ふたつ前の当ブログで、2019年の年末にNHK『井上陽水50周年SP 名曲選1969-2019』で歌われたデビュー曲「カンドレ・マンドレ」について、歌っている陽水さんの姿を映像で観るのは、『女番長 野良猫ロック』(1970 長谷部安春監督)以来と書きました。

このことについては、当ブログ2021年6月28日に書いていますので以下に再録します。タイトルは「『女番長・野良猫ロック』、モップスとアンドレ・カンドレ(井上陽水さん)」です。

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ひとつ前の当ブログで、『野良猫ロック 暴走集団’71』(1971 藤田敏八監督)で、モップスがストーリーの文脈に関係なく、突然トラックに乗って「御意見無用(いいじゃないか)」を演奏、アナーキーな空気を盛り上げたことを書きました。

モップスは『野良猫ロック』シリーズの第1作『女番長 野良猫ロック』(1970 長谷部安春監督)にも登場します。梶芽衣子さんらのグループがたむろするゴーゴー喫茶で「パーティシペイション」を演奏、和製エリック・バードン(アニマルズ)と呼ばれた鈴木ヒロミツさんの熱いヴォーカルを披露します。さらに「ボーイ・アンド・ガール」を歌唱する和田アキ子さんのバックもつとめます。

 この『女番長 野良猫ロック』は、「ホリプロ」が日活と提携して製作した作品です。和田アキ子さんを売り出そうと主演にすえ、実際に三宮でブイブイ言わせていたというアッコさんの柄を活かして企画されたのです。なので、当時「ホリプロ」に所属した「モップス」も出演し、アッコさんとのコラボが実現したわけです。このとき20歳!のアッコさんのパンチのきいたヴォーカルもスゴイです。

さらに「オックス」(赤松愛さん脱退後でキーボードは田浦幸さん=のちの夏夕介さん)、「オリーブ」といったGSが登場しますが、これらはゴーゴー喫茶の喧騒の中で演奏されます。ただひとり、静まり返った店の中で歌うのが「アンドレ・カンドレ」さん、のちの井上陽水さんです。映画の終盤あたり、新宿の街を包囲されてアッコさんや芽衣子さんたちがゴーゴー喫茶で身動きとれなくなっているとき、おもむろにフォーク・ギターを手にして唄い出すのが「カンドレ・マンドレ」という曲です。曲調はサイモン&ガーファンクルといった感じで、ちょっとメルヘン調の歌詞はのちの「夢の中へ」を思わせ、クリアな歌声とともにすでに「陽水」です!

「アンドレ・カンドレ」の名前で「ホリプロ」に所属していた陽水さんは全く売れなかったわけですが、ここで「モップス」と出会ったことは大きかったのです。特に、「モップス」のギター担当・星勝さんは「井上陽水」と改名して出したファースト・アルバム「断絶」から編曲を手掛け、1974年にはついに「氷の世界」というミリオン・アルバムにつながっていきます。僕もこのアルバム、発表当時買いましたが、たしかにアレンジがスゴイ!と思いました。タイトル曲の「氷の世界」なんてスティーヴィー・ワンダーみたいでカッコよかった!

こうして押しも押されぬアーティストとなった陽水さんですが、もし「ホリプロ」で売れていたらまた違った運命になっていたかもしれません。「ホリプロ」所属のアイドルの曲を書いていたりして。

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この映画のときは、その3年後に日本初の「ミリオンセラー」LPを出すことになるとは本人も思っていなかったでしょうね。(ジャッピー!編集長)