ひとつ前の当ブログで書いたように、『現代やくざ・血桜三兄弟』(1971 中島貞夫監督)で前年デビューしたばかりだった渡瀬恒彦さんは、共演した荒木一郎さんに刺激を受け「芝居にめざめた」とトークショーで語っていました。

中島貞夫監督も、荒木一郎さんの芝居についていけなくて渡瀬さんは結構リハーサルをしなくてはいけなかったとおっしゃっていました。

この『現代やくざ・血桜三兄弟』は、菅原文太さん主演の『現代やくざ』シリーズの一本で、当然ビリングのトップを飾るのは文太さんですが、思いのほか出番が少なく、しかも胃ガンという設定で元気もない感じです。冒頭、愛人の松尾和子さんがママをやっている店で飲んでいるのも酒でなくミルクでした。

そこに入ってくるのが小池朝雄さんで、大組織から派遣された「鉄砲玉」の役です。地元のヤクザを挑発してケンカの切っ掛けを作るために、あちこちに出没します。地元のヤクザ組 織の一員で「組織」の中で認められたい伊吹吾郎さんは小池さんを片付けてしまおうと前のめりですが、伊吹さんの兄(これが菅原文太さん)は「組織なんて、利用されるだけだ」と諫めます。文太さんの役は大学まで行って学もある人物で、一匹狼で細々と「お座敷ストリップ」なんかを仕切っています。伊吹さんはこの兄の弱腰に腹を立て「ブ タ野郎!」となじります。

渡瀬恒彦さんはこの兄弟の末弟を演じます。次兄の伊吹さんについて組のバッジをもらい競馬のノミ屋をやっています。この渡瀬さんが小池さんの挑発にのり、8000万円の穴をあけてしまいます。それで、小池さんを殺そうと動きだします。

というわけで、単純で一本気な末弟の渡瀬さんとその弟分の「モグラ」(荒木一郎さん)の閉塞感いっぱいの若者像が中心になっているのです。菅原文太さんは主演なのに、後景に引っ込んでしまっている感じです。撮影中、中島監督は文太さんに「お前、あっちばっかり撮ってるな」と言われたというエピソードもあるくらいです。

面白いのは、最後の殴り込みに「モグラ」も参加するはずが、緊張して立ち小便する間に取り残されてしまうのです。そこに野坂昭如さんの「マリリン・モンロー・ノーリターン」が流れたり、惨めでカッコ悪いアンチ・ヒーローの方に明らかに思い入れがあるところが、高倉健さんや鶴田浩二さんが主役をはった東映任侠映画とは全く違うテイストでした。

この映画が公開されたのは1971年11月。当時、健さんや鶴田さんの任侠路線は終焉が近く、密やかに、しかし確実に新しい映画の流れが始まっていたわけです。(ジャッピー!編集長)