このところの当ブログで、2017年3月14日に72歳という若さで亡くなられた渡瀬恒彦さんのことを書いています。

渡瀬恒彦さんは亡くなる前の数年はテレビで活躍されていて、『十津川警部』や『タクシードライバーの推理日誌』など2時間ドラマシリーズや連続ものの刑事ドラマなど息の長いシリーズが多く、切れ目なく出演されていました。僕はテレビは観ていないのですが、『おみやさん』や『警視庁捜査一課9係』などは人情味あふれる刑事役だったといいますから、そういう作品で渡瀬さんのファンになった方が昔の東映映画を観ると、今の渡瀬さんの穏やかなイメージを覆されます。『狂った野獣』(1976 中島貞夫監督)や、『暴走パニック大激突』(1976 深作欣二監督)の渡瀬さんでも十分に驚くと思いますが、もっともショックを受けるのは『実録 私設銀座警察』(1973 佐藤純彌監督)でしょう。

戦後すぐの新橋、まだ闇市が残っている時代にふと知り合った4人の男たち(安藤昇さん、室田日出男さん、梅宮辰夫さん、葉山良二さん)が、それまで銀座を制していた待田京介さんと郷鍈治さんの兄弟を倒して「銀座警察」を名乗り銀座を支配します。ここまででも濃いメンツが出ていますが、渡瀬さんの演じる渡会という男は、全員を束にしても遥かに及ばないほどの強烈な存在感なのです。冒頭、自分の婚約者が駐留米軍の黒人のスケになっていて逆上した渡会はそのスケを殺し、混血の赤ん坊を窓から投げ捨てます。こうして鬼畜となった渡会はシャブ漬けにされて殺人マシーンとして利用されていきます。

銀座を制圧した4人ですが、当然のように分裂、抗争が始まります。室田さんと葉山さんが安藤さんを狙いますが、逆に室田さんが殺され、安藤さんが実権を握ります。梅宮さんは徹底した現実主義で、自分のやってるシノギだけをやれりゃいいと安藤さんと距離を置きます。(一応、安藤さんの弱みを握り“保険”をかけてる) 組織を作り上げ事務所を立ち上げ順調にボスになった安藤さんですが、可愛がってる部下の小林稔侍さんの結婚式場に現れた渡会に真正面から銃撃され死亡します。「よせ、渡会」と言いながらゆっくり近づく安藤さんの頭のド真ん中に飛んだ指が一撃というシーンはインパクトあり過ぎです。

ビリングのトップで主役の安藤さんが映画の途中で死んでしまうという展開、「天皇陛下だって毛唐の親分にヘイコラしている時代だぜ!」という過激な台詞などもありますが、渡瀬さん演じる人間凶器の前にはかすみます。映画の中盤、渡会は何発も撃たれ生き埋めにされ、どうみても死ぬようなシチュエーションなのにゾンビのように蘇るところなんかそこらのホラー映画を超えてます!

ラストは、ようやくトップに立った葉山さんと梅宮さんに警察の手が迫り、「俺たちゃ世間の奴らが食えないでヒーヒー言ってるときに好きなことやったんだ。最後もパーッとやろうぜ!」と一挙に金をばらまいての大乱交パーティ。その乱痴気騒ぎから抜け出した渡会が流しのタイルの上でヤクを打とうとして吐血、その死にざまで幕を閉じます。

『二十四の瞳』(1954 木下恵介監督)や『東京物語』(1953 小津安二郎監督)とは何万光年も離れた日本映画の極北。石川力夫を演じた『仁義の墓場』(1975 深作欣二監督)の渡哲也さんとともにこの映画の渡瀬さんの狂気あふれる演技、映画史上の疫病神の両横綱といっていいでしょう。     (ジャッピー!編集長)