このところの当ブログで、NHK朝ドラ『虎に翼』の5月10日放送回のことを書いています。

寅子(伊藤沙莉さん)が「私たちは怒っている」と、今まで共に勉強してきた仲間、そして「選択肢」があることすら知らない女性たちを思いながら「私たち」と主張するのは感動的でした。

その仲間たちと過ごした日々がフラッシュ・バックで映し出されますが、この週にはもう一つ印象的なシーンがありました。仲間たちで海に出かけたシーンです。戦争に傾いていく時勢の中、兄が特高に目をつけられるなどで、母国に帰らなければならない崔香淑(ハ・ヨンスさん)に、涼子(桜井ユキさん)が「あなたのお名前、お国の言葉で何と読むの?」と訊きます。崔香淑は砂浜に文字を書いて「チェ・ヒャンスクと読みます」と答え、涼子が「じゃ、ヒャンちゃんと呼んでいい?」という場面で、観ながら涙が出てきてしまいました。

夢をあきらめ、帰国しなければならない。不穏な時代の中、これから会えるかどうか分からない。それでも本当の名前を尋ね、ずっと気にかけているという思いが伝わってきます。国が違ったって、立場が異なったって、ちゃんと「名前」を知ることで、相手に関心を持ち、認め合い、思いを寄せること。それは「シスターフッド」を超えて、人間の尊厳にもつながると思います。

2017年前期の朝ドラ『ひよっこ』にはヒロイン・みね子(有村架純さん)の母親(木村佳乃さん)が、警察で出稼ぎに出たまま行方不明になってしまった夫(沢村一樹さん)を捜してくれと警察に頼むシーンも忘れられません。「よくあるんだ。多いからな」と冷たい態度に、木村さんは「私は出稼ぎ労働者をひとり捜してくれと言ってるんじゃないんです。ちゃんと名前があります。奥茨城で生まれ育った谷田部実という人を捜してくれとお願いしてるんです! ちゃんと名前があるのです!」と訴えるのです。

僕の大好きな映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016 ケン・ローチ監督)でも、貧困と格差の中で、必死に生きる市井の人に冷たい官僚的な対応しかしない役所に、主人公は「わたしは、ダニエル・ブレイクだ」と大きくスプレーで大書し、自分には名前がある、自分という人間がここにいる、と主張します。

決して「ワン・オブ・ゼム」ではなく、かけがえのない一人の人間なんだということ。アベ晋ゾー以来、この国にもっとも欠けている視点ですね。 (ジャッピー!編集長)