっており、もうベースは弾けません。「バスターズ」が再結成となっても、自分はマネージャーとなってステージで歌うエリの歌を楽屋で聴くだけです。それでも、この時の表情がいいんです。哀しみ、やりきれなさ、いろいろなものを受け入れて、それでも生きていく。そこにも「ロック」があると感じるラストでした、(ジャッピー!編集長)