当ブログ3月14日~15日に、中村敦夫さん主演の『木枯し紋次郎』について取り上げました。市川崑監督が中村敦夫さんと面接したときのエピソードについても書きました。

市川崑監督がこのテレビ時代劇の監修を引き受け(何本か監督作も)、ATGで撮る作品の製作費を捻出します。ATG(アート・シアター・ギルド)は「1000万円映画」を看板に始まり、監督が既成の映画会社を離れ自由に「作家性」を発揮する場でした。多くの有名監督がATGと提携して作品を発表していました。そこで市川崑監督が撮ったのが『股旅』(1973 市川崑監督)です。市川崑監督の中でこの映画の構想がいつ頃からあったのか分かりませんが、『木枯し紋次郎』は予行演習というか、明らかに『股旅』につながっています。

『股旅』は萩原健一さんが主演。実は、『木枯し紋次郎』も当初は沢田研二さんを紋次郎役に考えていたそうなんですが、当時トップスター歌手のジュリーをただでさえ時間のかかる時代劇で半年も拘束とはできなかったそうで、諦めたのです。ショーケンはもうこの頃は本格的に俳優業を初めていましたが、ジュリーで果たせなかったことを今度はショーケンを起用して映画で、と考えたのかもしれません。

萩原健一さんの他に小倉一郎さん、尾藤イサオさんが演じる渡世人トリオが主役ですが、それまでの時代劇にあったようなヒーロー像ではなく、むしろカッコ悪く、ボロボロの着物でみじめに彷徨う落ちこぼれです。『木枯し紋次郎』の紋次郎(中村敦夫さん)がちゃんとした型もない「立ち回り」だったように、この3人も素人丸出しで刀を振り回します。市川監督は撮影時、この3人に「勝手に歩け」など、細かい注文をつけず、まさに「渡世人」のように放っぽりだしたのです。3人がオロオロする感じがリアルなのは、そういう「放置」演出が功を奏したのでしょう。

子役出身で、既に何本か映画出演のキャリアがあった小倉一郎さんは自分には「時代劇」は無理だろうとオファーを断ろうと思ったそうですが、市川崑監督は「Gパン履いて歩くようなつもりでいいんだから。僕は時代劇を撮ろうとは思っていない。これは現代劇なんだ。普通でいいんだよ」と言ったそうです。それで、小倉さんは出演することに決めたのです。

『反逆のメロディー』(1970 澤田幸弘監督)で、原田芳雄さんがオファーを断ろうと「Gジャン、Gパンのままでいいか」と面接で言ったら、澤田監督がOKを出し「これはヤクザ映画の形をかりた青春映画なんだ」と語った話と似たものがありますね。(ジャッピー!編集長)