ひとつ前の当ブログで書いたように、名著『アメリカ・インディアン悲史』(藤永茂さん著/朝日選書)の第1章は「ソンミ」ですから、ベトナム戦争における虐殺を「騎兵隊による先住民」に対するそれに重ね合わせていることは明白です。

というか、著者の藤永茂さんは九州大学の先生でしたが、1968年にカナダに渡っており、アメリカに近い所で「ベトナム戦争」にアンチの声をあげる大学生たちの運動や、その空気をリアルタイムで感じているのです。

「ソンミ村」の虐殺が起ったのは1969年3月ですから、そのときの「北米インディアン」たちの反応も日本にいるよりもずっと近くで響いていたでしょう。このベトナム住民に対する残虐行為が報じられた初期は、「戦地に送られたアメリカの若者たちがそんなことをするはずがない」というものだったといいます。ところが、一方では「北米インディアン」に出自を持つ人たちからは「白人たちよ、いまさらしらばっくれる気か!」というような声があがったといいます。

カナダに来るこういったことから、藤永茂さんは「インディアンの歴史」を調べるようになったそうです。なので、この本の中で、1830年代から先住民に「移住」を押し付けた白人政府と、それに抵抗する部族たちの戦い「セミノール戦争」を著者が「第一次ベトナム戦争」と書いているのは、本当の?ベトナム戦争から逆算して、あとから位置付けているからです。

そして、驚くべきは藤永茂先生は専門は「量子力学」というバリバリ理系の方ということです。それでも、九州大学におられた時には「エンタープライズ事件」を経験したり、当時の社会問題、それに声をあげる学生運動にコミットしておられたのでしょう。象牙の塔に引きこもって、別世界のように社会を眺めるような学者ではなかったことが「あとがき」からも分かります。

ちなみに藤永茂先生は『オッペンハイマー~愚者としての科学者』(藤永茂さん著/ちくま学芸文庫)という本も書いておられ、これも僕は読んでいたので、映画『オッペンハイマー』(2023 クリストファー・ノーラン監督)も何とか大筋は理解できました。時間軸が行ったり来たりするので、全く予備知識なしだったらさっぱり分からなかったと思います。この映画については当ブログ5月29日に書いていますので、ご参照ください。(ジャッピー!編集長)