3つ前の当ブログで、2011年8月27日(土)に渋谷の「シネマ・ヴェーラ」での「中島貞夫監督特集」初日に中島貞夫監督と渡瀬恒彦さんのトーク・ショーを観に行った話を書きました。その続きです。

座席を埋めた超満員の観客を前にして、渡瀬恒彦さんは開口一番、「凄まじく恥ずかしいですね」とおっしゃいました。既に書いたように、その日に上映された『鉄砲玉の美学』(1973 中島貞夫監督)に既に書いたように、予算がないから殺陣師も雇えず、アクション・シーンは俳優に任せられていたそうです。前日の撮影で手にガラスが刺さって病院で縫ってもらったばかりの渡瀬さんは翌日の川谷拓三さんとの殴り合いシーンを強行、途中で糸が切れてしまい、血だらけになったそうです。これから観られる方は、両手が血まみれの渡瀬さんの左手は「血のり」、右手は自前の「本物の血」ということに注目してください。

そういえば、荒木一郎さんは渡瀬さんについて、著作の中でこんなことを述べています。「渡瀬は本気でやるだけだからね。芝居っていうことより。土の中に埋まるなら、ほんとに土の中に埋まるし、酒飲んで吐くシーンなら、自分でほんとに一生懸命酒飲んでゲーゲー吐く。芝居っていうことよりも、それをいかにほんとにやるか、みたいなやつ。」(『まわり舞台の上で』/交遊社より)」

なるほど、たしかにその当時の渡瀬さんは「演じる」というより「その状況に置かれ本気になる」という感じでしたね。しかし、これでは例えば「殺される」役だと本当に殺されるような目にあわないとならないし、命がいくつあっても足りません。

荒木一郎さんは、スターであっても「自分の中に演出力がないと何も変わらない」というのが持論です。渡瀬恒彦さんは『現代やくざ 血桜三兄弟』(1971 中島貞夫監督)で、荒木さんと共演したとき、二人で芝居をするシーンで「刺激を受けた。芝居に目覚めた」と、トークショーでおっしゃっていました。

この『現代やくざ 血桜三兄弟』のお二人のシーン、渡瀬さんが血気みなぎらせ「川島(小池朝雄さん)を殺ってやる!」と息巻き、いつも下に見ているモグラ(荒木一郎さん)が「自分が川島を殺った」と言ってもてんで取り合わない場面、ここの演技のやり取りと呼吸、上のような裏話を知ってから観るとまた興味深いです。

その後、数々の男優賞を獲り、演技派となっていった渡瀬さんも、荒木さんとの出会いがひとつの契機となったわけですが、本当に人との出会いは大きいですね。その出会いをチャンスとして自分を変えれるかどうかは自分次第ではありますが。 (ジャッピー!編集長)