このところの当ブログで鈴木清順監督のことを取り上げています。既に書いたように、「清順美学」の起点とされるのは一般的に『野獣の青春』(1963 鈴木清順監督)で、その大胆な色彩の使い方が映画ファンをうならせたのでした。

鈴木清順監督は日活に在籍していながら石原裕次郎さんの主演作を撮っておらず、ご自身でも「メイン」じゃない立場だったようなことを自虐的に言っていましたが、小林旭さんの映画は撮っています。『野獣の青春』と同じ年に公開の『関東無宿』(1963 鈴木清順監督)では、主人公の小林旭さんが悪玉の賭場で数人を斬ると、その瞬間に背後の襖が一斉に倒れて真っ赤なホリゾントの背景になる有名なシーンがあります。僕が昔「文芸地下」で観たときも、もちろんこのシーンで拍手が起こりました。さながら、歌舞伎で役者が見得を切ると「成駒屋!」とか声がかかるのと同じです。

そういえば、『ツィゴイネルワイゼン』(1980 鈴木清順監督)や『陽炎座』(1981 鈴木清順監督)で注目をあびたとき、よく「清順歌舞伎」という言い方をされましたがまさにその通りです。ですから、清順監督の映画はストーリーを知っていても何度も観たくなるのです。演じる役者の「キメ」の場面、その演出を楽しむところは歌舞伎と同じですね。

こういった清順監督の影響は当然、波及します。当ブログ4月3日にも取り上げた『女番長 野良猫ロック』(1970 長谷部安春監督)では、和田浩治さんがケン・サンダースさんに依頼したボクシングの八百長が成立しなかった瞬間にそれぞれの思惑を持った登場人物のバックが突然原色になったり、時間経過を示す文字がグリーンやピンクの画面で明滅したりします。

さらにシリーズ第3作『野良猫ロック セックスハンター』(1970 長谷部安春監督)では、藤竜也さんが岡崎二朗さんを撃つシーンの左右にスプリット処理した画面が有名です。たしか、第4作の『野良猫ロック マシンアニマル』(1970 長谷部安春監督)にも上下にスプリットした横移動シーンがありましたし、細かいカットバックなどもありました。

長谷部監督がこうして技巧を凝らしていたのは『くたばれ悪党ども 探偵事務所23』(1963 鈴木清順監督)や『野獣の青春』などに助監督でついているからでしょう。昔、映画会社が製作していたときは「助監督」制度が「技術」を継承する役割を果たしていたのだなあとあらためて思ったのでした。(ジャッピー!編集長)