このところの当ブログで、ペギー葉山さんが歌い大ヒットした「南国土佐を後にして」のことを取り上げていました。

この曲をフィーチャーした映画『南国土佐を後にして』(1959 斎藤武市監督)の予想を上回るヒット作となり、『渡り鳥』シリーズ(1959~1962 斎藤武市監督ほか)の原型となり、小林旭さんは一気にスターの座に駆け上がりました。

ずっと時代が下がって、この「南国土佐を後にして」の歌が印象的に使われた映画に『狂った野獣』(1976 中島貞夫監督)があります。

銀行強盗に失敗したドジなチンピラがバスジャックすると、その路線バスには宝石泥棒をした元・テストドライバー(渡瀬恒彦さん)が乗っていて……という日本映画史上、もっとも面白い映画のひとつです。この映画のために大型免許を取得して、スタントなしで実際にバスを横転させるという渡瀬さん狂気に近い役者魂が目撃できます。また、渡瀬さんは、宝石をバスに残してしまったため、一度降りたバスを走って追い、自転車をこぎ倒し、ラストは湖を泳ぐ、という一人トライアスロン状態で、まさに体を張った熱演です。

そして、負けずに熱のこもった演技を見せるのが、バスジャックのチンピラ・コンビの川谷拓三さんと片桐竜次さんです。行きあたりばったりにジャックしたものの、警察にも追われ、もう逃げきれない状況になり、川谷さんは相棒の片桐さんに「なあ、もうやめようや、俺たち今まで何もエエ目みてないんやから……」と言い、ほとんど半泣きで搾り出すような声で「南国土佐を後にして」を唄うのです。

この高知出身のチンピラという役を越えて、自身も土佐っぽである川谷さんの長い下積み時代の思いが叩きつけられているようでした。役のチンピラと、拓ボン本人の郷愁がシンクロし凝縮したような「南国土佐を後にして」で、忘れられない名シーンでした。

川谷拓三さんは「ピラニア軍団」の一員として『前略おふくろ様』などお茶の間でも人気者になりましたが、1995年12月22日、54歳という若さで亡くなってしまいます。一方、片桐竜次さん(何と、キース・リチャーズさんに似ていたことか!)は現在も活躍中です。刑事ドラマで、警察のエライ人の役をやっているのを見ると『狂った野獣』からずいぶん長い時が経ったことを思い知らされます。(ジャッピー!編集長)