このところの当ブログで、かつては多くの洋画に独自の日本語タイトルがついていたという話を書いています。

ふたつ前の当ブログで触れた『真夜中のカーボーイ』(1969 ジョン・シュレシンジャー監督)も、英語的にはCOWは二重母音ですから「カウ」が正しいわけです。カウボーイジェイムズ・レオ・ハーリヒーさんによる原作は『真夜中のカウボーイ』という表記でハヤカワ文庫NVで出ています。

ですが、この映画はテキサスからカウボーイの恰好で出て来たジョー・バック(ジョン・ヴォイトさん)が主人公の一人ではあるけれど、ニューヨークが舞台ですから、車が走る都会をイメージに入れこみ、あえて「カーボーイ」と表記したのです。この邦題をつけたのが当時、映画会社の宣伝担当をしていた水野晴郎さんと言われています。

20世紀フォックスの日本支社、ユナイト映画と数多い作品を宣伝した水野晴郎さんは何本もの洋画に邦題をつけています。イングリッド・バーグマンさんがユル・ブリンナーさんと共演した『追想』(1956 アナトール・リトバーグ監督)も水野さんがつけました。原題は「アナスタシア」というもので、宣伝部では「アナスタシア姫」という題名でいく予定でしたが、水野さんはバーグマンさん演じるアナスタシアには「姫」というイメージが合わないと主張、『追想』というシンプルでロマンチックな題名を推したのだそうです。

水野晴郎さんがいちばん思い出に残っているタイトル自信作は『史上最大の作戦』(1962 ケン・アナキン監督など)だとどこかで話していたのを覚えています。原題は"The Longest Day"ですから、直訳すれば「いちばん長い日」ですが、オールスター・キャストによる大作であることを強調したくて「いちばん長い」を「史上最大の」にしてスケール感を出したということでした。映画は大ヒットし、まさに「映画史上」に残る邦題になったと思います。余談ですが、僕は子どもの頃に観ていたアニメ『花のピュンピュン丸』に「史上サイテーの作戦」という回があり大爆笑しましたが、このタイトルも水野さんのつけた『史上最大の作戦』がなかったら存在しなかったかもしれません。

水野さんは『007』シリーズにも関わっていますから、第2作『007/危機一発』(1963 テレンス・ヤング監督)も本来なら「危機一髪」が正しい漢字表記のところ「危機一発」としてスパイ映画らしく銃弾のイメージを加味したのも水野さんのアイデアだったかもしれません。この『007/危機一発』は現在は『007/ロシアより愛をこめて』、第1作の『007は殺しの番号』(1962 テレンス・ヤング監督)も現在は『007/ドクター・ノオ』というタイトルに変更されています。いずれも原題に忠実に付け直したものですが、僕としてはせっかく知恵をしぼってつけた最初の邦題で良かったと思います。

水野さんは映画宣伝担当の時代、「とにかく、その作品に惚れて惚れて惚れ抜くこと。それによってその映画の面白さを他の人にも伝えることができるはず」と思って取り組んでいたそうです。「いや~映画って本当にいいものですね」というのは心からの言葉だったのでしょう。(ジャッピー!編集長)