ひとつ前の当ブログに書いたように、小林旭さんの人気が確立した『渡り鳥』シリーズ(1959~1962 斎藤武市監督など)、同時期に並行して作られた『流れ者』シリーズ(1960~1961 山崎徳次郎監督)、そして『賭博師』シリーズ(1964~1966 牛原陽一監督など)の5作目までは、主人公の名前が違うだけで、ほぼ同じような展開のストーリーです。

小林旭さん演じる主人公の名前は『渡り鳥』シリーズでは「滝伸次」、『流れ者』シリーズでは「野村浩次」、『賭博師』シリーズでは「氷室浩次」です。ちなみに『渡り鳥』シリーズ最終作『渡り鳥故郷に帰る』(1962 牛原陽一監督)のみ、主人公の名前が「滝浩」で、ヒロインもこの1本のみ浅丘ルリ子さんではなく笹森礼子さんなので、この作品をシリーズに含まない説?もあります。

これらの主人公の名前が「伸次」「浩次」と「次」がつくことから、この主人公は次男であろうという解読がなされました。劇中では語られませんが、農家の次男坊で家を継げずに飛び出して放浪しているというわけです。つまり、時代劇の「股旅」ものによく見られる出自じゃないかという説です。そういう意味で、「無国籍アクション」と言われたこれらの作品は、「西部劇」だけでなく日本的な「股旅」ものの遺伝子も受け継いでいるといっていいかもしれません。

『渡り鳥』シリーズがヒットしたのは、ちょうど、高度経済成長期にさしかかって、地方から労働力が都市に多く流入してきたことも関係があるでしょう。集団就職を描いた『一粒の麦』(1958 吉村公三郎監督)なんて作品もちょうど同じころだし、地方の中学を出た若者が集団就職列車に乗ってきて、上野駅で雇い主たちが待っているなんて光景は、朝ドラ『ひよっこ』でも描かれていました。

『ひよっこ』のように、東京だと、墨田区とか荒川区といった下町の工場の労働力として、地方から出て来た多くの若者たちが『渡り鳥』シリーズを観て、めったに帰れない故郷の風景や祭りなどを思い出していたのだろうと思います。そういった観客を集め大ヒットとなったんじゃないかと思います。

まだ日本の中に「遠く」があったから、小林旭さん扮する渡り鳥は、あちこちに現れ、そして去っていったのでしょう。シリーズの原型になった『南国土佐を後にして』(1959 斎藤武市監督)の高知に始まって、『渡り鳥』シリーズになってからも、函館、宮崎、佐渡、会津、摩周湖、長崎、函館、高松と各地を舞台にしています。中には『波濤を越える渡り鳥』(1961 斎藤武市監督)という香港、バンコクまでロケに行った作品もありますが。(ジャッピー!編集長)